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嘘つき女神と0点英雄  作者: 海蛇
2章.オルレアン村編2-Boy Meets Girl-
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#7.使えない黒猫娘が仲間になった!


「――つまり、あんたはさっき川に入ろうとしてた黒猫だったって事か?」

「ええ、その通りです。(にわ)かには信じられないかもしれませんが……」


 川岸の岩場に腰かけていたカオルは、ぶかぶかのシャツを着て、今しがた説明を終えた少女の顔を見ながらに、「うーん」と、難しい顔をしていた。

少女の容姿を、今一度見る。


 まず、肩ほどまでの黒髪は黒猫時代を思わせるもので、その瞳は猫時代と同じく赤く、ぱっちりとした釣り目で愛らしかった。

顔だちも、ピシッとしていれば線の整った美形。

体型は小柄ではあるものの最低限出るところは出ており、シャツを着ていても浮き出る凹凸に、カオルも思わずどきっとしてしまう。

一見して華奢(きゃしゃ)な印象を受けるが、それでも尚目を引くのは人と明らかに違う、頭部に生えた獣のような耳。

それから、腰の下あたりから生えている黒い尻尾だろうか。

どちらも猫のそれをそのまま大きくしたような感じであったし、話している間も自然に動いていたのを見たので、カオルも「これ、アクセサリーじゃないんだよな」と、彼女の身体の一部なのだと認識していた。


「それと、『あんた』っていう呼び方は勘弁してください。私には『サララ』っていう呼び名があるって、さっき言ったじゃないですか」


 ぷりぷりとしながらカオルに注文を付ける猫耳少女――サララ。

流石に裸のままだと話しにくいからと、カオルが自分のシャツを貸してやったのだが……これがサララにはサイズが大きかったのか、都合よく必要なところまで隠れてくれていた。


「ああ、悪い……サララ」

「はい♪」


 それでいいのです、とにっこり微笑むサララ。大変愛らしかった。


「それで、呪いで猫になってたのは解ったけどさ、その……耳とか尻尾とかって、なに?」


 聞いて良い事なのか解らないのだが、知らないままでは何なのか解らないままなので、迷いながらもカオルは聞いてみた。

怒らないといいなあ、と内心怖がりながら。

カオルは、女の子相手ではビビりだった。


「うに? 耳と尻尾……?」


 言われて、視線を上へと向け――それから、自分の尻尾を見つめる。

そうして勝手に納得し、ぽん、と手を打つ。


「ああ、そっか。知らないんですね。私、さっきのやり取り(・・・・・・・・)でてっきり知ってるモノと」

(やっぱ動くんだよなあ、これ)


 この間、カオルは感情豊かに動く耳やら尻尾やらに妙な感心を抱いてしまっていた。

そのおかげか、サララの言っている事は聞き流していた部分多々であったが。


「――こほん。私は獣人と呼ばれる亜人種の――『猫獣人』という種族でして。見ての通り、人間の体に猫の耳と尻尾がついています」


 可愛いでしょう? と微笑むサララ。

なるほど、確かに可愛らしいと感じてしまい、カオルは「ああ、そうだな」と素直に感想を伝えた。


「えへへ。ありがとうございます。獣人って、地域によっては見たことない人がいるらしいですし、やっぱりカオル様もそうなんですよね? 普通の人間と違っちゃってて、やっぱ変ですか?」

「いや……いいんじゃないかな。俺はありだと思うぜ」


 確かに人とは違うが、それが特別な事ではなく、そういう種族なのだと言われれば、カオルはなんとなくでも受け入れられた。

ゲームやアニメなんかでもそういう登場人物がいたりするし、何よりとてもファンタジーじみていたから、違和感もなかったのだ。

それに何より。

このサララという女の子が、小動物的でとても可愛いのだ。


「……カオル『様』?」

「どうかしましたか?」

「いや……」


 話の中、なんとなく違和感があったので聞いてみたのだが、サララは何食わぬ顔なので、カオルはそれ以上聞けなかった。



「でも、呪いで猫化って洒落にならんな……そのせいで五年も猫のままだったんだろ?」

「ほんとですよもう。頭おかしくなるかと思っちゃいました」


 説明された中で、一番カオルが怖いと思ったのは、サララが猫になった経緯だった。


 ハンターとして旅をしていたサララは、ある日突然、悪魔によって呪いを掛けられ、猫にされてしまったのだという。

それが五年前。五年間も、元に戻る方法も解らず、猫として暮らしていたのだ。

さっきは驚きのあまり忘れてしまっていたらしいが、服も猫になった時にその場に落ちて、恐らくはそのままになったのだという話である。


「さっきのおっさんは何だったんだ? 俺、てっきり飼い主か何かかと思ってたんだけど」

「ややや、やめてくださいよそんな気持ち悪い!」


 そんな事言わないで、と、目をぎゅっと閉じて手をワタワタと前に出し否定するサララ。


「猫になったところを誘拐されて、猫可愛がりされてたんですよ」


 どうやらただの猫好きのおっさんだったらしい。

カオルもよく解らず倒してしまったが、「悪いことしたなあ」と、ちょっと罪悪感を抱いてしまう。

だが、サララは顔面蒼白になり、俯いてしまっていた。


「――すごく気持ち悪かった。毎日猫なで声で話しかけてくるし、毎朝頭なでながらブラッシングしてくるし……腰とか触る手つきいやらしかったし。なんか寝る時裸になってたし。最初は猫の姿のまま犯されるのかと思いましたよ」


 どうやらサララにとって、猫として生きた日々は相応のトラウマになっているらしかった。

ガタガタと震えて両肩を抱きしめ、若干鼻声にもなっていた。


「……そっか、辛い思いしたんだな」


 普通に猫として可愛がられていただけのようにも思うが、カオルも自分で想像して「確かにあのおっさんの猫にはなりたくないな」と、頷いてしまっていた。

案外、猫と飼い主なんてものはこのような感覚なのかもしれない、とも。

因みにカオルは犬派だった。




「とにかく、私は貴方のおかげで救われました! 自由になったのです!!」


先程までの鬱屈とした表情とは打って変わって、ハイテンションで「私、自由!」と万歳するサララ。元気だった。

背が低いのでよりコミカルに見えて、カオルはつい笑ってしまいそうになる。


「――という訳で、恩返しさせてください」


 そうして、じ、とカオルの瞳を見つめるサララ。


「……恩返し?」

「はい」


 カオル的に、童話だとか感動名場面集なんかでしか聞かないような言葉に、つい耳がぴくりとなる。

サララはというと、小さく首を傾げながら、カオルの様子を窺っているようだった。

それから、カオルが何も言わないのを見ると、サララの方から口を開く。


「猫獣人は、受けた恨みは100倍にして返しますけど、受けた恩も3倍くらいにして返すものなのです」


 きっちり返します、と、若干ドヤ顔になりながら。

カオルはカオルで「恨みに対して恩返しの比率小さくねぇ?」と思いはしたが、それは口に出さずにいた。


「とにかく、お役に立ちますよ、私」


 あまり大きくはない胸を張りながら、サララはにっこりと微笑む。

それならば、と、カオルは少し考え、問うてみた。


「何か料理とか作れるの? 得意料理とかは?」

「ごめんなさい私お料理とかはちょっと苦手で――」

「洗濯とかは?」

「前に試したことありますけど洗濯と乾燥で五着ダメにしたことがあります」

「掃除とか裁縫とか」

「我が家では掃除と裁縫はメイドのお仕事ということになってました」

「……」


 見事にダメな娘であった。駄目娘である。

ぐんにゃりとしながら、「でもこいつ食べるの好きそうだよなあ」と、なんとなくイメージで食べる姿が浮かび、それが似合っている事に気づく。


「食べることは?」

「大好きです! ミルクとかお魚使った料理が特に好き!」

「寝ることは?」

「すごく好きです! 陽の当たるところならどこででも寝られちゃいます!!」

「遊ぶのとか……」

「好きすぎて家庭教師の宿題忘れるくらい好きです!!」


 紛うことなき駄目猫であった。駄猫である。

少なくとも何かの役に立ちそうな気配は、今の問答からは全然伝わってこなかった。


(ていうか、むしろ足手まとい……?)


 恩返しという名目で寄生したいだけなのではないかとすら思えてしまう。

可愛い女の子だからそれでも許せてしまいそうなのがカオル的に辛かったが、ここは心を鬼にするべき場面であった。


「よし、強く生きろよ」

「いやいや待ってください!」


 爽やかな笑顔のまま立ち去ろうとしたカオルだったが、ぐ、と掴まれてしまう。

か弱い手だった。力なんてほとんど感じさせない、少女の華奢な手である。


「私、役に立ちますよ?」

「何の役に立つんだ何のっ」

「……うーん」


 自分で何の役に立つのかも考えていないらしかった。

何たる短絡。何たる考えなし。カオルは絶望した。


「一人で強く生きてくれ」

「まあまあそうおっしゃらず」

「大体俺は貧乏なんだ。生活苦なんだ。明日の食料も厳しいんだ」

「なら私と一緒に食料を獲得しましょう! 大丈夫! 私、これでも結構素早いですから! ネズミとか捕れます!!」


 人間に見える部分以外全部猫なんじゃないかってくらいに、サララは猫アピールしていた。

だが、カオルは別にそんなものに魅力を感じられるほど猫好きでもなかった。犬派だし。


「ネズミ肉はちょっと……ていうかついてくる気満々なのか」

「それはもうもちろん。きちんとカオル様に恩返しするんですから!」


 サララは恩返しする気満々であった。

カオル、げんなり。


「……ていうか、その様付け、やめてくれねぇかな」


 さっきは気のせいかと思ったものだが、実際様付けだったのだ。

元の自分の年齢からみても年下っぽい少女からの様付けに、つい背筋がかゆくなる。


「なんでです? 自分を助けてくれた恩人ですよ? 様付けするくらいは当たり前では?」

「いや、それはそうかもしれないけどさ……別に、『カオルさん』でもいいし」

「良くありません! それじゃ敬意が伝わりませんし! なんか変です!!」


 そしてサララは変な方向に強情な娘だった。

一歩も引く気配がない。譲る気などさらさらなさそうであった。


「さ、そんなつまらない事はおいといて、カオル様の村に行きましょう。さあさあ!」


 早く歩いてください、と、勝手に立ち上がってカオルの背を押し始めるサララ。

思わず流されそうになり歩き出してしまうカオルだが、「おいちょっとまて」と足を止める。


「ていうか、俺、サララを助けたつもりなかったんだけど?」

「何を言いますか。偶然でも助かって呪いが解けた。その場に貴方がいた。それだけで十分です」


 カオルの疑問など何でもないかのようにさらっと流し、サララは促す。


「いや、でも……って、おい押すなよっ、おいっ――」


 結局カオルは抗う事が出来ず、この猫耳少女と共に村に戻る事となってしまった。 


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