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嘘つき女神と0点英雄  作者: 海蛇
9章.ラナニア王国編1-混沌してゆく世界-
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#30.ポンコツに権限を与えるとこうなる


「――お前はアホか!?」

「ひゃん!?」


 世界の果て。凍てつきし大地の魔城は、着実に建設が進み、かつての姿を取り戻しつつあった。

多くの魔族や魔物が尽力し土木や削岩に汗水流す中、怒号が響き渡り、皆一様に視線がそこ(・・)へと向いた。


 視線の先に居たのは、二人の魔人。

一方は、魔人の中でも特に魔王とバゼルバイトの覚えのよい覆面の魔人へグル=ベギラス。

そしてもう一方は……このベギラスの怒声に驚き尻もちをついている金髪の魔人レイアネーテであった。

覆面の為眼元しか見えていないが、それでも尚、ベギラスの濃緑色の瞳は刃の如き鋭さを見せ、レイアネーテを圧倒する。


「貴重なオーガ族を湯水のように使い、ラナニア侵攻を企てただと……?」


 ベギラスの怒りの原因は、レイアネーテの軽率な行動にあった。


 オーガ族は、魔族の中でも決して強い訳ではないが、体力と力に優れ、そして魔族でも珍しく協調性豊かな種族の為、古来より魔王軍本隊の部隊間折衝役や魔物部隊の前線指揮官として扱われていた。

前回の魔王敗北から近年に至るまで、その数は人間達の国家間では数える程度にしか発見されていなかったが、それは人の目に当たらぬ秘境や洞窟などで魔王復活までの間雌伏(しふく)し、時が(きた)るを待っていたにすぎない。

彼らの魔王や魔人に対しての忠誠心は魔王軍でも屈指の為、魔王復活の際にはどの種族より早くこの地に駆けつけたほどであった。


 そんなオーガ族の大半を、レイアネーテはラナニア侵攻という、さほど急ぎでもない攻め戦に用いたというのだ。

本来なら来るべき人類国家の撃滅の為、部隊を率いて大暴れしてくれるはずの貴重な前線指揮官を、である。


「で、でも、ラナニアはこの大陸内では最強の陸軍国! ここを潰す事が出来れば、私達の実力を、魔王陛下ご復活の威光を人間達に見せつける事が出来るでしょう!?」

「そんな事をして何になる!? ろくすっぽ準備も整っておらん今の状況でこの大地に勇者が来てみろ!? 覚醒も半ばの陛下が、またぞろ勇者に殺されるのを見たいのか貴様は!?」


 ベギラスの怒りは、どちらかといえばこちらに集約されていた。

魔王は復活し、魔人も主だった者が集結した。

魔族も集まり始め、確かに戦力面では、少しずつではあるがかつての勢力を盛り返しつつある。

だが、まだ肝心の拠点となる『魔王城』は再興されておらず、長期的な戦をするための備えも全くできていない。

兵糧(ひょうろう)も、拠点を守るための支城や砦も、魔族らが生活する為の街すらも、何一つ復興できていないのだ。

これでは、仮に大国一つ攻め落とせたとて、人類国家が協調して軍勢を送り込んだり、勇者が攻め入ってきた際に対応ができない。

軍勢とは、それを支える拠点と兵糧、それらを繋ぐ兵站(へいたん)があって初めて活きるものなのだから。


 つまり、今回のレイアネーテの行動は、いたずらに人類国家に警戒心を与え、場合によっては準備が整い切る前に敵の襲来を迎える元凶ともなりかねない勇み足だったのだ。

レイアネーテも、ベギラスに指摘され始めてその可能性に気づき、頬に汗を流す。

だが、それで押し黙るようなほど、レイアネーテは空気を読める子ではなかった。

曰く、『バカほど反論しようとする』。


「え、えっと……で、でも、とりあえずラナニアは潰せるわ! ラナニアを潰して、オーガ軍を一旦引き上げさせてからここの守りを固めれば――」

「――話し中悪いけど、ちょっといい?」


 更なる一言にベギラスが再び怒声を浴びせようかと震えていたが、しゅ、と左手を小さく挙げながらに割り込んできた銀髪の少年に意識が向き、「む」と、熱くなりかけていた頭が冷えていった。

対照に、言い訳を重ねようとしていたレイアネーテは、この少年の割り込みにムッとして頬を膨らませる。


「何よメロウド? 私、ベギラスと大切なお話してるんだけど?」

「その大切なお話に関係ありそうなことだから割り込んだんだけどね」


 むくれるレイアネーテなどお構いなしに、銀髪の魔人メロウドはベギラスの正面に立つ。


「……続けろ、何か変わった事があったのだな?」

「うん。ラナニア方面ね。何かあったみたいだからバゼルバイト様から偵察を申し付けられて色々見に行ったんだけどさ、面白いことが起こってた」

「ラナニア陥落でしょう? 二千のオーガの軍勢が一気にゴリアテ要塞とラナニア城を撃滅していく迫力のシーンが――」


 ラナニアの面白い事と聞き、レイアネーテはてっきり自分の采配が上手く行き、ラナニアが崩壊したのだろうと拳を握りながらに上機嫌で語っていたが。


「オーガ軍? スライム相手に壊滅してたけど?」


 メロウドはしかし、そんなレイアネーテの言葉を冷めた目で完全否定した。


「……え?」


 想定外の一言に、「何言ってるのこの子」みたいな唖然とした瞳で首をかしげてしまう。


「……たっ、はー……っ」


 ベギラスは深くため息をつき、頭を抱えた。


「えっ、あのっ、壊滅って? スライムって、どこからでてきたのよ?」


 ようやく状況を飲み込み始めたレイアネーテ。

つとつととなんとか原因を把握しようと、だが「できるなら嘘であってほしい」という儚い願望もない交ぜの、乾いた笑顔でメロウドをじ、と見据える。

が、メロウドは無表情を崩さない。


「スライムの出所は知らないけどさ。なんか、オーガが出てくる魔法陣の上で待ち構えてて、出現した端から喰われてたよ? まあ、最後まで見てた訳じゃないから、いくらかは免れたのもいるかもしれないけどさ」

「魔法陣の上に!? なんで!? どういう事なの!?」


 説明を聞いて尚理解できないレイアネーテ。

説明を聞いて把握したベギラスは、目元を抑え「ああああ」と単調な声を途切れることなく発し続け。

全身を、わなわなと震わせていた。


「……ま、そんな訳だからさ。レイアネーテ」

「な、何……?」

「ご愁傷様」


 じゃ、と、耳を抑えながら走り出すメロウド。

その小柄な体躯はまるで幻影の如く消え去り、後に残すは、怒りに震えるベギラスばかり。

そしてその姿を見て、レイアネーテは理解した。

――あ、爆発する。と。


「レイアネーテ、貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

「ひゃぅんっ!?」



 こうして、魔王軍は人知れず弱体化し、復興の時はさらに遅れる事となった。

 


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