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嘘つき女神と0点英雄  作者: 海蛇
9章.ラナニア王国編1-混沌してゆく世界-
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#24.魔法使いを求めて


「占い師だって?」


 レナス・カリツ伯爵の館にて。

魔法陣の対処について、有益な情報がないものかと考えていたカオル達の元に、ゴートより情報が寄せられたのは、スライムの一件から二日後のことであった。

その日も伯爵の館で情報収集に努めていたカオル達であったが、丁度伯爵を交えての昼食の折、街中で情報収集に当たっていたゴートが、変わった噂についてカオル達に話してくれたのだ。


「ええ、なんでもよく当たると話題だそうで……北の方からきた占い師らしいんですけどね」

「占い師なあ」

「占い師ですかぁ」


 既に占い師で一度苦い記憶のあるカオル達は、どうにもそのフレーズを素直に受け取れず。

ゴートの話にも最初こそ興味津々な顔をしていたが、すぐに苦笑いと共に食事の手が止まってしまっていた。

二人の様子の変化に目ざとく気付いた伯爵が、口元をナプキンで拭きながら口を開いた。


「君達は、占い師に何か嫌な思い出でも?」

「オルレアン村に居た時にちょっとね」

「占い師に化けたネクロマンサーがいまして。苦労させられた記憶があるんですよねえ」


 それとなくお茶を濁そうとしたカオルであったが、サララの一言で驚かされ、一瞬だけその顔を見た。

何事もなさそうな、しれっとした顔である。

カオルもそれを見て何となくその意図を悟り、「そうなんだよな」とサララに合わせる。


「ネクロマンサーとはまた……その事件は解決したのか?」

「一応は解決した……と言えると思うけど。当の本人は逃げ出しちゃったんだよな」

「カオル様の攻撃でダメージは与えたと思いますけど、どうなったのか解らないんですよねえ」


 あの一件で兵隊さんと共に撃退した女占い師は、今でも捕縛されたという話を聞かず、行方知れずのままであった。

一応カオルが雑談の一つとして王様には話し、結果として全国レベルで警戒が広がったらしいのだが、国内でそれらしい女占い師は見つかっていないとの事で。

これに関しては、同じような問題がまた起こらない限りは放置しておく以外に手が無い、というのが実情であった。


「また出て来たら今度こそ捕まえてやりたいけど、出てこない事にはなあ」

「案外今もどこかで占い師とかやってるかもしれませんけどねえ」

「流石に懲りたと思いたいけどな」


 少なくとも棒切れカリバーの一撃をまともに喰らい、フラフラになるほどのダメージを受けたはずなので、それで嫌になってまっとうに生きる道を選んでくれれば、と、カオルは願ってやまない。

直接戦闘していたのは兵隊さんで、カオルは気を逸らし、ダメージを与えただけであったが、ベラドンナ戦を経験したカオルをして、「あの女占い師はかなり強い人だった」という認識なのだ。


「まあ、でもせっかくゴートさんが持ってきてくれた情報だし、試しに行ってみようかな」

「そうですね。もしかしたら何か魔法使いに関わる情報を知ってるかもですし」


 とにもかくにも、現状のままではお手上げなのは変わらないので、ワラをも掴む心境であった。

苦々しい記憶はあるが、だからと情報には違いなく。

カオル達は、その占い師と会ってみることにしたのだ。

ゴートも頬を引き締め緊張気味に二人を見ていたが、これにはほっとしたのか、口元を緩める。


「占い師は夕方からのわずかな時間、街のいずれかの酒場に現れる様です。ただ、酒場が七か所ほどあるので……」

「うむ、では手分けして探すようにしよう。君達は西の酒場に向かってくれ。西には一か所しかないから解りやすかろう」

「助かるぜ伯爵」

「こういうのは人手が大切ですもんねえ」


 伯爵も人手を回してくれることになった為、カオル達も柔らかい表情に戻っていた。

街の方々に点在する酒場をカオル達だけで探すのは骨だが、人海戦術を駆使する事が出来れば、その手間も大分減る。

少しでも早く限られた時間にしか現れない相手を探したいのなら、尚有効な手段と言えた。


「それじゃ、聞きたい情報を整理しましょうか」

「そうだな、実際に会った時に、魔法陣以外にも聞ける話があれば知りたいしな」

「ではまずは、食事をとってからにしよう。話は重要だが、折角の料理が冷めるのはいただけない」

「あ、それもそうですね」

「状況が変わったから、つい話すのに夢中になってたぜ」


 伯爵からの指摘もあり、カオル達も止まっていた食事の手をまた動かす。

それ以上は余計なことをしゃべらず、食べる事に集中し始めていたので、伯爵も満足げに頷き、自らもまた食事を再開した。




 その後、伯爵に言われた通りに西の酒場に向かったカオルとサララであったが、やや早めに出た為、食事がてら酒場でのんびりくついでいた。


「流石に、伯爵やゴートさんにヴァンパイアの事は言えないよなあ」

「そうですねえ。本当かどうかわからないですし、危険な化け物が自分の領内にいるかもしれないなんて、不安になるだけですもんね」


 木製のコップの中の飲み物を揺らしながら、二人して小さくため息。

まだ早い時間とはいえ、酒場は既に多くの客でにぎわっており、喧騒の中では二人の声はほとんど周りに聞こえていなかった。

見慣れぬ若い男女が食事をとっていても、国境から近い街という事もあってか、精々が「観光客なのだろう」くらいにしか思わなかったのだ。


 実際問題、カオル達はヴァンパイア騒動に関して、正確には話していなかった。

伯爵やゴートを信頼していなかった訳ではないが、無用の混乱を避けたいという意図と、不正確な事を話したくないという二つの意図があって、「ネクロマンサーの仕業だった」ということにしたのだ。

最初にそちらの方向に舵を切ったのはサララだったが、カオルもしれっと話すサララに合わせた形になる。


 皿に盛られたレナスの名物『ミニムソーセージ』にフォークを突き刺しながら、カオルはちらちらと酒場を見渡していた。

顔はあまり動かさず、視線だけ動かすように。

まだ完璧にできている訳ではないが、彼の想像する『探偵っぽい動作』である。

サララにとっては珍しい動作らしく、「はー」と感心したような、あるいは変なモノをみるような表情になっていた。


「器用なことしますねー」

「いや、まあ、あんまでかい動きすると怪しまれそうだしな」


 今のところ、それらしい出で立ちの女は見られなかった。

占い師というのがあの女占い師と同じ外見なのかははっきりしないが、カオルの中のイメージはそれで固定されてしまっていた。


「もし本当に同じ奴だったら、今度はこの街で悪事を働くかもしれないし、できるだけばれないように探さないとな」

「ああ、そうですねえ。私たち、面が割れてますもんねえ」


 直接対峙したカオルもそうだが、サララも占いの際にカオルと一緒に占ってもらったので、当然顔がばれている。

一応奥のテーブル席に掛けているので、入り口からは奥を注視でもしなければカオル達の存在に気づかれる事はそうそうないだろうが、そういう面での警戒は確かに必要だった。


「でも、もし同じ人だったらカオル様、どうします?」


 違う人かどうかの確認としての意味もあってここにきたカオルにとって、このサララの一言はいささか想定外だった。

当然サララも同じつもりだと思っていたので、わざわざのこの問いに、何か裏があるように感じてしまったのだ。

以前だったら、当たり前のように受け流していたかもしれないが。

今のカオルには、言外の意図があるように思えてしまった。


「どうするって? そりゃ、直接問いただして」

「問いただして、逆上されてこの場で暴れられちゃうんです?」

「……む」


 そうして、それでも正直に応えてしまい、サララにツッコミを入れられてしまう。

カオル的に、ちょっと悔しい瞬間であった。


「流石にこんな場所で暴れ出さないと思いたいけど」

「思いたいですけど、前回結構追い詰めちゃいましたし、暴れるか、それとも大騒ぎして逃げられちゃうかもしれませんよね?」

「まあ、確かにそういう可能性もあるのか」

「はい。大いにあると思うんです」


 カオルとしては「また悪さするようなら今度こそ退治してやる」くらいに思っていたのだが、サララの返答のおかげで、よりリアルにその時の状況がイメージ出来てしまい、自分の考えの足りなさを自覚させられてしまった。

再び酒場を見る。やはり、人は多く、そして酔っている客も多いからか、賑わいに満ちていた。


「……逃げられるか」

「逃げられちゃうかもしれませんねえ。なにせ、人が沢山いますし」


 人質か、それとも騒ぎを起こしどさくさ紛れに離脱するか。

いずれにしても、対峙したくない相手から逃げるならいくらでも手段がある状況である。

そして逃げられたら最後、恐らくまた手掛かりもなく消えられ、しばらくの間どこにいるのかの見当すらつかなくなるかもしれない。

そうなっては、被害が増えてしまうばかりではないか。

そこにまで至り、カオルはコップの飲み物を飲み下した。


「――ぷはっ……暴れられても困るし、逃がしたくもない。どうすべきなんだろうな?」


 冷たくも新鮮なライムの風味に、こんがらがりそうになっていた頭が落ち着きを取り戻していく。

今サララが伝えようとしているのは、『もしそうなった時の為に』先んじて対抗手段を考えるべき、ということなのだとカオルは解釈した。

であるならば、次に考えるべきなのは、敵対した場合にしろ逃げ出した場合にしろ、それを封殺する何らかの手段である。

勿論無関係の占い師であれば問題はないが、そうでなかった場合のリスクを考えれば、どうしてもそれは必要であるように思えていた。


「多分、カオル様が直接対応しようとすると、向こうは即座に何かしらの反応をすると思うんですよ」

「俺が対応しちゃまずいって事か?」

「ええ、多分」


 こういう時に、冷静に意見してくれるサララはありがたい存在だった。

カオル自身、自分だけではそこまで考えられる方ではないと自覚しているので、聡明なサララの意見は大変重要である。

参考になるのは勿論、自分と全く違う方向性からモノを見ていたり、考えていたりするので、カオル自身も考えつかなかったような意見が飛び出てくるのだ。

今回も、自分が真っ先に出るべきだと思っていたので、サララの意見は想定外だった。


「対応は、私がした方がいいと思うんです。一歩離れた所からなら、何が起きているか客観的に見られるでしょう?」

「そうか、俺が直接対応すると見逃すかもしれないけど、離れていれば――」

「そういう事ですね」

 

 サララは、カオルが一度に多くの事に気を向けられない事を既に知っていた。

もし占い師の対応を任せたなら、目の前の占い師の言動や行動にばかり意識を向けてしまい、その場全体で起きている事には気づけないかもしれないという危惧を、サララは抱いていたのだ。

そんな事になるくらいなら、いっそ自分が対応し、少し離れた場所で見守ってくれていた方がいいかもしれないと考えていた。


「武器は?」

「いつでも使えるような状態で。できれば、数歩以内に私と占い師の間に割り込めるくらいの位置がありがたいんですが」

「……実際に来てみないとそれは解らないけど、できるだけそんな感じで動きたいな」

「そうですねえ」


 占い師がくる酒場かどうかすらまだはっきりしない段階である。

それでも、いざ本当にきて、そしてそれがヴァンパイアだったなら。

そう考えると、イメージトレーニングは大事であった。


「このソーセージ、結構美味いな」

「こっちのポテトのスープも中々ですよ。このお店は当たりですねえ」


 占い師はまだこないが。

作戦を考えながらに食べる食事は、エルセリア国内の食事とも違っていて中々に新鮮で美味しく。

カオル達はしばし、料理の感想と起きるかもしれない対占い師戦の作戦を交互に語らいながら、目的の人物が来るのを待ち続ける事になった。




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