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嘘つき女神と0点英雄  作者: 海蛇
9章.ラナニア王国編1-混沌してゆく世界-
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#12.スライム怖い


 国境を越えてからというもの、随分とのどかな風景が広がっていた。

何か問題が起きているらしい事もあり、入った直後から何かしら騒動に巻き込まれるのではないかと思いはしたが、実際には何の事もなく、一行は平然と街道を進めていた。


 ただ、行商が商売できないという事から、やはり街道を行き来する者の姿が少なく、カオル達にはそこが不安要素のようにも思えていた。

街道に人通りが少ないという事は、賊や魔物が出没しやすくなる原因にもなりうるからだ。


「全く人が通ってないって訳じゃないけど、なんか少ないんだよなあ」

「まだ明るいからそこまで心配もないんでしょうけど、確かにちょっと怖いですよねえ」


 サララと二人、荷台の中で窓の外を見ながら、「ほんとに大丈夫なのかな」と心配になる。

そこまで考えて「そういえば」と、以前あった『ある事』を思い出していた。


「エルセリアでも、街道にオーガとかエメラルドドラゴンとかが出現してたんだっけ? トーマスさんが倒したっていうの兵隊さんから聞いた気がした」

「そういえばそんな話もありましたね」


 言われてからサララも視線を上に向けながら「私は後になって聞きましたが」と苦笑いする。

何かが出るかもしれないと心配になってはいたものの、実際にはエルセリアの街道の方が危険な気がしてきたのだ。


「そういえば西部ではそんな魔物も出るらしいですね。なんとも恐ろしい話ですが」


 そしてゴートも混ざる。

手綱を握りながらではあるが、カオル以上に安定していて、馬車は道一つブレる事が無い。

その様子にカオルも「手慣れてるなあ」と感心しながら、ゴートの方を向く。


「東部では強い魔物は出ないの?」

「エルセリア東部では、出ても自爆ニンジンやブラックデビル辺りが強さの限界ですね。強い魔物は、出ても城兵隊が即座に蹴散らしていきますし」

「自爆ニンジンってなんだ……」

「自爆ニンジンご存知ないです? 宙に浮いていて、人間が近づくと突然笑いだして爆発するんです」

「……そいつは何が楽しくて生きてるんだ?」

「さあ、魔物の考える事なんてサララにはわからないですよ」


 魔物だって生きているだろうに、何故自爆なんてするのだろうか。

そんな哲学的な事を考え、主な強敵対処法が自爆一辺倒なカオルは「俺もそうだった」と気付いてしまう。

そうして自分が何が楽しくて生きているのかを考え……サララと目が合った。


「うに?」

「いや、守りたい家族とかいるのかなって」

「はい?」

「すまん、忘れてくれ」


 魔物が何なのかもよく解らないのに、家族がどうかなんて考えるのはどうかしてる気がしてきたのだ。

人間に敵対する存在みたいだし、倒してしまっても問題ないのは間違いないはずなのだが。

やはりこの辺り、カオルはこの世界の人間とは一歩離れた場所に立っていたのだ。

倫理観の壁、とでも言うべきか。

そしてそれがどうしようもなく無意味なことに気づき、今は忘れることにした。


「トーマス殿ほどの猛者ならばどのような魔物でも倒せましょうが、オーガなどは衛兵でも倒すのに五人~十人ほどは必要とされる相手です。犠牲無しで倒すというのは難しく、出没すれば周辺住民や旅人が度々襲われ、犠牲者が増えてしまいますので……厄介な相手ですね」

「そんなに強いのか。それじゃ、俺でも手間取るかな」

「どうでしょうねえ?」


 魔物に関しては、オルレアン村周辺で危険なのがうろついているのは知っていたが、オーガとはまだ相対した事が無かったのだ。

これがどれほどの強敵かと考えると、おちおち油断している事もできないのではないかとすら思える。

ただ、妙にニヤニヤとしたサララが気になってしまう。


「流石にオーガほどの魔物となると、城兵なり衛兵なりが話を聞いてすぐに討伐隊を編成してくるでしょうから、我々は無理に戦わず、そちらに任せてしまってもいいと思います」

「そ、そうか。無理に戦う必要もないんだよな」


 戦わないという選択肢。

これも勿論ある事に、今更気づかされる。

普通に走ったら逃げられないかもしれないが、今はポチがいるのだ。

仮に遭遇したとしても、すぐに逃げる事は可能だった。


「まあ、それが叶う状態ならそれが最適でしょうねえ。無理に倒しても美味しいことは何もないですし」

「……やっぱ人型なのか?」

「見ても居ないのによく人型だって解りますねカオル様」

「なんとなくイメージが付くからな……なんか、人型で、角が生えてる的な」

「そうですそうです。それでこん棒持っててー」

「やっぱイメージ通りなのか」

「そして目がとてもつぶらなんです」

「……うん?」

「とっても目がつぶらです」

「可愛い系の?」

「可愛い系の」


 そして、ここにきてカオルのオーガ像が壊れ始めた。


「勿論、可愛いのは目だけですけどね。それ以外はすっごくむさくるしいですし、毛むくじゃらですし」

「大きいのか?」

「大きいですねえ。縦横共にカオル様の倍くらい」

「筋肉質なのか?」

「筋肉質ですねえ。鉄の武器程度だと弾かれるって言われています」


 エルセリアで鉄の武器なんてどこにも売ってないでしょうけど、と、苦笑いしながら。

目がつぶらなこと以外はおおよそカオルの想像通りのオーガ像を、サララは語っていた。


「人型だけあって、魔物の中ではそれなりに賢いようですが。だから徒党を組んでいたり、他の魔物を従えたりして、集団で襲い掛かってきたり、罠を作って待ち伏せたりすると、以前トーマス殿に聞いた事があります」

「結構厄介な魔物なんだな……」

「小さな村なんかが狙われると、それだけでもう危機的な状態に陥るって言いますね。だから初動が大切なんですよねえ」


 ゴートとサララの説明で、段々とオーガという存在のイメージが出来上がってきたカオルだったが、同時にその凶悪さも理解できてきて「できれば会いたくないな」と頬に汗を流す。


「まあ、スライムほど強くはないんですが」

「あー、スライムは危険ですからねえ」

「……えええ」


 そしてそんな凶悪なオーガが、スライムより弱いというのがどこか納得がいかなかった。

そんな昼前の事である。









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