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嘘つき女神と0点英雄  作者: 海蛇
2章.オルレアン村編2-Boy Meets Girl-
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#1.盗賊くらいたやすく蹴散らせると思っていた


「なあ兵隊さん、この村って、武器屋っていうか、武器防具置いてる店ってないんだな」


 翌日、目を覚ましたカオルは、朝のうちから兵隊さんの詰め所に訪れ、開口一番にそんな事を聞いていた。

丁度昨日の残りのチキンスープ(これも村長の娘さんの差し入れだが)を食べようとしていた兵隊さんは、突然現れたカオルにぽかん、とした後、やがて苦笑した。


「カオル。とりあえず朝食を食べよう」


 どうぞ、と、自分の席の前を示す。


「あ、うん。ご馳走になります」


 合わせたかのようにグギュルルル、と景気のいい鳴き声を聞かせる腹の虫。

ぽりぽりと頬を掻きながら、カオルは誘われるままに兵隊さんの前の椅子に腰かけた。



「武器商人は、この村には滅多に来ないな。鍛冶屋なら私が子供の頃はいたんだが、その頃すでにお爺さんだったからね」


 テーブルの上のバケットに入った堅パンを一つ、兵隊さんがよそってくれたスープに浸けて頬張るカオル。

兵隊さんはそんな様を見て満足そうに頷くと、説明を続ける。


「だから、この村では金物は露店商頼りになってるね」

「じゃあ、この村の人は武器とか持ってないのか?」


 それって危ないんじゃ、と、首を傾げるカオル。

彼なりに、ファンタジー世界というものがそんなに平和な物じゃ無いと思ってはいたのだ。

だって、ゲームの世界にだって盗賊やら悪党やらはいたのだから。

現実とも言えるこの世界で、そういった連中が跋扈(ばっこ)しているんだろうなあ、くらいの事は、カオルにも想像が容易かった。


「村の男衆は皆農具を持ってるからね。いざとなったら、クワやらフォークやらで戦うさ」


 案外強いんだよこれが、と、窓の外を指さす。

丁度収穫の時期が近付いているせいか、外の畑では村の若い衆が朝から忙しなく働いていた。

手には草刈り鎌。これで、伸び始めた雑草をすさまじい勢いで刈り取っていく。

到底カオルには真似のできそうにない神速の絶技であった。


「そっか……俺も、戦う必要があったら武器防具くらいは必要かなと思ったんだけどさ。この村じゃ、そういうの手に入らないんだな……」

「そうなるね。まあ、村で暮らす分には必要もないよ。たまに賊や変な化け物が出没したりもするが、大体は私一人で……手が足りなければ、村の若い衆を集めればなんとかなるしな」


 心配しなくていいよ、と、スープを静かに啜る。

カオルは少しだけ思案した後、「そうか」と、またスープにパンを浸して食べ始めた。




「うーん……結局、まともな装備は無理なんだなあ」


 残念ながら、カオルはこの村での装備強化ができない事が確定していた。

あの後、兵隊さんの装備についても聞いてみたのだが、兵隊さんの装備は『衛兵隊』という街の組織で一括して管理されているもので、市販されている物とはまた違う扱いらしいのだ。

当然、カオルが欲しがっても簡単に手に入るようなものではなく、そちらに期待するのも虚しい結果になりそうなので、あきらめることにしていた。

形から入る作戦、失敗である。


「あらカオル君。どうしたの? ユウツヅミが水を浴びせられたような顔をしてるわ」


 ううん、と考え込んでいたカオルであったが、川沿いを歩いていたところで、村長の娘さんに話しかけられる。


「ああうん……ちょっと考え事を――ユウツヅミ?」


 なんだそれ、と聞いたこともない単語に首を傾げるカオルであったが。


「カオル君が考え事を、ねぇ……あ、わかった。今日の夕食のメニューを考えてたんでしょう? カオル君食欲旺盛だから」


 ぽん、と手を叩きながら可愛らしく笑う村長の娘さん。

しかし、カオルは首を横に振りながら「いやいやいや」と、苦笑いする。


「流石に俺もそこまでベタな事はしないぜ。そもそも悩めるほどご飯のメニュー用意できないし」


 料理好きな者ならそのくらいは日常的にしているのだろうが、あいにくとカオルは貧乏人である。

それでもこの世界に来たばかりの頃よりはいくばくかマシな生活はできていたが、それは物乞いが日雇いのバイトになったくらいの違いしかなく。

まだまだ、夕食に悩むほどの稼ぎを得るには至っていないのだ。


「んー。カオル君、いろいろ頑張ってはいるんだけどねえ。お手伝いでもらえるお駄賃で生活するの、厳しくない?」

「ああ、かなり厳しい。贅沢言うべきじゃないんだろうけど、ぎりぎりのカツカツだな……」


 持ち家があって最低限の生活基盤があって最低限の食事も保証されているのだから、後は無駄遣いをしなければ貯まっていく一方のはずだが……カオル的に、まだまだ全然貯まっているようには感じられないのだ。


「何か、たくさん報酬稼げるような仕事ってないかなあ。俺に畑仕事は無理だしなあ」


 カオルも、お手伝いで畑仕事を手伝ったことはあるのだが、簡単そうで単純そうなそういった仕事は、実際にやってみると足腰が立たなくなるほどの疲労感が襲い掛かる地獄のような作業の連続であった。

それでも皆が求めるならば、と乞われるまま手伝ったりもするが、自分が畑を持っても村の若い衆のように畑を維持できるかと言われると、やはり難しいものがあったのだ。

学校などなくとも、畑に関する知識は誰に聞かずとも皆知っているものなのだ。

カオルだけが、畑において無知であった。


「あはは、そんな簡単に稼げたら皆やってるってば。でも、お勉強が得意なら教会で子供たちに教える先生になるとか、街の学校に行きたい子の為の家庭教師とかのお仕事もあるけど……」

「ごめん、俺勉強は全然だめで」

「だよねー」


 花のように笑われてしまう。

悪意はないのだろうが、カオルもぽりぽり頬を掻き、苦笑いするしかできなかった。



「後はー、盗賊とか化け物とか討伐すると、私のパパとか街の衛兵隊とかから報奨金が出るよ。村で討伐があるときは参加すると、ちょっとした収入になるかも?」


 その一言は、ぴく、と、カオルの耳を動かすのに十分な情報だった。


「へぇ。やっぱりそういうのって定期的にあるの?」

「うん。定期的っていうか、賊も化け物も根本から倒さないと終わらないけど、大体は逃げちゃうから。数が増えたらまた近くに現れるから、その都度討伐する、みたいな感じになってるの。そんなに強くないから村の男の人たちで十分だし、倒すたびに村がちょっとだけ豊かになるから、てい(・・)の良いお金稼ぎよね」


 ちょっとしたイベントなのです、と、楽しげに微笑む村長の娘さん。

なるほど、そういう事なら俺も一稼ぎできそうだ、と、カオルも笑った。


「あ、良い笑顔。カオル君笑うと子供っぽい顔するよね」

「いやまあ……と、とりあえず家に戻るぜ。いい情報、ありがと」

「どういたしましてー」


 女の子に顔について褒められるのはあんまりないのでテレテレとしながらも、カオルは思い付きを実行に移す為、自分の家へと駆け足で戻っていった。



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