異世界人より腹ごしらえ
「私、佐川れお。あなた一体何者?」
ストーブを点けた後はお風呂を沸かし、夕ご飯を作り一人で食べ終わった後、不審者に向き合った。
「君は落ち着いているんだな。普通、こんな状況騒ぎ出すんじゃないか?」
思っていた答えの範囲外の答えにれおは少し目を見開いた。
「あなたこそよく落ち着いてられるわね。この状況は予想外だったんじゃないの?私をどこに引っ張り込むつもりだったの?」
目線が落ち、口を閉じる不審者に追い打ちをかける。
「自分の都合で他人を勝手に連れ去る。これって誘拐と言うのよ。あなたの所ではこれは犯罪ではないの?」
「もうこれしかなかったんだ。国を、みんなを救う方法が見つからないから…。」
れおは顔を上に向け、心の中でぼやいた。
(あ~、これ国の一大事の為、勇者とか聖女を召喚するパターンか。)
れお自身は超現実主義者だが、育ててくれた祖母が異世界召喚物が好きだったのだ。
小さな頃かられおにこの手の話を語り掛け、キャッキャッと乙女のように嬉しそうにしていた。
祖母の笑顔が好きなれおは話をねだり、好きでもない異世界召喚物の知識が増えていったのだ。
「私を召喚したって、何にも出来ないよ。人違いなんじゃない?」
「そんなことない!僕はちゃんと願ったんだ!この危機を乗り越える力を下さいと!」
れおは眉を寄せ、意外に熱い不審者に語り掛けた。
「まあ、事情を最初から話してみたら?力になれることがあるかもしれないし。」
十分納得してお帰りしてもらわなきゃ、面倒くさいことになりそうな予感がする。
とことん話に付き合って、言いくるめて帰ってもらおう。
とっとと吐け、と目で訴えるれおの目力に押されてぽつりぽつりと話し始めた。
「僕はサリディアス王国の第一王子、テディウス・アル・サリディアス。」
「僕達サリディアス人は昔から魔族の脅威に怯えて暮らしてきたんだ…。」
相手が落ち着いてきた頃を見計らい、縛っていた拘束テープを切り、話の邪魔にならないようにそっとお茶を差し出した。
話を聞けばありきたりと言ったら悪いが。国の危機のため他力本願の召喚を行い、悪の魔族を倒して平和を求めているという話だ。
可哀想だと思うけど、ごく普通の女子大生捕まえて何をさせようというのか。
武道や格闘技もやった事がないし、特別な知識や技術だって持っていない。
自分で言うのも悲しいが、この役立たずをどう活用するつもりだったんだろう。
「あのさ、私が向こうに行ったとするじゃない。そうしたら、何か特別な能力とか身に付くのかな?」
自称王子ははてなを頭に乗せた顔して、
「そんな話聞いたことないけど…。」
「勇者とか聖女とか神子とかにジョブチェンジしないの?」
「しないと思う…」
ええ~っ、バージョンアップ無しでこのまんまの私が悪者退治でもしろって言うの?
れおは再び顔を天井に向け、放心した。