簡単には行きません!
雪がちらつく中、駅から歩いて体がすっかり冷え切ってしまった。
手袋をしていても手がかじかんで、なかなかスムーズに玄関の鍵を回せない。
少しガチャガチャした後、やっと扉を開き体を中に滑り込ませホッと息を吐いた。
人気のなく真っ暗な所でも、やっぱり我が家に戻ると肩の力が抜け安心できる。
いつものように明かりをつけるスイッチに手を伸ばそうとした時、足元の様子が変わった。
ほのかな光が点いたと思えば、一気に眩い光が下から目に差し込んできた。
暴力的ともいえる眩しさに声も出ず驚いていると、光だけでなく足元に何かが触れる感触があった。
なんだ、と思う間もなく右の足首をガシッと掴まれる。
掴んだその手は下に向けてグイグイ引っ張ってくる。
引きずり込まれる。
そう感じた瞬間、怒りの炎が心に燃え広がった。
「ふざけんじゃないわよ!」
足に絡みつく腕を両手で掴み、無我夢中で引っ張った。
「うわっ」
不審者らしき者の声が聞こえた途端、光は収まり真っ暗闇の状態に戻った。
少し違うのは目の前にうずくまる塊の存在だけだ。
ようやく電灯のスイッチに手をかけ、玄関を普通に明るくさせることが出来た。
ちょっとまだ目がおかしいが、目の前の人物を見下ろしてみる。
髪の毛は金髪、服装は非日常的でいわゆるコスプレでしかお目にかかれないようなファッションだ。
おそるおそる上げた顔は目が蒼く、ちょっと垂れ目がちな甘いイケメンというところだ。
見た目はおバカな外人コスプレイヤー。
はぁ、とため息を一つついた後、玄関に置いてあったDIYボックスから結束テープを一つ取り出した。
きょろきょろと周りを見廻す不審者の背後に素早く回り込み、両手の親指を後ろ手に一つにくくった。
指を絞められた痛みで我に戻ったか、何をするんだとばかりに目を合わせてきた。
「言葉わかる?あなたが誰かすぐ知りたいところだけど、やることやって落ち着いたら聞くからそこに座って待ってて。」
そう告げて、部屋の奥のストーブを点けに行った。