87 異世界ってきっと
自分がどこにいるかも、何をしたいのかもわからない。
でも、俺がこうなった理由はわかるんだ。今まで俺が『諦めない』ってしつこいくらいに言ってたのはきっと、勝つ可能性が残されていたからだ。でも、今はどこにも可能性がない。だから俺はこうして立ち止まっている。
「魔崎、最低だよな俺は。自分でも……そう思ってるよ……」
頭ではわかっているのに、頭は分かろうとしてくれない。
あまりの情けなさに、雨が降ってきた。俺の心を洗い流すことも出来ないような、濁った雨が。
「最低じゃないですよ。蘭次様、あなたはとても意志の強い人です」
魔崎は、手をとりながらそう言った。
「いいや、最低だよ。意思が強いなら俺はこうしてない」
「いいえ、大丈夫。私は……知ってるから」
「違うよ。意思が強いって言うのは、凜みたいな奴の――」
「凜さんと一緒ですよ?蘭次様は」
「……え?」
「蘭次様は、凜さんが異世界に来た日から一年後に異世界に来れるはずだったんです」
凜が、異世界に来たのは六歳の事。
つまり、あいつは六歳にして十万回異世界に行きたいと願ったんだ。
俺も、そうだった……?
――
『異世界に行きたいと一日百回願えば、異世界に行ける……か』
正直、信じろと言われても信じられない。でも、あの女の子が言うことがほんとなら、俺は……
『でも、異世界って人が死んだりするのかな?だとしたら嫌だなあ……そんな異世界なら、むしろ壊しちゃうかもなあ、だって、人が死ぬのは嫌だもん』
――
「蘭次さんは驚異的なスピードで異世界への承認回数を超えました。しかし、精神的な問題などから、異世界への招待は見送られたんです」
そうだ、確かに俺は一日百回、異世界に行きたいと願っていた時期があったんだ。
「そんなに異世界への――ひとつの事に思いを馳せることが出来るのは……意思が強いから出来る事ですよ」
「それは……逆だよ魔崎。俺は弱いからそうやって一つの事に執着するしかなかったんだ」
俺は弱いから、まっすぐ立ち向かえる勇気がないから。逃げる事しかなかったんだ。異世界への思いは――たまたま逃げた場所がそこだっただけだったんだ。俺には……何もない。
「俺には有るものが無い。どこにもな」
「—―なら、創ればいいじゃないですか」
「出来ないんだよ。創る事が出来ないんだ」
「蘭次さん――」
魔崎に手を強く握られ、俺は顔を上げる。
「出来るかできないかじゃないです。やるか、やらないかです」
ああ、どうして魔崎の言う事は、こんなにも透き通ってるのだろう。
どうして俺の言う事は、こんなに濁っていて、情けないんだろう。
魔崎の言う通りだよ。やるかやらないかだ。この状況――勝つか勝たないかじゃない。最後までやることが大事だって頭ではわかっているのに。
「さあ、やりましょう蘭次さん。今ここで」
こんな俺に、魔崎はこんなことを言ってくれるんだ。この期に及んで情けないばかりの俺に、それでも言ってくれる。
「—―なぁ……魔崎……」
――魔崎は嘘でもなんでもない。真実を俺に突き付けてる。それはとてもとても綺麗な――美しい真実だ。
「やっても……いいのか?」
――俺は、ずっと逃げてきた。現実に耐えられず、異世界に逃げていた。その異世界で……こんな綺麗な真実を教えてくれたなら、
俺は――俺は……
「やっちゃいましょう!!!!」
魔崎から手を放し、俺は立ち上がる。
「美しく輝く刃は、仲間を救う――」
「俺は今、ここから始まる――」
「俺の呼びかけに応えよ――」
「剣」
もう逃げない。俺はやめない。最後まで責任をもって――
「やってみるか」
この神を倒す!!




