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そう簡単に異世界を味わえると思うなよっ!  作者: はれ
第9 中川椎名
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75 異世界は大事な大事な――

  「俺、絶対異世界行くから!そこで戦うんだ!」




 一人の少年は、戦いに憧れていた。もちろん小学生が考えた戦いであって、想像していたのは剣や超能力を使った一対一の戦いだったのだろう。 

 「いててっ……何であんなことしてきたんだよ、あいつら……」


 少年は苦々しく呟いた。幼い彼は、自分の夢をあちこちに語っていた。そしてその思いは――小学生の的になるには十分だった。

 少年は蹴られ、殴られ、あちこちに傷を負っていたが、それ以上に心に深い傷を刻まれていた。


 「なんか最近、話しかけても無視される事多いし……」


 少年は元々普通の明るい少年で、友達もそれなりにいた。だが、クラスのガキ大将に目をつけられたのが良くなかった。ガキ大将に逆らえないクラスメイトは少年を無視するようになった。

 「嘘じゃないんだよ……本当に異世界はあるんだ……」

 少年は誰もいない廊下で吐き捨てるように言った。だが、それを言っても、ガキ大将のグループは『そんなのは存在しない。お前は頭がおかしいんだ』とばかり言って、少年に暴行を加えるばかりであった。

 

 結局、少年への暴行は数か月ほど続き、その後も友達が殆どいない孤独な人生を過ごした。

 その間、少年の、俺の拠り所は……

 

 「異世界なんてあっても意味ないよね?それなら消えてしまってもいいよね?異世界なんて――必要じゃないんだから」

 「やめろ!やめろやめろ!!俺にはそれしかないんだ!消すな!奪うな!!俺を……殺さないでくれ……」


 俺の拠り所は、異世界への希望しか無くなった。それにすがって、それを夢見て生きてくことでしか自分を保てなくなった。それが無かったら……自分が生きてないのではないかと錯覚してしまうほど。

 「消えてもいいよ。奪ってもいいよ。死んだって構わない。だって君は……その程度の小さい存在でしょ?」

 

 自分が……消えていく……憎しみと、嫉妬と、とにかく黒くて醜い何かが俺の中で存在を強めていく。嫌なんだ。行きたくない。なりたくないのに……俺は、誰だ……?


 ――

 

 ――――


 「はぁ……どうして魔法は使えないんだろうか?」

 俺は溜息をつく。なんで俺はアニメや漫画みたいに魔法が使えないんだろうか?なにかが足りないのかな?

 ――キーンコーンカーンコーン……

 鐘の音だ。気づけば放課後も後少しの時間になっている。早く帰らないと。

 俺はランドセルを背負い、教室の扉に向かおう――


 「ねえあんた、さっき『フレア~!』とか言ってたけど、何アレ?」


 ――とすると、扉の外にいた女の子に話しかけられた。

 「えっ、いや、あれは……」

 うーん、『魔法を使おうとしてた』なんて言うのも変だしなぁ……

 「魔法を使おうとしてたんだよ」

 あ、正直に言っちゃった。嘘つけないなぁ俺……。


 「……魔法?」

 「うん、魔法」

 女の子の言葉に俺は頷く。その女の子は、黒いフードを被っていて、少し暗い雰囲気を持っていた。


 「……なんで魔法なんて使おうと思ったの」

 「だって、格好いいじゃん」

 「はぁ、これだから男子は……」

 女の子は呆れたように溜息をついた。そんなに変な事言ったかな?

 

 「……あなた、そんなに魔法を使いたいの?」

 「うーん、魔法も使いたいけど……剣とかでバババーって敵を倒していくのもいいかなー」

 実際、最初に憧れたのは漫画で見た凄腕の剣士だったし、どちらかというと剣の方に興味があった。

 

 「……いかにもガキって感じね。いや、あたしもそうなのかもね……この歳で、あんなに願うなんてね」

 「え?」

 「なんでもないわよ。そうね、魔法を使う方法なら……あるわ」

 「ああああある!?ほ、本当か!?本当にあるのか!?」

 

 まさか魔法を使う方法があるなんて……感動で涙が出てきそうだ。


 「でも、今のあなたには無理ね」

 「え、無理なのか……」

 俺はショボーンとへこたれる。

 「そんなに落ち込まなくても大丈夫よ。いい、よく聞きなさい。あなたは一日100回、『異世界に行きたい』って思いなさい。そしたら……百日でいけるわ」

 「……い、せかい?」


 いせかいってなんだ?それと魔法になんの関係が……


 「異世界って言うのは、そうね……あなたが望んだ世界って考えたらいいわ」

 「俺が……望んだ世界……」

 じゃあ、剣で戦う事もできるかもしれない。それなら、すごく行ってみたい。


 「私はその世界であなたを待ってる。あなたが来たら……一緒に戦いましょう」

 女の子はそう言い、そのまま教室を去ろうとして――

 「待って!お前の、名前は?」

 

 「美永凜。でも、もうすぐ克木凜になるみたいだけどね」


 女の子はそう言うと、教室から走って出て行った。 

 異性に多少は関心のあった俺だが、その子にそんな恋愛感情のようなものは一切感じず、ただただ、『俺に希望を与える神様が来た』という感覚を持つばかりだった。


 それから俺は、異世界に――

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