みにくいモジの子
彼は曽祖母から「字を習いなさい」と言われたその晩から、自分の部屋の勉強机の引き出しにあった、新品の12mm方眼ノートを一冊おろし、机に向かって「心」の字を延々と書き続けました。
次の日も次の日も、彼は午後4時に下校し家に着くと、急いで2階へ駆け上がり、自分の部屋でまた「心」を何千回と書きましました。
更に次の日も、夜の9時過ぎまで「心」という字を練習しましたが…。
…彼は、3日前から練習を始めた「心」の一番初めの字と、今夜の一番最後に書いた「心」の字とを、何度も何度もページを往復しながら見比べました…。
それでも違いが分からないので、彼は最初の「心」の字をハサミで切り取り、最後の「心」の字の横に並べました。
…字は変わっていませんでした。もっと正確に言うと、字は全然上手くなっていませんでした…。汚いままでした…。
彼の書いた「心」の字数は、とうに10,000文字を超え、もうすぐノートが一冊終わるにまで達していました。
彼の書いた心という漢字は、見方によっては平仮名「ししん」をひとマスに書き重ねたように見えます。これを「漢字の心という字だ!」と言い当てられる人がいるのか、疑うくらいです。
…彼はとても悔しく思いました。あまりの悔しさに、彼は声を押し殺し泣きました…。
あんなに頑張って書いたのに…右手の人差し指と中指が、こんなに痛くなるくらい頑張ったのに…。何も変わらなかったなんて…。
僕がどんなに頑張って練習しても上手くなれない…誰も読めない字のまま…時間の無駄なんだ…。
…彼はますます、字を書くことが嫌いになってしまいました…。
そして…次の日から彼は「無駄な時間を使うのは止めよう…」と、字を書く練習を完全放棄してしまいました…。