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「劣等感」と「好転機」と「一大事」

小学校2年生になった彼は、心に重い「劣等感」を抱えていました。



『…字が汚すぎる…絵が下手すぎる…不器用すぎる…体育と音楽が苦手すぎる…友達が作れない…女子と話せない…女子にモテない…』



字が汚いことや運動音痴、不器用であることが祟って、クラスメイトや同級生、上級生から、揶揄(からか)われる事もありました。けれど(いじ)められることは、絶対にありませんでした。


彼が由緒ある野井倉家の子であること。そして彼の兄や姉が、校内中では知らない人がいないくらい、誰もが認める人気者だったからです。



『…………僕は…お兄ちゃんやお姉ちゃんがいないと何もできない……何をやってもダメダメな…小学2年生…………』




…そんな彼でも家に帰れば、何にも代え難い幸せがありました。


下校し、家の門の前まで来ると『坊っちゃま。お帰りなさい』…運転手の岡本さんが。

庭先で『お坊っちゃまー!お帰りなさいましー!』『おぅ、坊っちゃま。お帰り!』…庭掃除している長谷川さんと杉田さんが。

玄関に入ると『お坊っちゃま。お帰りなさいませ』…女中の皆さんが、毎日出迎えてくれました。


彼は皆さんに毎日毎日、とてもとても感謝の思いでいっぱいでした。

学校で嫌なことがあっても、元気に家に帰ってこれたのは、皆さんの優しさおかげでもありました。


もちろん、優しい父と母と兄と姉、それに曽祖母と祖母だって、彼にとって何より一番大好きだったことは、今更言うまでもない事でしょう。




…小学3年生になって、彼に転機が訪れます。それは「クラス替え」でした。


彼は1組になりました。彼が一番嫌いだった、女子に人気のモテモテスポーツ少年、桑山翔也くんは2組となり、幼少の頃から片想いの相手だった山西莉緒さんは、同じクラスになれました。

彼はとても嬉しく思いました。独り静かに、心の中で。


彼は毎日、教室で莉緒さんを見るたびに、何度も何度も胸がドキドキドキドキ。嫌いだった学校生活も、少し好きになりました。

けれど莉緒さんと話すことは、しばらくの間はありませんでした。


本当に莉緒さんと同じクラスになれたことは、とても嬉しい出来事だったのですが、それで彼の心の中に生まれた「劣等感」までは、消えることはありませんでした…。




5月になると、彼にとっての「一大事」が起こります。


嫌いな桑山くんが休み時間の度に、隣の2組から莉緒さんの元へと来るようになりました。

それは「来る」というより「通う」というほうが、正しいと言える振る舞いでした。


莉緒さんは学年の女子達の中でも、一番可愛いと認められていました。莉緒さんも兄や姉と同じく、誰からも好かれる人気者でした。

桑山くんも、そんな莉緒さんのことが好きだったようです。


彼はいつも陰から2人の会話の様子を見守っていました。

『やめろよ!』『僕だって莉緒ちゃんが好きなんだぞ!』『2組へ帰れよ!』…なんて、言えるような勇気は、彼にはありませんでした。

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