駅の仕事
「まもなく2番のりばより、快速◯◯行きが発車致します。」、「お待たせいたしました。まもなく3番のりばに急行◯◯行きが8両で到着致します。大変危険ですので黄色い線の内側にお下がりください。」
朝ラッシュの終わった駅にいつものようにホームにアナウンスが流れ、いつもと同じ時間に電車が発車していく。
私、浅間大和(20)は北斗高速鉄道片上駅に勤務するごく普通の駅係員である。
駅での主な仕事としてお客様の切符の確認をしたり、乗り越しの精算等を行う改札業務や乗車券や特急券等の発売、払い戻しを行う出札業務、ホームでの列車監視等がある。自動改札機や券売機での券詰まりや紙幣詰まりといったトラブルの対応等ももちろん駅係員の仕事だ。
私は地元の高校を卒業後この会社に入社し、今年でまだ2年目のため今はまだ改札や出札業務を任されており、今は改札業務の時間だ。2年目といえばまだ経験の少ないようなかんじもあるが、駅では毎日のように様々な出来事が起こるため、この2年間でかなり濃い経験ができていると思う。改札機の券詰まりや券売機の紙幣詰まりは日常茶飯事だし、酔客に絡まれることにも大分慣れた。外国人の対応は自分の知っている英単語を並べてみたり、ジェスチャーを交えることで案外なんとかなる。初めは驚いて何もできなかったが、ホームの非常押しボタンが押されてブザーが鳴動したときの対応も落ち着いて行えるようにもなった。人身事故だけまだ経験していないのは幸いと言えるだろう。
『お疲れ様です。それでは交代します。』
交代の係員がやってきた。ということは私の一日の業務がこれで終了したことになる。駅は始発電車から最終電車まで沢山の電車が発着するため、普通の会社のように毎日同じ時間で仕事をするわけではない。日勤のように短い時間の勤務もあれば駅に宿泊し、終電や始発を見送り翌日に勤務が終わる勤務体型もある。今回はその後者のほうだ。
幸いトラブルも何もなかったため後任者に簡単な引き継ぎを行い、次の勤務の確認をし帰り支度をする。
「お疲れ様でした~。お先に失礼しま~す。」
職場の人達に軽く挨拶をし、駅をあとにする。時間はまだ午前10時前、外はかなり明るい。
「せっかくだし、どこか出掛けようかな。」
いつもなら疲れはてて即帰宅するのだが、今回は珍しくお客さんも少なくトラブルも一切無かったため体力が有り余っている。鉄道員などの深夜勤務をする人の特権ともいえる朝帰りの場合は仕事終わりの自分の時間が沢山できるため案外時間を有効に使いやすい。そしてほぼ一日拘束される勤務からの解放感と達成感が最高に気持ちいい。
「そういえば吉田は今日休みのはずだったな。ちょっと電話してみるか。」
そう呟くと鞄からスマートフォンを取りだし、電話をかけ始めた。吉田とは私と同じ年に入社した同期であり、年齢も同じのためよく一緒にでかける友人だ。勤務する駅は異なるが同じ線区内の駅に配属されている。
「あっ、吉田?今暇ならどっか行かないか?」
『おう。ちょうど暇だしどっか遊びに行くか!』
「じゃあ12時に新宮崎駅前に集合な。」
『12時新宮崎集合了解しました~。』
1、2分程度の簡単なやりとりのあと電話を切り、仕事の汗を流し身支度を整えるため自宅へ向かった。