深夜の遭遇
深夜の街は昼間とは違う雰囲気を漂わせています。何かが起こる予感です。
駅を出て、ロータリーのバス停へ歩いたときには、終バスは尾灯を光らせて走り去ったあとだった。
(ついてないな……)
啓太はため息をついた。友人たちとの飲み会が長びき、つい遅くなってしまった。駅前の商店街はシャッターを降ろし、水銀灯に照らされた歩道には人影はない。
タクシー乗り場に空車はなかった。歩けばアパートまではニキロはある。
それほど酔ってはいないが夜道を歩く気力が出てこなかった。
(仕方ないか……)
啓太は決心して歩道を歩きだした。駅前から延びる舗装路は、国道にぶつかるまで真っすぐに続いている。
通りの両側は団地と中層マンションが建っていたが、明かりのともっている窓はわずかだった。
啓太は自販機で缶コーヒーを買うと喉を潤した。
──夜空の発光に気づいたのはそのときである。それはマンションの建物の上空に明滅する青白い光だった。
発光体は楕円形で、音はなかった。啓太はその場に釘づけになって上空を仰ぎ見ていた。と、明滅の間隔が短くなり、垂直に上昇すると暗闇の中に光を滲ませて、発光体は二つに分裂した。明滅は先ほどよりも激しくなっていた。
啓太は自分の目で見ているものが信じられなかった。手にした缶を投げ捨てた。暗闇に音が響いた。
歩道を駆け出した。
一刻も早くその場から逃れたかった。
酔いは覚めていた。走っているうちに息がきれてきた。立ち止まると、歩道に座り込んだ。
走ってきた背後を振り返る。青白く明滅する二つの発光体は最初見たときよりも大きく変容し、夜空の一画をまばゆく染めていた。
啓太はそこで意識が遠くなった。
「心配ない。気を失っているだけだ」
緑色の背の低い異星人が言った。
「この生命体は意外に臆病なようだ。我々の探査艇を見て、あれほど驚愕するとは」
もうひとりの異星人が言った。
「どうする? サンプルはこの生命体でいいか?」
「そうしよう。これ以上、この星で手間をかけたくない」
二人の異星人は歩道に横になった啓太を見ながら話していたが、自分たちの探査艇を呼び寄せると啓太を内部に運んだ。
──啓太が目覚めたとき、あたりは依然として夜だった。駅前のロータリーのベンチに座っていた。商店街はシャッターを閉め、あたりに人影はない。……自分はどのくらい、ここにいたのだろう。酔いのせいだろうか、記憶がなかった。
立ち上がると通りの歩道をあるいた。街はまだ夜の中だった。通りの両側に建つ団地もマンションも静粛に包まれている。
しばらく歩いた啓太は舗装路が途中で途切れていることを知った。
アスファルトで舗装されている、その先が、水銀灯の光で確認すると起伏のある砂地なのである。
本来、国道のあるべき位置には草の生えていない丘陵が続いていた。
啓太は寒気を感じた。
──異星の地表に造られた、そっくりの街で、その標本はじっと観察されていた。
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