旅立ち
このエルドラードには、ドラゴンライダーと呼ばれるものたちがいた。ドラゴンライダーというのはドラゴンと絆を結び、ともに助け合い、生活しながらこの都市の平和を守るものたちのことだ。エルドラードに住むもの達は十七歳で成人を迎えると、城へと連れて行かれそこでドラゴンのたまごに触れドラゴンライダーの適性をはかられる。たまごに触った時なにもなければ適性がないとされ、今まで通りの生活を送る。もしも、適性があるのならそこでドラゴンの卵が孵化するのだ。しかし、なれるものは一握りしかいない。ドラゴンライダーになることはとても光栄なことだ。
その後ドラゴンが大きくなるまでは、ドラゴンを育てることに専念し、ドラゴンとの絆を深める。そして1年程立つと各地にいる、師匠の元にいき、知識を得たり武術をまなんだりするのだ。毎年新人達が行く場所は違い、ほとんどのものは寮での生活となるが、家の近い一部のものたちは毎日ドラゴンに乗って修行地へと向かうことになる。そしてこの少年たちもそうだった。
『998...999...1000..っ... はあ~』
若いドラゴンライダーたちの日々の修行の中の一つである剣の素振り1000回が終わった。『おーい!アレク!ドラゴンたちが帰ってきたら、ちょっとドラゴンに乗って村まで競争しないか?』
そういったのは、黒い髪に青い目を持つ少年だった。かれの眉毛は細くやんちゃそうだ。彼の名ははボブ。見た目通りやんちゃで、普段の修行すら真面目にしていなかった。彼の話しかけたのは黒髪に黒い目の少年だった。彼の名はアレク。彼もまた見た目通りだった。しかし意味は反対だ。彼は真面目で自主練習すらしていた。なぜこんな少年がボブと一緒にいるのかみんな不思議がっていたほどだ。しかし、実際にはそんなに大した理由はない。ただ、ドラゴンに選ばれたのが同じ日だった。それだけだ。
『おいおい、ボブ、お前はまだ補習があるだろ?それにドラゴンに乗って競争なんて禁止されてるだろ?』
そう言うとボブははぁーっと、大きくため息をついて言う。
『またそんなこと言ってアレクは真面目すぎるんだよ。補習なんてサボってもばれやしないさ。』
ちょうどそういい終わった時のことだ。その声は彼の後ろから聞こえて来た。
『なにをサボってもばれないって?』
『げっ師匠!』
そういうなりボブは何処かに走って逃げてしまった。
『まったく逃げ足だけははやいな...』
そう言いながら苦笑いを浮かべているのはさっきボブがいったとおりアレクたちの師匠だ。かれはもう高齢でドラゴンライダーとしてのやくめを引退していた。いまは若いドラゴンライダーたちに修行をつけている。名はドレイクという男だ。しかしいくら引退していてもドラゴンライダーはドラゴンライダー、その体は引き締まっている。だがここ二百年あまり大きな戦がないためドラゴンライダーたちは本来の役目を忘れてしまっているようにも見える。すなわち、彼らはこの国を守るということを忘れているようだ。そしてただ力があるだけで戦い方も忘れ、平和ボケしてしまっているようにも見える。
『おーい!ドラゴンたちが帰って来たぞー!』
誰かがいった。ドラゴンとライダーはともに修行する時もある。しかし、今回はドラゴン同士の戦い方を学んでいた。そのためライダーがいると危険ということで別々に修行をしていた。先頭にいるのは師匠である、ドレイクのドラゴン、ブルースだ。ブルースはメスのドラゴンで、黄金色の鱗をしていている。彼女は例えようとしても例えられるものが無いほどきれいだった。しかもただ美しいだけではない。実戦経験は少ないものの、鋭利な牙と力強い顎でかまれれば、ダイアモンドですらも砕けてしまうと言われている。その後ろにはドレイクの弟子のパートナードラゴン、5匹がいた。その中にはアレクのパートナーである赤いオスのドラゴンレディス、ボブのパートナーである青いメスのドラゴン、アルバードの姿も見える。
『おかえりレディス。今日はなにを習ったんだい?』
(ただいま、アレク。一緒にいられなくて寂しかった。今日はドラゴンの急所の位置と、その急所である後頭部の守り方を習った。)
レディスがいったドラゴンは、直接喋ることはできないが心の中でパートナーと会話することができるのだ。
『そうか、俺はな.....』
と言ってとても嬉しそうに互いの修行の内容を話し始めた。
いつも通りの剣の稽古、魔法の練習から始まり、ドラゴンたちの生活、体の作りの事を話す。
(ほうそれは興味深い、私がけがをした時など、ドラゴンの体の仕組みがわからないと変な風に筋肉をつけられてしまう。それはいやだからしっかり習っておいてね。)
レディスは、優しそうに、しかし少し強い口調でいった。お互いを信用しているので決してそんなに適当にやらないことはわかっている。しかし少し心配、といったところだろうか?
『さあさあ、ドラゴンたちも帰ってきたんだ。今日はこれで終わりだ。帰っていいぞ!』
『よっしゃ!やっと帰れる!さあさっさと居心地のいい我が家へ帰ろうぜアルバード!』
そういってすぐだった。
『あ、だがボブ!お前はサボった分おれがいまからみてやるからここで補習だ!』
帰っていいといった途端一番最初に叫んだボブに対して、ドレイクがいった。
『はあ~、老いぼれの相手は大変だな。』
ボブが小声でいったその言葉に対して、何かいったかと遠くからドレイクの声が聞こえる。そして何も言ってませんっと言って走り出すボブ。いつも通りの一日だった。いつも通り修行を終え、いつも通り帰る前にボブがドレイクに捕まり、いつも通り補修を受ける。そんないつも通りの日が、アレクは好きだった。家に帰りいつも通り父親が、ドラゴンライダーとしてがんばって、家を裕福にしてくれというのを聞いた時カチンときて言い返し、家を出ていった後だった。アレクは、裕福な家庭で育っていた。だがこの家を守るよりも、友情や、人とのつながりが大事だと思っていたのだ。しかし、父は違ったドラゴンライダーに選ばれた時からずっとお金の話しかしていない。そんな父に対して彼は嫌気がさしたのだった。反抗して出ていった後、アレクはレディスとともに山へと向かった。
彼は山がすきだった山は綺麗だ。傷ついた彼の心をいつでも包んで、癒してくれる。
『なぁレディス、俺たちもこんな風に心のきれいな存在になりたな。』
ポツリと星空を見上げながら言う。
(なったらもうそれは人ではない。人には欲望がある。欲望がなければ人ではない。でもその欲望を抑える術を学ばなければいけない。そうしなければ、他の人を傷つけてしまうかもしれないから。でも、たとえ傷つけてしまったとしても、そこからまなび、同じ過ちを犯さない。それが人間)
レディスは、まるで優しく子供をだく母親のようにいった。
『そうかそうだよな。ありがとうレディス。お前はいいことを言うな。人間は欲望があってこそ人間か....なるほどたしかにそうだ。しかし.....』
不意に後ろからカサっという音が聞こえた。ここは山の上だ。人がいることは少ない。しかもこんな夜だ。なおさら人がいるはずがない。一瞬でそこまで考えながら、アレクは立ち上がり、剣を半分抜いて構えた。そしてつめたくいいはなつ。
『誰だ。ででこい。ここでなにをしている。いえ。言わなければ....。どうなるかは見ればわかるな?』
だが音が聞こえた場所から聞こえたのは、予想もしなかった、聞き慣れた声だった。
『おお!すまんすまん!私だよ私、ドレイクだ!そうかこんな小さな音で気づくとはアレクも成長したなー。』
頭をかきながら出てきたのは...
『し、師匠!なぜここに?い、いやそんなことより無礼申し訳ありませんでした!』
(師匠!)
レディスも驚いたような声で(心の中で)言った。まさかこんなところで人とあうとはおもってもみなかった。しかも師匠になんて。
『私はこの山が好きでな、たまにこうして散歩しているんだよ。レディスが見えたからもしかしてと思い、来てみたんだ。そしたら思ったとおりお前がいたんだ。どうだ?アレク?お前はこの山が好きか?』
『はい。私もこの山が好きです。特にこの場所が。昼にここの空を見上げれば、大きな青色の空が暗く沈んだ心を包み、夜に見上げれば、綺麗な星たちが自分の心の中にある欲望を洗い流してくれる気がするんです。』
そう言うといっそう心が綺麗になって行く気がした。そんな心を読み取ってレディスクスクスと笑ったのがわかった。
『そうか....。』
そう遠くの星をみるようにして、静かに言った。そして、少し強い口調で、言い始めた。
『しかし、完璧を追い求めるでないぞ!欠点があってこそ人間、欠点がないように見えるのは、ただ綺麗事で生きているだけだ。人生を綺麗事だけで終わらせるなよ。そんなことをすればつまらない人生になる.....。』
最初の一言こそ強い口調だったが、最後はまるでどこかに行ってしまった昔の友を見る化のように寂しそうな口調で言い終えた。そして、ドレイクと同じ方向を見て、目を細めながらいった。
『レディスにも同じようなことを言われました。欲望があってこそ人間だって。』
ドラゴンの話が出て気がついた。ドレイクのパートナー、ブルースの姿が見えないのだ。そして納得したように頷き心を読んだのかのように、師匠はいった。
『そうか。さすがはドラゴンだな人間のことをよくみている。ん?ブルースか?彼女は最近この時間になると村の見回りをしているんだよ。最近少しいやな気が漂っている気がするんでな。もっともなにかが起こるなんて、滅多にありはしないがね。』
『そうですか。なにもなければいいですが......。』
そうだなと師匠はまたひとつ頷いた。ここ二百年ほど、エルドラード付近ではなにも起きていない。だからみんな安心しているのだ。そんなことを話しながらふと思っきづいたた。
(おい。レディス、驚いたふりしてたけどお前は師匠が来ること匂いでわかってただろ?)
犬は人間の100万倍以上鼻が利くと言う。ドラゴンは、そんなには利かないが、それでもゆうに人間の1万倍は鼻が効くのだ。そんなドラゴンがこんなに接近するまで気づかないわけがないのだ。臭い消しの呪文を使っていなければだが。
(あら、ばれちゃった?少し驚かしてやろうと思ってんだよ。)
レディスはそんなことを言いながら、アレクがレディスが気付いていたと今まで知らなかったことを面白がって笑っている。その証拠にはなから、フッフゥと息が出ている。全く何てやつだ!だますなんて....。そんなことを思いながら、師匠のはなしを半分に聞いていた時だった。突然ブルースの咆哮が聞こえたのだ。反射的に叫んだ。
『師匠!』
『何かあったようだな!私はこれからブルースのところにいってなにがあったのか確認してくる!何があるかわからん。そのあとここに戻ってくるからそれまでまっておけ!』
咆哮が聞こえてからの師匠の反応は早かった。いままで平和ボケしていると思っていたがそうでもないらしい。しかし、師匠を一人でいかせる訳にはいかない。師匠も言った通り、なにがあるのかわからないのだ。師匠はもう現役を引退しているのだ。
『師匠!そんなこと言わずに私たちにもおともさせてくださいよ!師匠はもう現役を引退しているですよ!?』
師匠に始めて自分の意思をこんなにはっきりと伝えたきがする。だが、彼に対する答えは、よそうしたようなもののようで実際にはそうでは無かった。
『そうか....。お前もそう言う風にはっきり言えるようになったのか....。だがこればかりは譲れない。もし、何かあった時に全滅ではどうする!?ドラゴンライダーたちがいなくなったらどうなる?いままで止めて来た魔物たちだって止める人がいなくなる。そんなのじゃ人間ーーそこまでは行かないかなーー少なくともエルドラードは終わりだ。』
『しかしそれならば師匠が.....』
最後まで言い終えることはできなかった。聞き慣れたリズムの言葉が聞こえた。魔法だ。そこで意識が途切れ。
目が覚めたのは同じ場所だった。しかし、昼近くだ。たしか何かあったはずだ。何か思い出せない自分にだんだんイライラしてくる。考えているとやっと思い出した。
『こんなことをしている場合じゃない!村へ行かなれば!レディス!』
隣でうつぶせていた、ドラゴンを揺り起こす。
(ふぁーあ。よく寝た。おはようアレク。どうしたの?そんなに焦っ.....)
ドラゴンの言葉は最後まで続かなかった。途中で思い出したのだ。ここでなにがあったのかを。記憶がなくなる前、師匠は『睡眠的安息』と言った。この呪文により、眠らせたと言うわけだ。魔法の原理と言うものは、わかっていない。しかし、その言葉に自分のちから(オーラと言うのだろうか?)を込めることにより、魔法を使えるのだ。
(なにをしているの?アレク!早く背に乗って!)
レディスにそんなことを言われながら大きなドラゴンの背に乗って、村へと向かう。村ではなにがおこっているのか?敵がいたらどうしようかとレディスと話しながらとんでいると、三十分ほどして村のあった辺りが見えてきた。その場所をみてがくぜんとした。そこはもはや村ではなかった。もともと村があった場所には、家が焼き払われ、焼け野原となっていた。しかし、その所々に人が立っている。急いで、駆け寄ってみるとなんだか様子がおかしい。
『おいっ昨日の夜ここでなにがあった?敵が攻めてきたのか?なんとかいえ!』
その人は、目を見開いて一ヶ所を見つめているのはおかしいが、見かけはいつもと変わらなかった。しかし、呼びかけにはなにも反応がない。アレクは、イライラとして、引っ張たいてやろうかとおもって手を上げた時に気づいた。まったく動かなかい....まるで石になってしまったかのようだ。
『なんだこれは.......!まるで石じゃないか....。』
その後も何人かの村人にも話しかけてみたが、結果は同じだった。そして、奇妙なことに気がついた。皆が皆、同じ場所をみていたのだ。それは、村の入り口付近だった。だれかがはいってきて、みたときに石になったと言うことだろうか?
その場所にいってみると、大きな何かが争ったような形跡があった。また、何かがはったようなあとがあり、あたりの土は、ぐちゃぐちゃに踏み潰されている。ブルースの物らしき大きな足跡もある。つまり、鳴き声が聞こえた後、ブルースが何か大きな物と戦ったとゆうことだろうか?
(アレク、ここにいたのは蛇ではない?)
(そうか.....。それならこの何かが這ったようなあとも頷けるな。でもブルースとやりあえるような大きな蛇なんているのか?)
(ここにはただ、ぐちゃぐちゃになった土があるだけ。本当に蛇なのかわからない。)
(そうだな。しかし、危険とブルースが判断したのなら、咆哮で警告して村人たちをのせて何処かに連れていったのでは?)
村人たちは、年配のドラゴンライダーたちが不在で、その相棒のドラゴンしかいない時に敵が来て危険な場合は速やかに背に乗ることになっているはずだ。(今はちょうど、遠出をしていたり、魔物を倒しにキャンプしていたりと、村にいるのは師匠だけだったはずだ。)しかし、そんなことよりも蛇の種類で大きくなる物を考えてみる。思いつくのは、せいぜい11~12m程度。子供のドラゴンならまだしも、ブルースは相当生きていて、頭から、尻尾の先までなら2、30mはあるだろう。どう考えても、つりあうはずがない。しかしここには蛇のはったようながあるし、実際に争ったような後も残っている。ならばなにがあったのだろうか?
(そんなことを考えてやる場合じゃない。ここにいない人たちは、どこにいるんだ?)
(冷静に考えてアレク。確か東に何かあったときに逃げ込む、洞穴があったはず。そして、ブルースが、背中に村人を載せていたとしたらそこにいくんじゃないの?)
(そうだ!早く行こう!)
ここから東に二、三キロほどいったところに、洞穴があり、何かあったときには、そこに避難することになっている。
(敵がいるかもしれない、静かに行こう。)
できるだけ静かに、魔法によって、体を隠して向かった。そこには、レディスの背中に乗って行ったおかげで、一、二分で近くまで着いた。
(ここからは大きい体では目立ってしまうから、歩いていこう。)
そう、レディスに言うと、アレクは、レディスから降りた。ここまでつかって来た呪文は姿を消すだけで、音は消えないので、静かにゆっくりと歩いて行く。
洞穴まで行くと、誰か(男らしかった)と師匠の物らしき話し声が聞こえた。
『やはりそれほどのバリアをはることができるとは、ここに残して行くには勿体無いな。しかし、そろそろ精神的にも限界なんじゃないのか?』
誰かが言う。
『うるさい....!』
師匠が、唸るように言った。そのあと威嚇するように、ブルースが一声吠えた。
『おーおー怖いねードラゴンは。さてそろそろこんなことも終わらせようドレイク。炎玉』
そう冷たく言い放った。しかしそれがドレイクまで届く前にアレクは反応していた。
『消去』
そう叫んだ。この言葉により、男が、炎玉と言ったときに出てきた、炎の玉を消したのだ。消したと言っても火の玉そのものの存在を消したのだ。
『誰だ!出てこい。なぜ俺がドレイクを殺そうとしたのを止めた?』
出てみると、男の他に後ろに、たくさんのドラゴンライダーたちがいた。何人かは知った顔だ。
『俺はドレイクの弟子のアレクだ。』
そう言うと突然男は笑い出した。
『これは傑作だな!ドレイク!まさか弟子に助けられるとは!お前も落ちたもんだ!』
そう笑いながら言った。それを言い始めるよりも先に、ドレイクは、アレクに向かって驚きの目を向けていた。どうやら男のその言葉も耳に入っていないらしかった。そして納得したように頷いた。
『どうしてここにいる?そうか.....魔法の効き目がきれたのか。ありがとう。助かったよ。』
師匠は、そういってくれたが、精神を集中しなければならない魔法を、特訓の時から何回も使ったことと、男の火の玉を打ち消したことによる疲労で返事をするどころでは無くなっていた。ふらりとよろつき、地面に手をつく。目は男の顔を睨んでいる。しかしこの男相当に強い。ただ炎の玉を出すという単純な呪文なのに、威力が、凄まじかった。
『もう一度使えば倒せそうだな。炎....』
その後の呪文をきくことができなかった。一瞬の出来事だった。ブルースは、四本の足で、しっかりと踏ん張り、首を後ろに縮め、少し貯めた後(貯めたのもほんのいっしゅんだった。)炎をふきだした。一瞬あたりが明るく照らされる。美しかった。長年訓練してきたおかげだろうか、それとも見入ってしまったからか早いはずなのに不思議とゆっくりに見えた。
『つっ.....!』
男が何か防御呪文のようなものを唱えようとしたが間に合わなかった。この攻撃が成功したのも、意識がこっちにそれていたからだろう。いくら一瞬とはいえブルースの方をみているときでは、予備動作の時点で軽々と止められていただろう。だが、炎が止まっても、炎にまともに当たったはずの男に変化はなかった。なんと炎が男の前で止まっていたのだ。これはバリアの呪文だ。しかし、炎をはいた時何かを唱えようとしていたところを見ると、本人の意思ではないようだ。
『グレイス。わしもまだ、完治していない。帰るぞ。』
いままでそこにあるのは気づかなかったが、男の後ろに籠のようなものがある。そのの中から、突然低い、腹に響くような、それでいって、何か惹かれるような声がした。その声がすると、男は胸の前で手をひねり礼をしながら言った。
『わかりました。ドレイク、決着はまた今度だ。じゃあな。』
そしてそう言うと後ろを向いて『さぁいくぞ。』と男たちに声を掛け、隣にいたドラゴンにのってどこかへ飛んでいってしまった。そこまで、気が張っていたせいなのか、精神を集中しなければならない呪文を、立て続けに使ったせいなのか、凄まじい威力の魔法を打ち消したせいなのかわからなかったが、彼らが見えなくなった途端また意識を失ってしまった。
そして、再び目が覚めたときは、ベッドのうえだった。そして、なにやら師匠達が話し合っていた。
『おっ。起きたか。お前のおかげで、命が助かったよありがとな。』
師匠が言った。しかしそんなことを聞く間も無く、色々と質問したいことが頭に浮かび、それを口にしようとすると、師匠に止められた。
『その質問に応えるのは後だ。外で、レディスがお前が起きるのを首を長くして待っているぞ。』
止められたことに対する、不心感もあったが、後で話してくれると言ったのでとりあえずわかりましたと返事をし外に出る。
(アレク!よかった!でも....なんであんな無茶をしたの!?魔法の使いすぎは、自分の中のエネルギーが枯渇して、死んでしまうかもしれないことは知っていたはず.....)
感動の再開かと思えば、いきなり怒られた。そのくらい大切な存在だったということだろうが、おこられるのはあまり気分が良くない。
(まあまあ、無事に生きてたんだしよかったじゃないか。それに、師匠が死んでしまいそうだったんだ。結果的にあのおかげで助かったんだし。そんなことより、ボブたちは?)
いきなりレディスが、黙りこくって、深刻な顔をしてしまった。その反応に、もしそうだったら聞かない方がいいだろうことを思わず聞いてしまった。
(おいおい。まさかあの逃げ足の早いボブが、逃げ切れずに死んだなんて言うんじゃないだろうな?)
(いや.....生きていると思う。)
そう聞いても、安心するとこはできなかった。なぜならそう言いながらも、レディスは暗い顔をしていたからだ。
(ならいいじゃないか。一体なにがあったんだ?それと思うってどういうことだ?)
答えは聞かなくても分かる気がしたが、少し苦笑いしながら聞いてみる。
(ボブは......ボブは、行方不明だ。あのエルドラードを、攻撃していた集団についていったのかもしれない.....。最悪の場合死んでしまったのかも.....。そういう意味で、思うと言った......。)
予想していたとはいえ、実際聞くと声が出なかった。だが、パートナーの元気がないいま、励ませるのは自分しかいない。そう思い、無理に笑顔になって言う。
(おいおい。そんなこと言うなよボブが裏切ったりしんだりするわけないじゃないか。きっとスパイになってるとかじゃないか?心配することないって。)
しかし、実際心配だった。そんなことはないと言われたらどう答えようか迷っている時に、タイミング良く師匠に呼ばれた。
『アレクそろそろこれからどうするか話し合うから中に来てくれ。』
『すぐに行きます。』
返事をして、こやへとはいる。中に入ると、村人達とドラゴンライダーたちがいた。しかし、どこを探しても親はいなかった。
『師匠、私の親は.......』
そこまで言うと突然師匠の顔が曇った。そして、ボブがいなくなったことに対してさらにおいうちをかけることばがかえってきた。
『残念ながら、ここにいる人たちで全てだ......。お前の親も.,......。』
頭がまた真っ白になった。もう、我慢できない。どうして。どうして。涙が溢れて止まらなかった。さいごのことばがあんなことになるなんて.....。その時レディスがいった。
(人間いつかは死ぬもの。それが早いか遅いかだけ。それに私は生まれた時にすでに親が死んでいた。それに比べれば、会えて一緒に住めただけいいのではない?)
そんな声が小屋の外で、他のドラゴンと共にいる、レディスから聞こえてきた。さすがに、この暗く沈んでいる時にこの言葉はカチンときた。そして、勢い良く外へ飛び出し、思わず声を荒げて言ってしまった。
『早いか遅いかだけだって?一緒に暮らせただけましだって?一緒に暮らしたからこそ悲しいんだろ!どうせ、親と一緒に暮らしたこともない、家族もいないようなやつにこの思いわからないよなぁ!いままで心の友だなんだと言ってきたがしょせんお前なんて、赤の他人なんだよ!』
いってから後悔した。最後の言葉は言い過ぎた。これは本当に、レディスにとって悲しいことだっただろう。だがもう遅かった。レディスは、一瞬悲しそうな顔をして、飛び立ってしまった。
(ごめん。いまのは......)
謝罪の言葉を言い終わることはできなかった。なぜならその前にレディスが喋ったからだ。
(そう。私とあなたはただの他人、一緒にいる意味もない。じゃあ私は山へ行く。ここでさよなら。)
そこまで言うと飛び上がり何処かへ行ってしまったおそらく人生で一番この瞬間後悔しただろう。
『アレク。どうするかは私たちで決める。君はレディスを探しにいっておいで。』
師匠は優しくそう言ってくれた。しかし、こんなことになったのも、レディスのせいだ。おそらく、飛んでいったと言うことは、一人で考えたいと言うことだろう。一人にしてやろうと決める。そして、喧嘩をしてあんなに言い合ったすぐ後なのに、レディスのことをしっかりと考えられている自分にびっくりしつつ、苦笑した。
『いえ。レディスは、一人で考えたいと思うので、ここで師匠達と話し合うことにします。それに自分もあってからなにを言えばいいのかわかりませんから。』
『そうか。本当にいいのだな?』
師匠の問いかけにはいと応じつつ、こやへと向かう。3度中に入ってみると、村人達は、別の部屋へと移動させられたのか、ドラゴンライダーしかいなかった。そして、ドラゴンライダーたちは丸くなって座っている。しかし、あまりにも数が少なすぎる。若いドラゴンライダーが自分を含めて、三人。年配の、師匠となったドラゴンライダーが、師匠を含め三人。たったそれだけだ。その中でも、もっとも年配の、パートナーも二百年前のエルフとの戦争でころされてしまったと師匠から聞いたことがある、フレイヤという男が口を開いた。
『よし。とりあえずいま動ける全員のドラゴンライダーが揃ったな。ではまず初対面のものもいるだろうから、自己紹介からだ。わたしはフレイヤ。おそらく、ここにいるものの、誰よりも長くドラゴンライダーだった。過去形なのは.......』
フレイヤは、ここで、何かに耐えるように、まるでここでこの先を言うべきか迷うように口を閉じたが、思い直したように再び口を開いた。
『過去形なのは二百年前、エルフとの戦いでパートナードラゴンを殺されてしまったからだ。悪いが、これからは、ここを仕切らせてもらう。よろしく。』
そういい、席についた。だがその時にはもう迷うような顔はしていなかった。
次に口を開いたのは、その左側に座っていた、師匠だった。
『フレイヤの教え子のドレイクだ。パートナードラゴンは、ブルースと言う、金色のドラゴンだ。よろしく。』
そう言って座った。その次は、年配の少し太っているドラゴンライダーがマニーだ。よろしく。とだけ言って座った。その後、自分を含めた若い三人が自己紹介し、話し合いに入った。
『よし。これで終わりだな。ではまず起こったことについてわかっていることをわたしから話そう。そのあと質問やつけたしがあればいってくれ。ま、長くなるだろうから気を楽にして聞いてくれ。』
そう言ってフレイヤが話し始めた。
まず、初めに異変に気付いたのはブルースで、蛇のような鳴き声を聞いたのだと言う。だが、あまりにも大きな声だったのでみにいってみると、頭から尻尾の先まで、三十メートルは、ありそうな蛇がいたそうだ。初めは、このくらいと思い戦おうとしたが、村人の様子がおかしかったのでみてみると石になっており、なった人は蛇の目をみていたらしいーーこれはおそらく蛇が、みたものを石に変えるという、ナーガの子孫だからだろうと後から師匠がつけたした。ーーそして、このままでは危険だと思い、洞窟まで村人を連れていったのだという。そこからは師匠が、戻ってきて洞窟をバリアで、守りその後、敵が来たのだそうだ。ここからは、アレクたちがみた通りだ。そして、アレクが、気絶した後には、近くのこの小屋に移動し、どうするかまずは年配のドラゴンライダーたちだけで話し合っていたそうだ。しかし、若い者たちの意見も必要だということで全員がここに呼ばれたらしい。そこまで話すと一回きって、話し出した。
『ここからが本題だ。これからどうする?さっき、グレイスに話しかけていた男はおそらくーー村を襲った蛇の姿や、村人が石になったことなどから考えてーー昔、この国を半壊させ、挙げ句の果てに封印された悪魔だろうと思う。』
その話はアレクも聞いたことがあった。確か、エルフとの、戦争よりもはるか昔千年以上前に、この辺りの国を破壊し、恐怖によって国民を支配した悪魔がいたということだ。その悪魔は、人間、エルフ、ドワーフ、フェアリーなどの連合軍によって、封印されたと言い伝えられている。だがまさかこの伝説が本当だったのだろうか?
その疑問には、自己紹介で、アンナと名乗った若い女のドラゴンライダーがちょうど聞いてくれた。確かこの少女はアレクの姉弟子だったはずだ。
『あの~発言いいですか?』
そう言いながら手を挙げると、視線が彼女に集まった。内気な性格なのだろうか、少し恥ずかしそうにして頬を赤らめながらいった。
『あの~その話はみんな知っていると思うんですけど、伝説だと伝えられていませんでしたか?』
すると、フレイヤや、ほかの年配のドラゴンライダー達は顔をうつむけた。そして、大きく深呼吸して話し始める。
『いまの話が、伝説ということになっているのは、グレイスのように再び目覚めさせ、この国を支配しようと考える奴が現れないようにと最近村のみんなでしたことなのだ。』
そこまで言うと、年配のドラゴンライダー達が、皆が顔をうつむけた。そんな中アレクには聞きたいことがもう一つあった。
『すいません。こんな空気の中言うのが正しいかわからないんですけど、グレイスは、師匠と、同じ代のドラゴンライダーなんですよね?でしたら、弟子達はいないんですか?もしいるんなら、いつも近くにいるんだから気付いてたんじゃ.....?』
そうアレクはどうしてあんなにも簡単に、グレイスが裏切れたのかがわからなかった。そんなに強い悪魔だ。呼び出す準備にも相当な手間と時間がかったはずだ。それならば、弟子達が気がつかないはずがないのではないだろうか?
『もちろんいたさ。でもな全員あいつらに連れて行かれたんだ。いま師匠として働いているのは、ドレイクと、グレイスのほかに彼らの同じ代の者が二、三人だけだ。わたしよりも、上の代の人達や、同期の者たちは、亡くなったり、旅にでたりしてほとんどが行方不明なんだ。だから今回は.....』
もう一つ。この国を滅ぼしてしまうような、悪魔をどうやって退けて、王位につこうというのだろうか?それを聞くと、
『悪魔が望んでいることは、血だけだ。それ以外のことには興味はないのだろう。』
そこまで言うと今まで以上に、その場が静まり返り、誰も口を開こうとしなかった。皆威圧されてしまっているのだ。たとえ年配のドラゴンライダー達でも。そんな中、マニーと名乗ったドラゴンライダーだけは違った。
『奴がなにをしようと関係ない。問題はそれをどう止めるかだ。あの程度の剣の腕ならおれ一人で勝てる。だから話し合う必要なんてない。ここにいる中で俺が1番強いんだからな。だからおれはもう帰るじゃあな。』
いきなり自己紹介の時とはまるで違う勢いで話し出した。そして、そう言って部屋へ帰っていった。すると、フレイヤが、一つため息をついて話し始めた。
『全く。相変わらず自分勝手なやつだな。だがいい機会だ。そろそろ暗くなって来た。この続きはあしたにしよう。最後にこれだけ聞いてくれ。ここが襲われた後に、他の修行の地でも襲われたそうだ。それだけしっておいてくれ。解散だ。』
そういうと、皆立ち上がって、各々の部屋へ戻ったり、外へ出て行く。そのあとドレイクが近ずいてきて、アンナとアレクに、嫌な予感がするから、バリアを張っておくといった。アレクたちは自分でやるからと断ったが、この中で最も魔法を使うときに使うエネルギーがあるのはどう考えても師匠だ。バリアは、使っている間体力を使う他の魔法と違って、張った時に溜め込んだエネルギーを使うのだ。だからこの後何かがあるとしたらここでエネルギーを消費して動けなくなるのはまずい張ってもらった後、アレクは喧嘩してしまったレディスに会うために外へ出た。するとすぐそこにレディスがいて、のれとばかりに背を低くしている。足を伝って、背中に登ると、すぐさま飛び上がった。
(さっきはごめん。私はずっと考えていた。家族がいなくなるということがどういうことか。今まで家族なんていないと思っていた。だから悲しかった。だけど少し考えればすぐわかった。アレク、あなたが家族だ。だからあなたがいなくなることを考えたら、とてもかなしかった。でも本当にいなくなってしまったわけではない。私はあなたの家族。どこにもいかないし、いなくならない。だからこれからもよろしく。)
そう空中で、綺麗な夜空をみながらホバリングしながら言ってくれた。それだけでうれしかった。だから、心の中だけでなく、声に出していった。
『ありがとう。俺もさっきは言い過ぎたよ。ごめんな。』
だが、そこまでいうとその場の雰囲気がしんみりしてしまったため、今日決まったことを、話そうとした。だが、遠くに、かがり火らしきものがみえる。明らかに移動している。さっきのやつらだろうか?レディスに一言つぶやいて注意をうながす。
(あれはなんだと思う?)
(恐らくさっきの奴らだと思うけれど、それにしては規模が小さい。それに、ドラゴンたちがいる様子もない。一応師匠達に報告しておこう。)
師匠にそのことを伝えると、うつむいて、考えこんでしまった。そして、しばらくして口を開いた。
『十中八九あいつらだろうが、規模が小さいのが気になるな。夜襲をしかければ、少なくてもどうにかなると思ったのか?』
そう言うと、フレイヤに報告しに行った。すると、十分ほどあと、全員が起こされ、万が一に備えられた。
『来たぞ。火と匂いを消して歩いてはいるが、気配がする。皆気をつけろ。』
偵察に行った、フレイヤがいった。そしてその直後、角笛の音が鳴り響いた。このおとをきいてからでは、恐らく...いや、絶対に迎撃するのは無理だっただろう。アレク達が見つけたのがラッキーだった。襲ってきたのは、人ではなかった。恰幅のいい大きな体を持っていて、体が毛で覆われている。アレクは、師匠、アンナそしてそのドラゴンたちと一緒に戦った。右側には、ドレイク左側には、アンナ、そして後ろは彼らのドラゴン達が守ってくれている。きっと大丈夫だ。そう考えながら真正面から向かって来た怪物が、殴ろうとこぶしを上げたところで、胸を剣でひと突きする。突いて、その右手をそのまま横に払いほかの怪物達にも、傷を与える。だが、ガラ空きになった腹に殴りかかって来た奴がいた。よけられない!そう直感したが、横から、刃が飛んで来る。
『気をつけろよアレク。油断するな。日々の鍛錬で習ったことを忘れるな。』
みれば、師匠は一振りで二人、三人と、斬り倒して行く。それから、一時間経っただろうか?それとも十分だろうか?どれくらい経ったかわからなくなるくらい無茶苦茶に敵を切りまくった。そして、敵の波が収まって来ると今度はライダー達がきた。ドラゴンはいないようだ。
人間のライダー達は、3人だけだった。そしてその中にマニーがいた。おそらくかれはスパイだったのだ。ああいって出ていった後彼らと接触したのだろう。ああ言って出ていけば、会議が中止になるのは明らかだ。つまりあれからずっと踊らされていたのだ。そんなことを考えながら、怪物を倒す。すると、ライダーがこっちに来た。パートナーなしで、3人とドラゴンに向かって来るとは、バカな奴らだと思った。だが、二匹のドラゴンがいつの間にか彼らの後ろに来て彼らのドラゴンと戦っている。ほかは?みるとみなあの怪物に、苦戦している。そして数がこちら側に来た時より桁違いに多い。 1組ずつ潰していくつもりなのだろうか?そう考えているうちに敵が目前まで来ていた。
『一度横に広がるぞ。このままでは狭すぎる!』
師匠が叫ぶ。その声を聞きながら、アンナが、横に跳ぶ。それを見てドレイクは、後ろに下がった。だが、アレクに切りかってきた仮面をした男は早かった。下がろうとしたところを切りつけてきて、すんでのところでバリアが働いて助かった。しかもこの敵は迷わず首筋を狙ってきた。これは迷わず、命を取ろうとしている証拠だ。男はその後バリアに当たったせいでバランスを崩す。その隙を逃さずに大きく剣を振り下ろすが、罠だったようだ。敵が剣の先を下げて斬撃を横に流す。すると今度はこちらの番だとばかりに、次々と剣を打ち込んできた。横に払う、その勢いのまま左手でのフック。そして、上から下へ剣を振り下ろす。そのような技を使ってきた攻撃をすんでのところで剣で受けたり、バリアに守ってもらったりしていた。これも師匠のバリアのおかげだ。息をつく間もないような攻防戦が始まって、どのくらい過ぎただろうか?そろそろバリアも限界が来る。どうすれば良いのか?魔法を使ったら?ダメだ。唱えている間にも少しは剣の動きが遅くなってその間にバリアが崩れてしまうかもしれない。考えているうちに、バリアが薄くなっていくのを感じる。そしてバリアがなくなった。その勢いで相手がバランスを崩した。
これも罠だろうか?わからないが反撃するならここしかない。考える間もなく、剣を狙って必死で叫んだ。
『剣よ!壊れろ!』
だがこの呪文が剣に届くことはなかった。(おそらく身代わりの呪文をかけておいたのだろう。)代わりに仮面が吹き飛んだ。この瞬間、反撃をしようという気も失せてしまった。そして突っ立つしかできなくなってしまった。そこには、よくしった顔があった。一緒に修行をし、話し、笑い、泣き、喧嘩をしたボブだった。
『な.....なんでお前が?』
そういえば、敵についていったとレディスに聞いてはいたがまさかここで会うことになろうとは。ボブはそういう間も打ち込んできた。しかし、心が不安定なアレクに全てを受け止めることはできなかった。そして、アレクの剣を弾き飛ばし、首に剣を突きつけていった。
『お前はいいよな。裕福な家庭で育って、何の苦労もせずに大人になる。だが......俺は違う。貧乏な家で満足に飯も食えない。そんな中でどうやって生きていく?お前の家とは少し離れていたから気づかなかっただろうが、周りの家に頭を下げ、またかと言われ、もう貸す金はねぇそのまま死んじまえこの人の金を食う化け物めとののしられ、蹴られる。その度に思ったよお前がにくいってね。そして、アルバードに選ばれた時思ったよ。やっと、俺のことをバカにしてきた奴らに復讐することができるんだってね。』
聞いている間何も言えなかった。
『お前はそんな.....』
やつだったのか?とは言えなかった。なぜなら、どんな苦労をしていたのかアレクにはわからないのだ。
『喋るな!殺すぞ!何の苦労もせずに育ったお前に何か言われる筋合いはない。今回は、お前を殺すことが目的ではないからこのまま引いてやる。だが、下手なことをするなよ。』
どこか諦めるような、それでいって吐き捨てるよううにそう言って剣を下ろした。だが、何かするような心情にはなれなかった。ボブはそのままどこかに待機していたのだろうアルバードに乗って飛んで行ってしまった。その時アルバードが、何かを決意したような目でこちらを一瞥していった。
アレクは立ち尽くすしかなかった。もうこの戦いの音も、戦士たちが時々あげる鬨の声も聞こえない。呼吸が荒くなる。意識が飛びそうだ。そして、ボブと会えたことはよかったが、まさか本当に裏切っただなんて.....。
『......ク.....レク.........アレク......アレク‼︎』
気がつくと師匠が肩を揺すりながら呼んでいた。
『し、師匠?ボブが.....今攻撃して.,....』
『しっかりしろ!そのことは後だ!今は何をすべきか考えろ!今お前がいなくなったらどうなる?まだ敵は残っているんだぞ!?』
そうだそんなことよりもまずは村人を守らなければならない。そう思い深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
『ありがとうございました師匠。もう大丈夫です。』
『そうかならよかった。私はアンナと村人たちが心配だから見てくる。戻ってくるまで、ここで踏ん張ってくれ。信じているぞ。』
了解しましたと言いながら錯乱している(司令塔である人間がいなくなったからだろう)怪物たちを突き刺し、叩き切り、ほうっていく。そして、アレクがもらした敵は、レディスが、炎で焼き払い、鋭い爪で引き裂き、踏み潰した。しばらくして敵がいなくなったので、まわりを見渡してみる。そういえば、戦っている間ひとを見ていない。そして今も人は見当たらないのだ。普通の村人たちは、隠れているから見えなくてもおかしくはないのだが、ライダーたちの姿もいつの間にか見えなくなっている。とりあえず師匠達と合流してみようと、レディスに提案され小屋の方へと向かう。だが、そこにもライダーや、村人たちの姿はない。そして、小屋の前の庭園の前で師匠とアンナがう何かを埋めていた。よく見ると周りにも同じように何かを埋めた跡がある。しかし、ドラゴンの姿はない。
『師匠。ライダーたちや、村人たちの姿が見えませんが......。』
気まずい空気に、思わず言葉を濁す。
『おおアレクか......。実はな......。』
重い口を開いて師匠はいった。そして、今日何度目とも知れない、驚きと、悲しみの入り混じったような感情になった。
『村人たちの中に裏切り者がいたようだ.....。ここに固めたのが間違えだった。どうやら連れて行かれたようだ。中を見てみたが、かすかに睡眠草を使ったお香の匂いがした。眠らせた隙に、後ろから敵が穴を開け中に入り運び込んだようだ。』
この話には驚いたが、まだわからないことがある。
『で、では他のドラゴンライダーたちは......?』
師匠の顔に再び影が落ちる。
『残念ながら......。私たちは、助かったが他の者たちは、後ろから来た、敵や、裏切った村人たちに連れていかれるかころされるかしたようだ......。生き残ったものに話を聞いてみたが、今言ったこと以外の情報は得られなかった。そしてそのものももう.....。』
そうか....。この埋めているのは仲間たちだったのだ。死んでしまったものたちの中には師匠の知り合いもいただろう.....。長年一緒に戦って、笑ってきた仲間たちを埋めるのは、どんなに悲しいことだっただろう....。そう考えていると、アンナがいった。
『師匠、アレクさんここで悲しんでいても変わりません。これからどうするか決めましょう....。』
『そうだな!ここでうなだれていても仕方ない!どうせなら彼らの仇を討ってやろうじゃないか!さぁ話をしよう!』
きっと悲しいはずなのに師匠は、みんなを元気付ける為か明るい声で言った。
(アレク。ブルース師匠たちは、見回りをしているみたいだから、私も行ってくる。)
そう言ってレディスは飛んで行った。そして、師匠に一言言って小屋の中の様子を見てみる。確かに睡眠草の匂いが残っている。床を見ると、多少血は飛び散っていたが、それほど多くはなかった。
小屋から出ると師匠達は立って話していた。
『あぁアレク。きたか、これからのことだがな、まずこの村を襲った奴らを追ってみようと思う.....どうした?アレクさっきよりも元気がないようだか大丈夫か?』
そんなことを言っていたが、全く聞かずに一言だけ口にした。
『師匠のドラゴンの名前は?』
『おい、なんでそんなことを今聞くんだ?』
うつむいたままいう。
『いいから答えてくださいよ.....。』
『そんなことより....』
『答えてくださいっ!』
顔を上げ叫ぶように言う。
『あぁそこまで言うなら答えるよ。もちろんそれはブルースだ。それが...』
どうした?ということはできなかった。というより言わせなかった。アレクが切りかかったのだ。先手を取ったせいか簡単に斬り伏せ、首筋に逆さに持った小刀を当てていう。
『お前は誰だ?師匠のドラゴンの名前はブルースじゃない.........。正式には、ブル・s・ドラゴルだ。冥土の土産にとっておけ....。』
『おいおいいつも通り愛称で行っただけじゃないか。そんなことはもちろん知ってるよ。いきなりどうしたんだ?た』
そう言われても剣を話さずに淡々という。
『あの部屋にあった血な、暗号なんだよ。俺たちと師匠だけわかる....。そこには必ず正式な名で答えると書いてあったそれまで忘れるはずないだろう?おそらく、ドラゴン達も見回りというのは口実だろう。そしてアンナは幻覚だ。』
そこまで言うと突然師匠の見た目をしたものは顔に手を当てて笑い出した。
『くっくっく!はっはっはっは!実に面白いまさかバレるとはな!』
そしてだんだん顔や、背丈が変わっていく。そこから現れたのは、いかにも悪者という感じの男だった。
『俺の名前はドラクルだ。そしてお前はひとつ間違えをしている。お前の言うアンナという女は幻覚じゃない。あいつは、見た目を変える魔法が苦手だから周りに幻覚を敷いているから、勘違いしたかもしれないがな。』
そう言われると同時に、さっと振り向こうとしたが、遅かった。頭に鈍痛がはしって、衝撃を抑えるため横に転がる。視界の隅にアンナの姿を見せていた少女が立っていた。その間に男も立ち上がった。だが、少女の方に任せて自分は戦う気がないかのようにひょうひょうとたっている。
(この少女だけならなんとかなるかもしれないが、今は油断している男が襲ってきたら.....。とにかくこの大きさの武器なら、大振りになってしまうはず。)
そう考えながら、見た目に似合わず大きな槌のようなものを持っている少女に斬りかかる。左から斬りかかろうとして、槌で防ごうとしたところを、右から斬りかかる。だが、左手で瞬時に抜いた小刀によって跳ね返されてしまった。
『ふむ、どうやらお前はもう一つ間違いをしているようだな。私よりもその少女の方が強いぞ。すくなくともせんとうにかんしてはな。』
そう言いながら男は少女の後ろに立ち両手を合わせ何かを唱え始める。
気づくと少女が、小刀で斬りかかってきていた。その手にはなぜか槌はない。それから10回、20回と金属と金属の当たる音が聞こえた。そして不意に、上から何かが落ちてくる気配がした。アレクが後ろに飛び退くと今まで立っていたところには、あの少女の持っていた槌が落ちてきていた。
『なかなかいい勘をしているじゃないか。私たちと一緒にこないか?』
今まで黙っていた少女がしゃべる。
『誰がお前らなんかと一緒に行くか!』
『そうかなら仕方ないな。ちょうど魔法も組み終わったところだ。』
少女の後ろに立っていた男がいつの間にか何かを唱え終えていった。すると、槌が浮いた。そして上からまるで透明人間が振りかぶったかのように、叩きつけられた。それを横飛びで避けたが、同時に動いた少女に利き腕切りつけら、剣を取り落とす。これでおれは終わりなのだろうか?そう思った時に突然獰猛な叫び声が聞こえ、荒れ狂う炎の嵐がニ人を襲った。
(アレク、お待たせ。どこにもドラゴン達が居なかったから戻ってきた。その傷をつけたのはこの女?)
小さくアレクが頷くと、ブルースはこの場にいる者全員に聞こえるようにしていった。
(こんなもので死ぬはずがないだろう?そこにいるのはわかっている。わたしのパートナーにこんな傷つけたこと後悔するがいい!)
そう言うと、炎がかき消され中から人が出てきた。
『ドラゴンはしばらく帰ってこないと思ったんだけど、計算外だったなぁ。ここは逃げるのが得策かな?』
そう言いつつ、またあの呪文を唱え始めた。しかし、剣を拾ったアレクが男に斬りかかった。傷をつけられた利き腕は、痛みを一時的に感じないようにしていた。そして、先ほどまでの動きよりも数倍早く動く少女は、レディスに押されながらも全て受け流している。
『っ!ドラゴンの相手をしているとしても本気のアスランを抜くとは、このドラゴンライダー達は底が知れないな。これはあのライダー達も不意をつかなければ、勝てなかったかもな』
そう言いながら剣を背から取り出し、呪文を唱えながらアレクと打ち合う。
恐ろしい集中力だ。だが、アレクの方が一枚上手だった。どうやらあの少女の方が強いというのは本当だったようだ。剣を弾き飛ばし、腹部に剣を突き立てた。
『ぐふっ。なかなか強いじゃあないか。ここまでだな....。』
そう言いながら男は崩れ落ち、苦しそうに息をしている。少女の方はいつの間にか首をレディスに食いちぎられ絶命していた。
(アレク、もしかしたらまた襲いかかってくるかもしれない、首を切り落として...。)
レディスにそう言われ、戸惑いながらも男の首に剣を振り下ろした。
『....なんでこんなにたくさんの命をなくさなければならない。師匠だってなんで命を落とした?今日という日は本当に最悪だな...俺は一人ぼっちになっちまったよぉ〜とぉさん、かぁさん、おれ...どうしたらいいんだよぉ』
そう言いながら、アレクは泣き崩れ落ちた。そして寝てしまった。そのアレクをドラゴンが、優しく抱きしめていた。
次の日にアレクが起きると、レディスの翼の下だった。
(アレク起きた?こんなところで泣いていても仕方ない。師匠達の仇を討とう。)
(ああわかっているさだがどうしたらいいかわからない.....)
顔を洗おうと川に行くと、パンパンに腫れた目をしている男の顔が見えた。
(アレク、師匠からの伝言。家出した日に聞いた。もし俺に何かあったら、エルフの都市にいって、王にブルースの本名を言え。)
その言葉を聞くとまた目からポロポロと、涙が溢れてきた。だが、ここでとどまるわけにはいかない。
(よし、じゃあ行くか仇を打ちに。)
そうレディスに行って立ち上がり、レディス乗せにまたり、男たちは飛んでいった。
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