征服者5聯
征服者
涙の痕を残せ
血を唾を吐け
傷口を開けろ
炎を熾こして山を燃やせ
毒を流して井戸を汚せ
人々よ忠誠を誓え
地に平伏せ屑折れろ
切り裂く痛みを浴びろ
そして死の歌を歌え
我こそは
征服者なり
お前たちから
月も太陽も奪ってやる
これから
お前たちの視るものは
仲間の処刑だ
恋人たち
犯しあうふたり
それを恋人と呼ぶ
愛は関係ない
奴隷
かの国の末裔
今や奴隷に身を窶す
お前は何を見るのだ
いつぶりの故郷だ
夏には虫が鳴く野
冬に枯れた宿り木たちよ
ああ
遠くの町が燃えている
奴隷にしか見えぬものがある
鬼
はるか遠いむかし人間は
鋼のような荒馬に乗って
誠のたましいを飼っていた
草いきれに息を殺して
刀の鞘を摑んで
二つの足で立っていた
相手の血を敬い
相手の肉を頂いた
暗きを見なかったあの時代
いつから
人は鬼となったのか
見えぬ者
おれたちは見えない者を
ころしている
遠く離れた国の人たちを
いっしょの陸地に立っているのに
おなじ太陽のもとに住んでいるのに
いつか会えるかもしれない人たちを
毎日ころしているんだ
いつか友になれるかもしれないのに
いつか理解しえるかもしれないのに
ともに人間なのに
おれたちは見ぬ者を
存在しないかのように
ころしているんだ