グレムリン日本支部第三部隊隊長の独白
3ヶ月前。そこからこの地獄は始まった。愚かな研究者が、新しい生命を創造するための研究を完成させ、実行したのだ。
結果は失敗。当たり前だ。彼は確かに優れた研究者だったが、何分テーマに対して彼の才覚はとてもではないがつりあわない。
だが、偶然に偶然が重なり、オマケに奇跡まで起きた。彼は被験体七体を全く別の生物に変質させることに成功したのだ。この被験体達は身売りされた10~18の子供達だった。彼の計画では被験体七体は一つの生命となり言わば超人類のような存在になるはずだったが、彼らは一つの命にはならなかった。だが人間ではなくなっていた。皮膚はどこまでも黒く、髪は白髪に、瞳は炎のように紅くなっていた。
彼らを人間から外れさせたのは黒因子と呼ばれた、地球上に生息する様々な動物達の情報を持った因子。色が様々な色を混ぜると黒になるように、その因子は、元が何だったかわからないほどごちゃごちゃなものだった。
その黒因子のなかの動物の情報の一部がそれぞれ適合し、彼らを人間ではなく、別の何かにした。
人間ではなくなった彼らの身体能力は凄まじかったらしく、研究所に残っていたのは、武装していたのであろう傭兵10人分のかろうじて人間だったことがわかる肉片と黒いナニカ。
それは蠢いていてまだ生きていることを主張し、それどころか言葉を発した。
タスケテ
そういったナニカをDNA鑑定したところ、何十もの動物の遺伝子情報と、あの愚かな研究者の遺伝子情報が見つかった。
そしてその頃から世界各地で、黒い生物が目撃されるようになった。
黒い生物は非常に好戦的なものが多く、多くの人々が喰われた。それぞれの国は警察やら軍やらを投入したが、一匹一匹が非常に戦闘能力が高く、また多くの犠牲者をだした。
だというのに、黒い生物の目撃情報は全く減らず、国連は秘密組織を結成。黒い生物を殲滅するために。
「それが俺達グレムリンだ。」
目の前にいる三人の黒い軍服をきた二人の青年と一人の少女に説明する。
三人とも全く軍服が似合っていない。服に着られるとはこのことだ。おまけに三人とも挙動不審。
当たり前だ。三人とも三日前まで一般人で、昨日彼らは大多数の人間を助けるために人間を半強制的にやめさせられたのだ。
「俺達グレムリン日本支部第三部隊はコレから永良市にグール殲滅を目的として突入する。そのブリーフィングも兼ねて君たちには現状を説明した。何か質問はあるか?」
俺の言葉に少女が反応する。
「私達は、一体どれだけ殺せば自由になれるの?」
少女のその言葉に今度は隣の二人の青年が体をびくりと反応させる。
「何とも言えないが、俺から言えるのは10や20で赦されると思うなよ、ということだ。」
三人ともまた体をピクリと反応させる。
「さてそれでは黒い生物、呼称グールの永良市殲滅作戦を説明する。」
我ながら酷いことを言うものだ。俺達はこの安全地帯で指示をだすだけ。戦場に向かうのはまだまだ若い彼ら。彼らより二回り年上だというのに、なんて酷い大人なんだ。
許して欲しいとは言わない。憎め。俺をこの世界を。この理不尽を。憎め。
そして憎んで力にかえろ。憎しみなんて愚かしいと思うかもしれんが、命のやり取りで大事なのは躊躇わないことだ。憎しみがあれば躊躇なぞしない。憎しみがあれば諦めなどしない。
私は君たちに生きていてほしい。
この地獄に変わった世界のなかで。