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宝女ヘレナ  作者: 竹取ノ翁
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Ⅱ.マルクス


第二南都市・マルクス川


「ねぇ、つまんない。一緒に遊ぼうよ」


マルクス川の河原に2人の人間の姿があった。1人は5〜6歳程の子供で、水着を身に付けて川遊びしている。もう1人は立派なメイド服を着た女性。川の水で洗濯している。


「あら、いけませんわジル様。お洗濯が終わりませんとお屋敷に帰ることができませんもの。帰ったらお夕飯の支度とココ様の御面倒もございますし」


ジルと呼ばれた子供は頬を膨らませながら川に石を投げつけた。


「あいつの面倒なんていいよ。それよりこれ見て!」


メイド服の女性は手を働かせながらジルのほうへ顔を向けた。しかし、彼女の両目には包帯が巻かれており、それを見ることはできない。


「何でございますか?」


「水鉄砲!竹で作ったんだよ!山のおじちゃんと作ったんだ」


「まぁ、リブーン山の竹を?御上手ですこと」


「へへん!いーでしょ。これ!ヘレンの分もあるんだよ。ほらっ!」


ジルは彼女に褒められたことが嬉しくてもっと構ってもらおうと考えたのか、洗濯中の少女めがけて水鉄砲を発射した。少女は水の音に気付いたが、時すでに遅し頭から水を被ってしまった。


「きゃあ!!冷たい!・・ジル様、この服を汚してしまいますとお父様のお叱りを受けてしまいます」


女は手を止め、ジルの方を向く。そしてジルの笑い声を聞き、溜め息をついた。


「もうすぐ洗濯は終わるというのに、濡れたままではお屋敷に帰れませんわ」


びしょ濡れになってしまった彼女であるが、着替えなど持ってきてはいないようだ。濡れたメイド服と美しい銀色の髪がぴったりと身体に張り付いている。彼女は、その場に立ちメイド服を脱ぎはじめた。


その様子を見てジルが川から上がってきた。


「ヘレンも泳ぐの?」


「ええ、服を乾かしませんと。ジル様と川遊びをしていたことはお父様には内緒にございます」


女は背中のリボンを解きメイド服を脱いだ。水に濡れた白い肌が太陽の光を浴びてキラキラと光っている。


「はい、ヘレンの分。えっと、ちょっと待ってて、僕のも持ってくるから」


ジルは女に水鉄砲を渡すと川の方に向かって走り出した。女はそれを逃さない。


「ジル様、先程の水をお返し致します」


女はジルの背中へ水鉄砲を向け、勢いよく発射した。



第二南都市・マルクス街


リブーン山の北麓に位置する街マルクス。第二南都市全体の3分の1の領土を持つこの街は都市の中心且つ政治的権限を南の王より与えられている。人口ははこの街一つで第三南都市の人口を上回っておりとても賑やか。

マルクス街を、また、この都市を統率者する男スミス・レインは聡明でなおかつ賢明な判断力を持つ者として王からの大きな信頼を得ている。性格は穏やかで、いつも街人の味方になってくれると、街人からの信頼も厚い。

ジル・レインはこのような男を父にもつため、物心つく前から人々に可愛がられ、少々わがままに育ってしまったようだ。



マルクス街・レイン家


「ヘレン早く!こっちだよ!」


ジルは屋敷玄関前の階段を昇り終え、上の方で待っていた。


「はぁはぁ、ジル様。はい・・っ」


屋敷に帰り着いたときには日が落ちかけていた。女は玄関の前に立ったところで息を整え、扉に手をかけた。


ギギィ・・バタン


「ただいま戻りました」


扉を開けると、玄関に1人の男が立っていた。


「遅いぞヘレナ・・ジルも。何者かに連れ去られたかと心配しておったのだよ」


「申し訳ありませんスミス様。すぐにお夕飯の支度をいたします」


ヘレナは玄関の隅に洗濯物を置き、すぐに食堂室に向かうのであった。



リブーン山・頂上


第三南都市の頂上を超えるとそこから先は第二南都市だ。通常この都市境を通るには通行許可が必要であり、それ専用の通路を通るよう義務付けられている。しかし、通行料は高い。庶民の所得ではなかなか手が出ないことから、現状では不法に山を超える者も少なくない。


今夜も同じように不法に山を越えようと試みている2つの影があった。


「はぁはぁ・・。やっと頂上だ!おいネコ。あそこに見えるあれがレインの屋敷だ」


「あの大きいやつ?入るのたいへんそうだにゃー。・・ネコってゆーな」


2人はフードを被っているが、片方の足元には長い毛のようなものが落ちていた。


「あそこにいるんだろ?ヘレナって奴」


「うん、噂だけどね。あそこの主人に引き取られたらしいよ。いるといいな〜」

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