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重なる想い  作者: 沖空翔
5/5

食事

「洋太。」

松原の声がした。ふっと我に返り、

「早かったな」

と、危なげない返事を返した。

「何ぼーっとしてんの?」

「ん?いや、疲れてるからさ」

本当は、松原とあったことで、今まで振り返らなかった高校時代を思い出してしまった。それだけは知られたくないと思い、とっさに疲れていると答えてしまった。

「じゃあ、ご飯食べたら、すぐに帰ろっか」

「大丈夫だって。それより、どこ行くのか決めてあるのか?」

「特に決めてないけど、洋太は何か食べたいものでもあるの?」

「特に無いけど、松原が食べたいとこでいいよ」

「本当?じゃあ、いこうか。野菜のお店でいいよね。」

「まあいいけど」

そう答えると、松原の会社を出て、歩いてお店へ向かった。夕方とはいえ、まだまだ日差しはきつく、スーツ下はすぐに汗で一杯になった。


一緒に歩いていると、まるで高校のときと同じだと錯覚させる姿だった。

(あのときも一緒に歩いて、松原って意外と小さいんだなって思ったなあ。)

俺は身長が175センチ、松原は155センチ。横に並んで歩いてみると、小ささに気付く。

(やっぱり大人になっても、小さいよな)

高校のときと変わらない松原の身長に、自分の心は高校生に戻りそうだった。


「洋太!」

「お、おう」

「さっきからずーっとぼーっとしてるけど、大丈夫?」

「大丈夫だって」

「仕事大変なんじゃないの?」

「仕事は大変だけど、体調はわるくないからさ」

「ならいいけど。久しぶりに会って、倒れたりしないでよ。」

「大丈夫だってば」

「本当?心配させないでよ。」

心配させるつもりは毛頭ないが、高校時代を思い出してしまってどうしようも無かった。


「ついたよ」

「ここか。って、チェーン店じゃん。俺の会社の横にもあるぞ。」

「あっ、そうなんだ。ここおいしいよね。はいろっか」

そういうと、松原は先に入っていってしまった。松原が選んだ店は、全国に店舗があるほどのチェーン店で、有機野菜を使った野菜料理がメインの食べ放題のお店だった。松原の後について、店に入る。

「お前、食べ放題って。もう少し普通のとこにしろよな。」

「洋太がどこでもいいっていったじゃん。いいから、早く。」

そういうと、手を引っ張り、席へと俺を連れて行った。握られた手はじびれ、当時の手の小ささを思い出させた。


席に着き、一通りの料理を机に運んでくると、松原から、こう聞かれた。

「洋太。聞きたいことあるんだけど。」

突然の一言にドキッとした。

「何だよ。聞きたいことって。」


一瞬の沈黙の後、

「洋太、彼女いるの?」

「えっ?」

意外な質問に、戸惑いを隠せなかった。

「何でだよ?」

「いるのかな~って思っただけ。」

「それならいいけど。別にいないよ。」

「やっぱりね。」

「やっぱりってなんだよ。」

「そんなに忙しいんなら無理でしょ。」

「まあな。お前は彼氏いるのかよ」

「私?私はいないよ。でも、ずーっと片思いの人はいるかな。」

その言葉を聞いた時、

(もしや、俺のことか?)

と思った。でも

「大学のときにちょっと話をしたことあるだけで、相手にされなかったんだ」

と言われ、自分だと期待した自分に恥ずかしくなってしまった。

「そいつとはもう、会わないのか?どうだろね。」

「そうか・・・」

「ごめん。ごめん。なんか暗くなっちゃったね。あっ、大長課長、びっくりしたでしょ?」

「あっ、ああ。マジびっくりしたよ。まさか、原田のおやじさんだったとはね。」

「私もびっくりしたよ。」

「えっ?お前は前から知ってたんじゃないのか?」

「私が知ったのは、前に洋太が会社に来たあとだよ。洋太が帰った後、呼ばれてさ。いきなりだったから、びっくりしたし。」

「本当だよなあ。原田は何してんの?」

「里枝ちゃんは、地元の役所で働いてるよ。前に携帯で話したときにそういってたよ。」

「そうなんだ。地元に戻ったんだ。でも、その電話のときに、親父さんのこといってなかったんだ。」

「特に何も言ってなかったなあ。だからびっくりしてるんじゃん。」

「そうだよなあ」


少しの沈黙のあと、松原がまた突然、

「洋太さ、私と別れてから、どうだったの?」

「えっ?」

「高校のときに私と別れたあと。」


(おいおい。いきなり何言ってんだ。)

「どうって・・・」

「あの後、誰かと付き合ったの?」

「高校のときは付き合ってないよ。」

「そうかあ」

「松原は?」

「私もつきあってないよ。洋太、何で付き合わなかったの?」

「お前に言われたこと忘れてないよ。あんなこと言われたら、なかなか付き合えないだろ。」

「ふ~ん。そうかあ。気にしてたんだ。」

「当たり前だろ。」

松原に言われたことは今でも心に残っているし、忘れない。忘れられない一言だった。

「洋太、今日は送っていってよ。」

「何で?」

「何でって、女の子なんだから。危ないでしょ。」

「危ないって、お前、仕事で遅くなるときはどうしてんだよ?」

「会社からタクシーで、家までべた付けだよ。」

「そうかあって、お前家どこなんだよ?」

「江東区だよ。」

「はい?」

「だから、江東区!」

「お前江東区って、ここからかなりあるじゃん!そんなとこまでタクシーで帰ってんのか?」

「だからしょうがないでしょ!怖いんだから!」

「ここ新宿だぞ!送れって、お前本気か?」

「嫌ならいいよ。襲われたら洋太のせいだから。もういいし」

「わかったよ。おこんなよ。」

「やったあ。じゃあ、ご飯食べたら、一緒に帰ろうね。」

「お前何なんだよ。」


嬉しそうな松原を見ながら、もって来た料理を食べ、そして、外に出た。

「おいしかったね。」

そういう松原の顔は、化粧はしているが、高校のときにみた、表情のままだった。懐かしさの中で

(やっぱり、俺、松原のことまだ好きなのかな・・・)

と思う自分が確かにいた。


帰りの電車の中で、松原と何気ない話をした。今の仕事や大学のこと。地元の仲間のことなど、長い帰路が短く感じられる程、楽しい時間だった。


「ここだよ。」

そういう松原の先をみると、ちょっとしたマンションがあった。

「ここに住んでるんだ。じゃあ、もう帰るわ。もうここまでくれば、大丈夫だろ?」

「ありがと。洋太・・」

「ん?」

「ちょっと、よってく?」

「いいよ。もう遅いし、松原だって明日仕事だろ?もう休めよ。今日は楽しかったよ。結局仕事の話できなかったけど、もう一度考え直してみるからさ。ありがとね。」

「ううん。ごめんね。きょうは。」

「いいって。気にすんなよ。」

「じゃあね。」

「おう。またな。」

松原がマンションに入るのを確認して、家への道を急いだ。東京にしてはやけに星が見える夜だった。暑い夏なのに、やけに涼しく、清々しく感じた。

(何かいろいろあったな。)




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