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重なる想い  作者: 沖空翔
4/5

夏恋2


「洋太!登録したよ。はい。」

「あ、ああ」

ふと我に返ると、松原が携帯の番号の登録を終え、携帯をこっちに向けていた。

「何ぼーっとしてたの?」

「いや、別に・・・」

「ふーん。まっ、いいけど。今日何時に終わるの?」

「おれは、これで終わりだから、もう帰れるけど。松原は?」

「私は、少し仕事あるから、18時ぐらいかな。あっ、じゃあさ、このまま1階で待っててよ。」

「はあ?なんで?」

「わかりやすし、この中いれば涼しいでしょ。お金もかからないんだから。」

「いにくいんですけど」

「まあ、いいじゃん。せっかく再会したんだし。じゃあ、決まりで。」

「わかったよ。」

「じゃあ、私、もう仕事もどるから。洋太も、帰るでしょ?」

「ああ。」

そう答えると、松原は席を立ち、ドアを開けた。その後に続き、応接室を出た。松原は、大長部長と何やら話をしたあと、こっちに軽く頭を下げた。

(一応ってことね)

こっちも軽く一礼し、研修科を後にした。時間は午後5時。西日が強く差し込み、夏の暑さを感じさせていた。1階に着くと、来客用に用意してあるソファに腰をおろし、松原が来るのを待った。

「なんか、大人になったなあ」

単純に外見が大人びて見えた。でも、気持ちは高校生のときのままのような気がしていた。というよりも、高校生のときのままがいいと願っていた。自分は、外見は大人になったつもりでいたが、中身はまだまだ子供だと感じていたし、いつになったら大人になるんだろうというジレンマもあった。時間は流れ、でも心は高校生で止まっていた。



7月22日。今日から夏休みだ。女子は午前中の練習で、男子は午後からの練習だが、松原との約束で10時には部室にいることになっている。朝起きて、簡単に朝食を済ませ、9時に家をでた。朝なのに暑い。もう夏という感じを目一杯感じさせてくれる暑さだった。高い空を眺めながら、自転車をこいだ。

 9時30分。部室に着いた。もちろん部室には誰もいない。荷物を置き、コートを見ると、女子が練習をしていた。女子の部員は、僕が早く来たことに驚いている様子だった。今まで午後からの練習のときに午前中からいるということはなかった。

「へぇー、女子ってこんな練習してんだ。」

初めて女子の休日の練習をみて、面白かった。なんか男子と違って、楽そうに見え、楽しそうにも見えた。

(まだ休憩っぽくないから、部室にいるか)

そう思って、部室にはいり、部室にあった漫画の本を読んでいた。しばらくすると、

「じゃあ、10分休憩な」

という、女子の顧問の声が聞こえてきた。

(お、休憩か)

そう思って、部室の外にでると、松原がちょうどコートから出てきた。

「上山君、来てたんだ」

日に焼け、汗をかいているが、すごくかわいく見えた。

「まあ、約束したしね。」

「ありがと」

「女子って、あんな感じで練習やってるんだ。」

「そうだよ。毎回決まった内容だけどね。そうだ。コートに入ってみればいいのに。」

「いいよ。なんか、目が気になるしさ。ほら」

周りには、女子の部員が集まってこっちを見ていた。

「じゃあ、終わったらまたくるから、どっか行かないでよ。」

「わかったよ。待ってるから。頑張って。」

「うん。ありがと」

そういうと、松原は走ってコートへ戻っていった。

(なんか付き合ってるって感じだなあ・・・)

変ににやけている自分に、気づき急いで部室に入った。そしてまた、漫画の続きを読むことにした。


「じゃあ、終わるぞ」

(おっ、やっと終わるか)

見ると時間は昼12時。

(いつも時間まできっちり練習してるんだ。すごいな。)

男子は開始時間はきちんとしているが、終了時間は、正規練習が終わった後、自主練になるから、バラバラ。女子は、男子が後に控えているから、自主練は男子の練習が始まる前まで。だから、女子はほとんど自主練をしないで帰っている。

女子の練習が終わり、松原が部室まできた。

「上山君、練習みてた?」

「ん?あんまり見てないよ。でも、女子って、いつもあんなふうに練習してるんだ。」

「そうだよ。みんなでメニューを考えて、練習してるんだよ。」

「そうなんだ。」

「どうかしたの?」

「なんか楽しそうだったからさ。」

「上山君は、部活たのしくないの?」

「楽しいけど、勝たないといけないから。毎日必死だよ。」

「そうだよね。インターハイいくしね。」

「松原、今日もし時間あったら、練習みてく?女子はすぐに帰っちゃうから、見たことないでしょ。」

「うん。じゃあ、みていこっかな。」


「おーい、洋太。」

自転車に乗って、小松がきた。

「洋太、早いじゃん。」

「まあね。」

チラッと松原をみて

「ふうーん。なるほどね。暑いのに熱いですね。」

「お前、ふざけんなよ」

「まあまあ。洋太。早く準備しろよ。練習やるぞ。」

「あっ、そうか。わかったよ。」

そういうと、準備をしに、部室にはいった。

「上山君、もう始めるの?みんなきてないよ?」

部室の入り口で、なんか不思議そうに松原がこっちを見ている。

「ああ、こいつ、いつも皆が来るより前に練習してるんだぜ。1時間ぐらいだけど。松原、コートで見ていきなよ。ひくからさ。」

「えっ?」

「余分なこと言ううなよ。ほら、いくぞ。」

「わかったよ。」

ボールを2カゴもち、コートへ向かった。

「あれ?小松君はやんないの?」

「おれは。洋太の練習相手。というか、球出しだからね。ほら、いくよ。洋太に怒られるからさ。」

小松が、松原を連れて、コートにきた。来た時には、もう準備体操も終え、コートで小松を待っていた。

「洋太、いつも通りでいいんだろ。」

「ああ、いいよ。」

「松原見てるからって、かっこつけんなよ。」

「そんな余裕ないわ。あほ。」

「だな。」

そういうと、小松は松原に

「みてなよ」

というと、球出しをはじめた。右、左、右、左・・・・・ポーン。ポーン・・・・・いつまでも続く、球出し・・・・・・

「洋太。ラスト。」

ぽーん。2カゴすべて、球出しをした。

「1カゴ大体200球くらい入るから、400球かな。あいつ、毎日これを5セットやってるんだぜ。」

「えっ、まいにち?学校ある日も?」

「そうだよ。みんな帰った後、やってるよ。」

「うそ?」

「ほんとだよ。ボールも自分で拾うし、あいつすげえよな。」

「でも、なんの意味があるの?ただ振り回しやってるだけでしょ?そんなにやらなくても、いいじゃん。」

「だろ?でも、なんかな、へたくそだから、走らないと負けちゃうんだってさ。だから、1日何試合あっても、走りきれる力が欲しいんだって。」

「でも、上山君すっごく上手だよ。インターハイにも行くし。」

「なんでだろうね。負けたくないんじゃない。あとは、洋太に直接聞いてみなよ」

「うん・・・」


「小松。集めたぞ。次、頼むな。」

「おう。いくぞ。」

その後、4セット。1回目よりも速いペースでの球出しがつづいた。松原は、真剣な表情をしているようだった。じっとこっちをみていた。


「洋太。これで終わりな。」

ぽーん。5セット終わった。

「はあ、はあ、はあ、はな・・・・せ・・・ない・・・」

毎回これをやるたびに、少し話せなくなる。それくらいしんどい練習だ。

「着替え・・・・てくる・・・・」

そういうと、部室にいき、着替えをした。汗を拭いてコートに戻ると、松原が近寄ってきた。

「上山君。すごいね。」

「しんどいよ。小松もやるたびに、ボールのスピード速くするし。何なんだあいつは。」

「ねえ、何でこんなにやるの?」

「ん?おれ、へたくそだから。」

「でも、インターハイでるんだよ。下手じゃないじゃん。」

「まあそうだけど・・・・・あっ、みんなきはじめたみたいだな。松原、帰りでいい?」

「ん?いいよ。待ってるから。」

「ありがと。じゃあ、終わったら超えかけるね。」

「うん。部室にいるから。頑張ってね。」

「おう。」

ばいばいと手を振る松原に、手を振り替えし、引きつった笑顔をかえした。

「小松!」

「なんだよ。ボールひろってるんだよ。」

「お前、松原に変なこといったのか?」

「いってねえよ。ちょっと、お前の話をしただけだよ。」

「あのこといってないだろうな?」

「いわねえよ。自分でいえよ。」

「わかってるよ。」

そう答えると、ボール拾いに加わった。

(松原は何か気付いてるのかな?)

少し気になりながら、ボールを拾った。

「相変わらずはやいなあ。」

他の部員達がコートにきた。

(さあ、練習がんばるか。)




17時。練習が終わった。

「洋太。松原待ってるだろ?行ってこいよ。」

「えっ?マジで?洋太、松原とやっぱりか」

寺岡が、ひやかしながら言ってきた。

「マジだよ。うるせえなあ。小松、後頼むな。」

そういって、コートを走ってでると、着替えをして、女子の部室まで行った。


「はあはあ・・・どうやって声かけるんだ?」

初めて女子の部室の前に来て、なんて声を掛けていいのかわからなかった。

(どうしよう・・・)

しばらくうろうろしていると、

「上山君?」

「あっ、大石。」

「何してんの?」

「いや・・・中に松原いるかなあって」

「恵理ちゃん?」

「そう。」

「自分で声かければいいじゃん。」

「いや、何ていっていいか・・・」

「わかったよ。ちょっと待ってて。恵理ちゃーん」

大石が部室に入っていくと、

「あれ?いないよ。」

「えっ?マジで?」

「ちゃんと約束したの?」

「練習終わるまで待っててくれるって」

「なら、いるはずだけどなあ。どこいったんだろ?」

「あっ、恵子ちゃん?」

松原だ。

「恵理ちゃん。どこ行ってたの?」

「コンビにだよ。あっ、上山君。どうぞ。」

コンビニの袋から、スポーツドリンクをだして、渡してくれた。

「ありがと」

「恵理ちゃん、優しいじゃん。上山君よかったね。」

「まあね。ありがと。」

女の子から差し入れをもらうこと自体初めてで、もらったスポーツドリンクがすごく重く感じた。

「洋太君。練習おわったの?」

「正規練はね。松原は何してたの?」

「部室で宿題だよ。」

「まじで?宿題やってたの?」

「うん、時間あるし、もったいないから。」

「すげえな」

「あの~」

大石がいたことを忘れていた。

「おお、いたの忘れてたよ」

「ちょっとひどいでしょ!誰のおかげで付き合えてると思ってるの!」

「おお、すまん」

「恵子ちゃんごめんね」

「恵理ちゃんもわすれてたの?はあ、最悪だあ~」

うなだれる大石を横目に、

「松原、まだ最後に自主練あるんだけど、待てそう?大変だったら、帰ってもいいけど」

というと、

「恵理ちゃんは私とかえります~」

横で大石が意地悪そうに言ってきた。

「待ってるよ」

そんな大石を気にしないかのように、松原が答えた。

「じゃあ、また見にきてよ。」

「わかった。恵子ちゃん、悪いけど・・・」

「わかったよ。もう!私がくっつけたのに!」

といいながら、大石は正門のほうに歩いていった。


「大石に悪かったかな・・」

「大丈夫。恵子ちゃんは、ふざけてるだけだからさ。」

「それならいいんだけど・・・」

なんか無理やり、松原を誘ったみたいな感じがして、ちょっと悪い気がした。


「おーい、洋太!やんないのか?」

男子の部室の前から小松の声がした。

「呼んでるよ。」

「今行くから。」

小松にそう答えると

「松原、一緒にいくか」

「うん」

二人そろって、テニスコートまで走っていった。走りながら、お互い目が合い、思わず笑ってしまった。

(なんでもないことも嬉しく、幸せに感じる、こんな経験今までなかったあ)

そんなことを思いながら、走った。



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