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重なる想い  作者: 沖空翔
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訪問

はい、はい。すいません。すぐにやりますから・・・・・あっ!!きりやがった!!!何だよ!まったく!!」

長野の山奥から、東京を夢見て勉強して、大学にはいり、もっと楽しいかと思っていたら、これ・・・。上司にぺこぺこ頭を下げながら、働く毎日。こんなはずじゃなかったのにな・・・6月の暑い日。高くなった空をみた。やけに眩しく感じた。

「東京って、空・・・狭いんだな・・・」

グッと唇をかみしめ、会社への道を急いだ。


勤めている旅行会社は、一般的に見れば、大きい部類に入る。でも、年功序列というか、上下関係が激しくて、なかなか思うようにはいかない。もちろん、楽しい思いをしたくて東京にきたが、それだけじゃなかった。

 自分で言うのもなんだが、地元の長野は確かに田舎だが、田舎には田舎のよさがあって、木の香りや鳥の声。夜の星空なんてプラネタリウムなんて目じゃないほどきれい。こんな田舎に来てくれる人を増やしたくて、旅行会社に入りたかった。でも、いざ入ってみると、そんなことできる状況じゃなかった。不況の煽りで、旅行客は減り、会社も大変な状態。勤めているだけいいよなって最近自分を言い聞かせている。

次の日、六月九日(水)。

今日も朝から外回り。日差しも強く、暑い。アスファルトからの照り返しに、ハンカチで汗を拭きながら、次の営業先へと歩を進める。

「ここか・・・・大きいな・・・AFAデザイン?・・・デザイン会社でこの規模か!・・・なんだこりゃ・・・」

見上げるほどの高いビル。東京では高いビルなど珍しくないが、このビルに一社丸ごと入っているから、少し驚きだ。ビルの自動ドアをくぐると、、

(うわー、涼しいなあ)

暑い外とは違い、身も心も清々しくなるほど、気持ちいい風だった。一汗拭い、受付へ

「こんにちは。」

さわやかな笑顔で、あいさつをする。

「こんにちは。」

もっとさわやかな笑顔で、返される。

「私、○○旅行会社の上山と申しますが・・・・・」

「上山様ですね・・・・確認しますので、少々お待ちください。」

この待つ間が何と言っていいか。何か気まずい気がする。何度も営業をしているが、この間に慣れることはできない。何かテストの返却を待っている感じがする・・・・

「はい。お約束されていますので、どうぞ。」

「ありがとうございます。」

どことなくホッとした。テストでそこそこ点数が取れた感じだ。

いつも通り胸にプレートをつけ、ビル内を歩く。あいさつをしてくれる人、そうでない人、話をしている人、お茶を飲んでいる人、様々な人を見ながら歩く。社員が明るい雰囲気だと、会社自体うまくいっているんだろうなあって気がする。そして、初めていく会社の場合、決まって最初にある場所にいく。そこは、トイレ。トイレがキレイかどうかで、会社の雰囲気や様子がある程度わかる。早速トイレにいくと、

「うわっ!きれいだなあ!」

洗面台、鏡、至るところピカピカだ。

「こんな会社初めてだ・・・・・すげっ・・・・やっぱでかいだけのことは、あるなあ・・」

これは、いい感じの会社と期待しつつ、訪問先の4階研修課へと向かう。

「お、あったあった・・ここだな」

身なりを正して、

「こんにちは。」

あいさつすると、

「こんにちは。」

「こんにちは。どうも」

社員がみんなあいさつをする。

(全員なんて、今まで無かったぞ)

軽く頭を下げながら、課長さんのところへ行くと、

「こんにちは。時間通りですね。待ってましたよ。さあ、こちらへ」

(ん?時間通り?5分くらい前に着くのは当然じゃないのかな?)

と思いながら、課長さんの後に付いていくと、ちょっとした応接室に通された。ちょっとしたといっても、フカフカそうなソファーに高そうな机。

(いろんなとこがすげえな・・)

「あっ、私、○○旅行会社の上山と申します。」

簡単にあいさつし、名刺を渡すと、

「丁寧にどうも。私は、研修課課長の大長と言います。どうぞお掛けください。」

「失礼します。」

促され座ると、案の定、フカフカのソファーだったが、それ以上にフカフカだったので、勢いあまって、

「うわっ!」

思わず声が出てしまった。

「ははははは。沈みすぎるから気を付けてくれよ。」

「すいません・・・」

(なんか恥ずかしいとこ見せちゃったなあ・・・)

「えーっと・・」

(気を取り直してっと)

「今回、社員旅行ということで、我が社にお声を掛けていただきまして、ありがとうございます。今回ご予定の期間は・・・」

すると、話の途中で、

「君、上山陽太くんだよね?」

「はい。そうですけど・・・」

(何だ。いきなり。おれはこの人知らないぞ・・・知り合いにも、この会社に勤めている奴いないし・・・)

「高校のとき、テニス部だったかな?」

「えっ!?はい。」

(おいおい。なんだこのおっさん。何で知ってるんだ・・・)

「だいぶ、時間にルーズで、やんちゃだって聞いてたけど、きちんとしてるじゃないか。5分前にくるなんて。うーん・・・いい顔してるな。営業にはもったいないなあ。」

(なんなんだ・・・おい。この展開はどうなんだ。どうすりゃいいんだ・・・)

「まあ、君の選んだ道だから、いいか。さて、本題にはいるか。」

「えっ!?はっはい。」

(結局何なんだ?このおっさん。誰かの知り合いか。気になるじゃないか。)

と、いろいろ考えながらも。この日の打ち合わせは、簡単なもので済んだ。

「ありがとうございました。では、案が出来次第、ご連絡しますので。今後ともよろしくお願いいたします。」

深く頭を下げると、

「期待しているよ。じゃ、またよろしく。」

大長課長を見ると、ニコッと笑っていた。

(やっぱり、あのおっさんは俺をしってる・・・・でも何でだ?きもっ・・)

何か変な感じが残りつつも、課長には聞けず、会社への帰路を急いだ。

外へでると、ビルの中とは違い、太陽がまぶしく、夏を感じさせる暑さだった。相変わらず、真っ青で高い空だ。雲ひとつない。


「ただいま戻りました。」

「おっ、どうだった?でかい会社だったろう?」

(野田課長か・・・ん?もしや・・・)

「課長。あそこの大長さんと知り合いですか?」

「全然知らないぞ。向こうが、お前に来て欲しいと指名してきたんだから。お前こそ知らないのか?」

「全然知りませんよ。でも、向こうは僕のこと知っているみたいで・・・・」

「向こうの勘違いじゃないのか?まっ、とりあえず、大きな会社から依頼があったことだし、頼むぞ。上山!」

「はあ。出来るだけ頑張ります。」

(野田課長もしらないとなると、誰なんだ?)

この何か変な感じは抜けないまま、依頼をもう一度見直してみた。

「予算は・・・・・・!?すげっ。社員旅行にここまで使うか。」

パラパラ・・・・・

「ん?希望は、長野?何で?」

ますます不思議な感じがした。

(あの大長課長なんなんだ。今度会ったとき、思い切って聞いてみるか。)

「あっ!聞くにはまず、案を作らなきゃ・・・・・・はあ・・・・・・がんばろ・・・・・・」




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