恋の物語 ~たどり着いたその先に~
――――――わかってたんだ。この恋の終わりは、決して報われないものになると――――――
走り続けた・・・理想を胸に
―――何処へ?―――
夢にむかって
―――何のために?―――
今ではもう思い出せなかった。でも、我武者羅に走り続けていたのを覚えてる。
目指したものがあった。そうあって欲しいと願ったものがあった。
それがいったい何だったのか、もはや思い出すことも難しい。
いつしか手段を間違えてしまったんだろう。
もっと早くに気がつくべきだった。手段を選ばないってことの代償を・・・
たったひとつ道を変えるだけで、辿りつく場所は変わるのだ。
あの人は言った。
―――それはとっても立派な夢ですね。・・・と
きっとこの頃には、取り返しのつかないくらいに道を間違えていたんだろう。
だからなんだろうか、あの人と出逢ったときそんな事を思ったのは・・・
なんとなくだけど覚えてる。最初に願った夢は、間違いなんかじゃないと
そう、間違いなんかじゃなかったんだ。
だが彼女と出会ったときには、もう自分への言い訳を探していたんだ。
誰かに言って欲しかったんだ。
・・・間違ってないと、
・・・それは素晴らしいことだと。
自分への言い訳が思いつかなくなったとき、きっと目指していたものをすり替えたのだ。
あぁ、そうだ。目指していたものを間違えたんじゃない。
目指すべき道を間違えたんだ。
―――いつしかその願いが叶う事を、心から祈ってます。―――
そう言ってくれた。そう認めてくれた人がいた。
世界中が敵に回ったとしても、彼女だけは味方だったのに・・・
夢さえ忘れなければよかったんだ。そうすれば・・・
―――本当にそうなのか?
いや違う。もはや道を正そうとしなかった時点でこの結末は決まっていたんだ。
―――道を忘れなければ、気がついたときに正せたんじゃないかい?
正せるわけがない。
自分の理想は正しかった。
目指したものは間違えてなどいなかった。
ならそれに向かって走ってるんだから、この道は間違いなはずがない。
道を間違えてると気がついたとき、忘れようとしたんだ。
理想を・・・
目標を・・・
忘れたから間違えたんじゃない。
間違えたから、忘れようとしたんだ。
逃げたんだ。
・・・罪から、
・・・咎から。
―――あぁ、例え正しくても目指すべきではなかったんだ・・・―――
誰よりも立派だった。
だからこそ誰よりも愚かになったのだ
人の身に余る理想を抱くのなら、人として生きなければよかったのだ。
だが人として生きなければ、どこかで必ず間違える
―――あぁ、それはなんて矛盾―――
結局、叶えられるわけなかったのか
あの時の想いも、理想も、葛藤も、努力も、全て水の泡。
でも、もう遅い・・・
彼女はもう動かないのだから・・・
この手で殺したのだから・・・
理想に向かって伸ばした手が掴んだものは、この死体だけ・・・
手に入れたものは、大きな罪と罰。
―――血塗られたこの手は、いったい何をつかもうとしたのだろう・・・―――
でももういい、もはや遅い。
過ぎ去った時間は戻らないし、死んだ人は生き返らない。
―――もっと早くに気が付けばよかった・・・―――
でももういい、もはやどうでもいい
たどり着いた場所は、かつて追い求めたものじゃない気がするから
覚えてないけど、きっとこんな結末じゃないから
だからもういいよね。休んでも・・・
いままで頑張ったんだから
仕方ないよね、死人は生き返らないんだから・・・
この結末は、出会ったときに決められていたんだから
―――――― そう思いながら、彼は完全に目を閉じた ――――――