表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
霹靂の魔法使い  作者: 雄丸田
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/12

第六話

第一章開幕です!

「で、説明してくれる?」


 居間の空気は重くはない。けれど、誤魔化して逃げられるような軽さでもなかった。


 ライナとテアは並んで座らされていた。向かいにはマリア。ロイは少し離れた椅子に腰かけ、静かに様子を見ている。


 ライナの表情は固かった。森から帰ってきてからというもの、疲労と緊張がずっと抜けていない。隣のテアはというと、きょとんとした顔で座っていて、しかもライナの袖をちょこんと掴んでいた。


 その状況が、余計にライナの居心地を悪くしている。


 マリアはしばらく二人を見比べてから、ひとつ息を吐いた。


「……いや、本当にどういうことなの」


 怒っているわけではない。けれど、あまりに状況が意味不明で、何から聞けばいいのかもわからない――そんな困り顔だった。


「どうして森に行ったの?」


「いや、その……」


「その子は誰?」


「それも、その……」


 マリアは一度、深くため息をついた。


「もう、順番に話して。こっちが混乱してきたわ」


 ライナは小さく肩をすくめた。


「……俺だって混乱してるよ」


 その時、隣でテアがライナの袖をくいと引いた。


「ライナ」


「な、なんだよ」


「おなかすいた」


 ライナは思わず目を閉じた。マリアは一瞬だけぽかんとして、それから額を押さえた。


「そういうことじゃないのよ、もう……」


 呆れたように言いながらも、声は完全には尖らない。ロイが小さく息を吐く気配がした。笑ったのかもしれない。


 ライナは視線を落とした。


 なんでこんなことになったんだ。


    ◇


 魔結晶の光が消えたあと。


 目を開けたライナの上には、全裸の少女が乗っていた。


「――っ!?」


 叫びたかった。だが声にならない。


 少女は眠そうに目を擦っていて、そのままぼんやりとライナを見下ろしていた。透き通るような銀髪。水晶みたいに澄んだ翠の瞳。状況が状況でなければ、見とれてしまうくらい綺麗だったかもしれない。


 だが今はそんな場合ではない。


「ち、近い! 近い近い近い!」


 ようやく絞り出した声は、我ながら情けないほど裏返っていた。


 少女は首をかしげる。


「……?」


「いや、なんで不思議そうなんだよ! まず離れろ、離れろって!」


 ライナが慌てて身をよじると、少女はされるがまま少しだけ体を起こした。だが離れたというより、単にライナを見やすい位置に移動しただけに見える。


「ライナ」


「なんで俺の名前は知ってるんだよ!」


 少女はまっすぐにライナを見つめたまま、少しだけ首をかしげた。


「……ライナは、ライナ」


「だから、そういうことじゃなくて!」


 頭がおかしくなりそうだった。


 ライナはどうにか上体を起こし、自分の外套を引っぺがすように外すと、少女の肩へばさりとかけた。


「いいか、まずこれ着ろ」


 言ってから、ライナは眉をひそめる。


「……いや、着るっていうか、かける、でいいのか?」


 少女は外套の裾を指先でつまむ。


「あったかい」


「そういう問題じゃないんだけどな……」


 ライナは額を押さえた。落ち着け、と自分に言い聞かせる。いや、落ち着くべきなのは相手かもしれない。だがこの少女は、少なくとも自分が慌てるべき状況だと思っていないらしかった。


「ライナの?」


「そうだけど」


 答えると、少女は少しだけ目を細めた。


 どこか嬉しそうに見えて、ライナは一瞬だけ言葉に詰まる。


「……とにかく、まずは話だ」


 気を取り直すように言って、ライナは少女の前に座り直した。


「まず、お前、名前は?」


「テア」


 そこだけは、迷いなく返ってきた。


「テア……」


 ライナはその名を小さく繰り返す。


「どこから来たんだ?」


 テアは少しだけ考えるように黙った。


「……わからない」


「なんであんなところにいた?」


「……わからない」


「家族はいるのか?」


 また、間が空く。


 テアは首をかしげた。


「……わからない」


 ライナは顔をしかめた。冗談を言っているようには見えない。本当に、答えられないのだ。


「じゃあ、なんで俺の名前を知ってるんだ?」


 その問いにだけ、テアは少しだけ反応が違った。


「……わからない」


 そして、ほんの少し間を置いてから、


「でも、ライナはライナ」


 と、当たり前のように言った。


 ライナは返す言葉をなくした。


「……だめだ」


 結局、何もわからない。


 しかもこの洞窟は、奥にいるほど魔素が濃い。長居していい場所ではなかった。


 ――とりあえず、ここを出るか。


 半分諦めるようにそう決めて、ライナは立ち上がった。


 テアは座ったままライナを見上げる。


「ライナといく」


「……置いていくわけにもいかないしな」


 半分諦めたように呟くと、テアは外套を羽織ったまま静かに立ち上がった。


    ◇


「で、帰ってきたらこうなってたってわけ」


 現在の居間へ戻って、ライナは力なく言った。


 マリアは額に手を当てて、ふうっと息を吐く。


「つまり、森の洞窟で見つけて、そのまま連れて帰ってきたのね」


「……そうなる」


「なる、じゃないのよ」


 ぴしゃりと言われて、ライナは肩をすくめた。


 マリアは今度はテアの方を見る。


「本当に、名前以外は何もわからないの?」


 テアはライナの袖を掴んだまま、小さく頷いた。


「……わからない」


「お父さんもお母さんも?」


「わからない」


「どこから来たかも?」


「……わからない」


 問いかけるたびに同じ答えが返ってくる。


 けれど、マリアは途中からその答えに嘘の響きを感じなくなっていた。忘れているのか、本当に知らないのか。そこはまだわからない。だが少なくとも、この少女が悪意を持って隠しているようには見えない。


 マリアはため息をつき、ライナとテアを順番に見た。


「困ったわねえ……」


「だから言っただろ。俺だって、うまく説明できないんだよ」


「それは見ればわかるわ」


 きっぱり返されて、ライナは口を閉じた。


 そこで、これまで静かに聞いていたロイが短く言った。


「行く当てもないなら、しばらくうちにいればいいさ」


 居間がしんと静まる。


 ライナは目を瞬かせた。


 ――マジかよ。


 そんな心の声が、そのまま顔に出ていたかもしれない。


 マリアはロイの方を見て、それから小さく肩をすくめた。


「……まあ、そうなるわよね」


 ため息まじりではあったが、声に本気の拒絶はなかった。


「仕方ないわ。こんなに不安そうな子を、はいそうですかって放り出せるわけないもの」


 その隣で、テアは当然のようにこくりと頷いた。


「いる」


「なんでお前はそんな納得してるんだよ……」


 ライナだけが、置いてきぼりを食らっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ