008『追加レシピと草糸』
「あ、そうだ」
空腹を抱え、悲壮な決意と共に手掴み漁をしようと川へ向かっていた道中。俺はふと足を止めた。
「手掴みじゃなくても……『木の槍』で突けばいいのでは?」
あるいは『木の矢』を手で握って刺してもいけそうな気がする。
空中のクラフト画面を開き、手持ちの木材でサクッと『木の槍』を作成した。手元にポンッと現れたのは、先端が鋭く尖った、俺の身長より少し長いくらいの槍だ。
「……とはいえ、泳ぎ回る魚を突けるかは俺の手腕次第か」
こういう原始的な漁はド素人なので、一発で仕留められる気はしない。まあ、手掴みよりはリーチがある分、マシだろう。
それに、槍を使えば川の中へ入らなくても、岸辺から魚を狙えるかもしれない。
「流石に、現状この服一着しかないから、ずぶ濡れになるのは避けたいんだよな」
裸で川に入ればいい?
……冗談じゃない。見た目こそとんでもない美少女だが、中身は成人男性のゲーマーだぞ。自分の(しかもロリ美少女の)裸を直視するなんて、倫理的にも精神的にもハードルが高すぎる。
「うにゃあああ!?」
想像しただけで変な声が出た。無理無理。
……いや、でも待てよ。この先、サバイバル生活が安定して『お風呂』に入れるようになったら、結局脱ぐしかないのでは?
「……まあいいや。風呂のことなら、もう解決策はあるんだよな」
クラフトテーブルで『木のバスタブ』を作って、石鍋でお湯を沸かして注げば、簡易的なお風呂の完成だ。俺が一人で入るくらいの小さなバスタブなら、そこまで大量の水を使わずに済むだろう。
だが、問題はそこじゃない。
「ずっと同じ服なのも不衛生だから洗いたいけど……洗ってる間の俺は、どうやって過ごすんだ?」
洗剤なんて便利なものはないから水洗いかお湯洗いになるが、服が乾くまでの間、全裸で拠点をウロウロするのか?
「流石にそれは嫌だなぁ。ただの変態じゃんか」
誰が見ているわけでもないが、俺のちっぽけな尊厳がすり減ってしまう。
やはり着替えとなる服、つまり『布』が必要だ。そして布を作るには『糸』が――。
「……待てよ?」
俺の脳内で、バラバラだった思考のピースがカチリと組み合わさった。
先ほど、雑草をクラフトテーブルに乗せたら『小麦の種』のレシピが解放された。じゃあ、雑草の使い道はそれだけか?
古代の人々はどうやって衣服を作っていた? 綿や絹だけじゃない。麻や、植物の茎から採れる繊維を編んで布を作っていたはずだ。
「……試してみる価値はあるな」
俺は川へ向かうのをやめ、急いでUターンして拠点へ戻った。
家の周りの雑草をひと抱え分むしり取り、息も絶え絶えにクラフトテーブルのブルーペーパーの上へ乗せる。
「頼む、クラフトテーブルくん……! 俺の歴史的知識と発想力を汲み取ってくれ!」
祈るように念じると、テーブルの上の雑草が淡く光り、空中のウィンドウに新しい通知が浮かび上がった。
『解析完了。新規レシピ【草繊維】が解放されました』
『【草繊維】から派生レシピ【草糸】が解放されました』
「……よっしゃあああああっ!!」
俺はガッツポーズを取った。
やっぱりだ。ただの雑草でも、見方を変えれば『植物繊維の塊』なのだ。
早速、テーブルの上で『草繊維』をクラフトし、そこからさらに『草糸』を作成してみる。
ポンッ、という音と共に現れたのは、木製のボビンにくるくると綺麗に巻かれた、緑色っぽい糸だった。
手に取ってみると、肌触りは少しゴワゴワしていて微妙だが、引っ張ってみても簡単には切れない強靭さがある。間違いなく『糸』だ。
「雑草から派生レシピが2つもあるとか、普通気付かないだろ……」
どういう優先順位でレシピが解放されているのか謎だが、どうやらこのクラフトテーブルは、ただ素材を放り込めばいいだけの単純なシステムではないらしい。
プレイヤー側が「この素材はこういう用途に使えるはずだ」という発想力や、根本的な知識を持ってアプローチすることで、初めて応えてくれる機能なのだろうか?
「なんか地味に、このシステム……柔軟すぎるな」
現代の常識では考えられないようなものも、発想次第で作り出せるのではないか。そんな底知れない可能性に、少し背筋がゾクッとした。
とはいえ、だ。
前にも言ったが、どうして解放出来るレシピがあるのか? なんというかかなりのレシピがあるのに対して、チグハグだなと思う。
その辺りを理解できる日が来るかはわからないが……まあ、このクラフトテーブルは解析ができるってことだけ知っておけばいいか。
「あれ? ってことは、わざわざ畑で綿を育てる必要なくなった?」
いや、このゴワゴワの草糸で作った下着なんて絶対に着たくない。肌触りの良い服を作るためにも、綿の栽培は並行して続けるべきだ。
「何はともあれ……」
俺は手の中の『草糸』を愛おしそうに見つめた。
かなり遠回りをしたし、お腹は限界までペコペコだが、これでついに釣り竿やクロスボウへの道が開けたのだ。




