007『謎レシピと食料問題』
きゅるるぅぅ……。
「……」
石鍋で沸かした白湯を飲んで一息ついた途端、俺の(今は可愛い美少女の)お腹から、いじらしい音が鳴り響いた。
流石にそろそろ限界だ。徹夜でゲームをしてから何も食べていないし、そもそもこの身体が最後に食事を摂ったのがいつなのかも分からない。
「食料、どうするかなぁ」
先ほど見つけた小川で魚を獲ればいいのだが、言うのは簡単だ。魚を釣るには『釣り竿』が必要だし、当然『釣り糸』が必要になる。
「何をするにしても、結局『糸』に行き着くんだよなぁ」
糸。現代日本では百円ショップで買えるような代物なのに、この異世界サバイバルにおいては絶望的なほど入手ハードルが高い。
「マジで、何もかもが足りん!」
獣を狩るには『クロスボウ』が必要。それを作るには弦にする『糸』が必要。
魚を釣るにも『釣り竿』が必要。それを作るにも『糸』が必要。
「詰んだ。糸がないと俺の食生活は始まらないぞ」
拠点の前には、『木の桑』で耕した小さな畑が作ってある。そこには既に、ポーチから見つけた『綿の種』を植えてあった。
水やりに関しても、小川から汲んできた水を『木の樽』に貯水してある。
「てか、バケツより最初から木樽作ればよかったな」
今更すぎる後悔だ。
樽のほうが明らかに入れられる容量がデカい。水を何度も往復して汲んだ後、クラフト画面の端っこに『樽』の項目を見つけた時の俺の虚無感といったらなかった。
……後から知ったものは仕方がない。俺はそう割り切っている。それに今更後悔したところで既に過去である。
それはともかく、糸を紡ぐための『紡錘車』や『綿繰り機』も既に作成済みで、準備にぬかりはない。
だが当然のことながら、種を蒔いた植物が数時間で育つわけがないのだ。
「……ふむ」
サバイバルゲームなら、その辺の雑草をむしれば『小麦の種』や『繊維』がドロップしたりするものだが。
「現実はそう上手くはいかないか。いや、ここが現実なのかも怪しいけど」
家の周りに生えている適当な草を万能ノコギリで刈り取り、試しに万能ポーチに突っ込んでみる。インベントリにはただの『雑草』としてカウントされた。
「これをクラフトテーブルに乗せたら、何かの素材になるのかね?」
ダメ元で、クラフトテーブルのブルーペーパーの上に『雑草』を置いてみた。
すると。
『解析完了。新規レシピ【小麦の種】が解放されました』
「ん? まじかーい」
空中に浮かんだウィンドウに表示された文字を見て、俺は思わず変な声を出した。
いや、もう驚かないぞ。万能スコップで岩盤を豆腐みたいに削った時点で慣れた。いや、でもおかしいだろ。
「レシピの解放条件が謎すぎるんだけど」
雑草から小麦の種? 遺伝子操作でもしたのかこのテーブルは。呆れながらも、空中のクラフト画面のカテゴリーをスワイプしてみる。
『【小麦の種】を解析したことにより、以下のカテゴリーが解放されました』
『New!:【農業・食料】カテゴリー』
「……どういう原理だよ」
いや、もう突っ込むまい。落ち着け、まだ慌てる時間ではない。俺はクールなゲーマーだ。
「素材を入れると新レシピが解放されるシステム……いわゆる『研究』機能みたいなものか」
だが、研究機能はともかく既にこのクラフトテーブルは色んなレシピがある。なぜ、こんなアンロックが起きるのだろうか? まあ、考えても仕方がないな。
現実味がなくなってきた。この世界、もしかして本当に俺のために用意された箱庭ゲームなんじゃないか?
「……でも」
グゥゥ、と再びお腹が自己主張を始める。
「結局、小麦の種があっても、パンにするには育てなきゃ意味ないよな……」
小麦が育つまで何日、あるいは何ヶ月かかるか分からない。今すぐ俺の空腹を満たしてくれるわけではないのだ。
文明の利器に頼ってスマートに食事にありつく計画は、ここに頓挫した。
「……背に腹は代えられない」
俺は深くため息をつき、静かに立ち上がった。
「手掴みで、川の魚を獲るしかないかぁ……」
かくして、チート道具を駆使する異世界開拓者は、空腹を満たすため、川で泥まみれになりながら魚を追いかけるという最も原始的な狩りに挑むことになったのである。




