005『小川と水問題』
「ん? 水の音?」
小型拳銃とサバイバルナイフを腰に帯び、意を決して森の散策に出た俺は、出発して早々に聞き慣れた環境音を耳にした。
チョロチョロという、水が岩肌を滑り落ちるような音。間違いない、近くに川がある。
「こっちかな?」
期待で早まる足取りを抑えつつ、警戒は怠らずに音がするほうへ進んでいく。方向は合っていたようで、木々の隙間から差し込む光と共に、水の音がさっきよりもはっきりと大きくなってきた。
「……おおっ」
茂みを抜けると、視界が開けた。
森の中に流れる、穏やかな小川だ。川幅はそこまで広くないが、それでも水が絶え間なくサラサラと流れている。上流は遠くに見えるあの山のほうだろうか。
「流石に、今の装備であそこまで源流探索に行くのは無理だな」
行ったところで遭難するのがオチだ。
しかし、拠点から歩いて数分程度の距離でこの水場を見つけられたのは、とてつもなく大きな収穫だった。
「でも、これそのまま飲める水なのか?」
しゃがみ込み、川底を覗き込む。
水は底の小石がはっきりと見えるほど透き通っているし、メダカのような小さな川魚たちが気持ち良さそうに泳いでいる。見た感じは非常に綺麗だ。
「仮にここがゾンビの徘徊しているポストアポカリプスな世界だとしたら、上流でバイオハザード的な汚染が起きている可能性もあるしな……」
考えすぎかもしれないが、サバイバルにおいて油断は禁物だ。直接生水を飲んで、謎の寄生虫や細菌でお腹を壊しでもしたら、この世界ではそのまま致命傷になりかねない。
「魚か……串焼きにすれば立派な食料になりそうだが、自分で捌くのはちょっと罪悪感が」
現代日本でスーパーの切り身しか買ったことのない俺に、活きた魚を捌けるだろうか。いや、生きるためには四の五の言っていられないのだが……まあ、魚釣りはとりあえず後回しだ。今は水問題の解決が先決である。
「一番確実で手軽な殺菌方法といえば、やっぱり煮沸消毒(熱殺菌)か」
拠点の前に焚き火は作ってある。あそこで水をグラグラと沸騰させれば、大抵の菌は死滅して安全な飲み水になるはずだ。沸かしたお湯は、水筒に入れて冷ませばいい。
完璧な計画だ。俺は自分のサバイバル知識に満足気に頷いた。
「よし、早速水を汲んで……って」
俺は川に手を伸ばしかけて、ピタッと硬直した。
「……何に入れて沸かすんだ?」
水を入れる容器。現状、クラフトテーブルですぐ作れそうなのは『木のバケツ』や『木のボウル』だ。
だが、木製の容器に水を入れて焚き火にかけたらどうなるか。当然、水が沸騰する前に容器ごと燃え尽きて大惨事である。
「……しまった。耐火性のある容器(鍋)のこと、すっかり忘れてた」
ゲームならインベントリの水を直接火にかけるようなガバガバ判定もあるが、ここは妙にリアルな異世界だ。そんな物理法則を無視した真似はできないだろう。
「鍋……鍋か。金属はないから、土鍋か石鍋あたりか」
足元の川岸を見る。少し掘れば、粘土質の土や手頃な石ころが手に入りそうだ。
万能ポーチの中には、ノコギリの他にもサバイバルグッズとして折りたたみ式のシャベル――もとい、『万能スコップくん』が入っている。
「ここで土や石を掘ってポーチにぶち込めば、きっと『精製された粘土』や『石材』になるはずだ」
そうすれば、クラフトテーブルで土鍋なり石鍋なりが作れる。
ゆくゆくは、この川から溝を掘って拠点まで水路を引くのも悪くない。ただ土を掘るだけでは水が濁って泥水になってしまうから、水路の底や壁面を綺麗に舗装するための『石材』が大量に必要になるだろう。
「いよいよ、本格的な石器時代(採掘)の幕開けってわけか……」
だが、ここで問題が一つ。ポーチの中に『万能スコップくん』はあるが、硬い岩や石を砕くための『ピッケルくん』は入っていないのだ。
「まあ、そんな都合よく全部は揃ってないか」
まずは拠点で『木のツルハシ』を作る必要があるだろう。木材なら、文字通り腐る程手に入る環境だからな。
俺は川の水を『木のバケツ』に汲んで持ち帰るべく、一度拠点に引き返すのだった。




