002『最初は素材集めから』
「とりあえず必要なのは、雨風をしのげる場所と火元だな」
サバイバルにおいて火は重要だ。こういったゲームでまず最初に作るのは、松明などの明かりになるものと火を付ける道具。火さえあれば、獣除けにもなるし大抵のことはなんとかなる。
その次に、小屋か何かを作って雨風をしのげるようにする。ゲーム内では天気がプレイヤーの健康状態に直結しないことも多いが、これを現実として仮定するなら屋根は必須だ。
「ええと。クラフト画面の『建築』カテゴリには……うん、あるな。木のドア、木の壁、木の床」
空中に浮かぶ半透明のウィンドウを指でスワイプして確認する。
「……当然だけど、木材が必要だな」
幸い、見渡す限りの大森林だ。そこら中の木を伐採すれば素材は集まりそうだが、問題はそれをどうやって加工するかだ。
それに……自分の細い腕を見下ろす。この華奢な美少女の身体で木こり作業をするなんて、重労働すぎないか?
「でも、やるしかないか」
俺はポーチから折りたたみ式のノコギリを取り出し、手頃な太さの木の前に立った。
「どれどれ……ん!?」
その時、不思議なことが起きた。
かなり力を入れないと切れないだろうと覚悟していたのだが、ノコギリの刃を幹に当てて軽く引いた瞬間、スッと吸い込まれるように刃が木に食い込んだのだ。
「おお……?」
そのまま左右にギコギコとノコギリを動かすと、まるで発泡スチロールでも切っているかのように、すんなりと刃が進んでいく。
「なんだこれ、めっちゃ軽いぞ? 木の伐採ってこんなんだっけ?」
それとも、このノコギリが異常なのか。
「ふむ。君はこれから『万能ノコギリくん』という名前だ」
切り倒した木を見下ろしつつ、ノコギリを顔の高さに掲げて呟く。何? ネーミングセンスが変? シンプルでいいじゃないか。
ひとまず小屋を建てるには大量の木材が必要になるため、俺は次々と周囲の木を伐採していった。”万能ノコギリくん”の効果は絶大で、息一つ切らすことなく、あっさりと何本もの木を切り倒すことができた。
「流石に切りすぎたな……」
額の汗(全然かいていないけど)を腕で拭う。美少女が森の中で木をバッタバッタと薙ぎ倒す光景は、客観的に見たらかなりシュールだろう。
「この丸太のままじゃ、当然壁には使えんよな」
クラフトテーブルの横まで運べば加工できるだろうか?
ひとまず、試しに一番近くにあった丸太を持ち上げ(これも見た目に反してやけに軽かった)、腰のポーチに押し込んでみる。すると、俺の背丈ほどあった丸太は、シュルリと吸い込まれるように小さなポーチの中へと消えていった。
「……うん。やっぱこのポーチ、普通じゃないよね?」
四次元ポケットも真っ青だ。便利なので文句は言わないが、ありがたく使わせてもらおう。
空中のインベントリ画面を確認してみる。
「お、『木材』って名前でカウントされてるな」
あれ? 丸太じゃなくて?
不思議に思い、ポーチの中に手を入れて「木材」を念じながら取り出してみた。
「えー……なあにこれ?」
手の中には、丸太ではなく、綺麗に四角く製材された木の板が握られていた。ホームセンターの資材コーナーによく売っている、あの綺麗なツーバイフォー材のような形だ。
ポーチに入れただけで、丸太の皮が剥がれ、勝手に加工済み製品になっていたらしい。
「……よし。君には『万能ポーチくん』の名前を与えよう」
だからネーミングセンスが変? だまらっしゃい!
◇◇◇
その後、俺は一通り小屋を作るための木のパーツを、クラフトテーブルで作成した。
パーツが出来る工程は一瞬だ。画面の『作成』ボタンをタップするだけで、テーブルの上にポンッと光の粒子が集まり、実物の木の壁や床が出来上がる。
「なんか現実味がないなぁ」
便利なのでありがたく使わせてもらうが。え? さっきも言った? 大事なことなので。
「まずは最低限、豆腐ハウスでいいや」
こういう開拓ゲーム界隈で使われる『豆腐ハウス』というワードは、単純に言えば真四角の建築物のことを指す。普通なら三角屋根をつけたり、窓枠を工夫してお洒落にしたりするものだが、最初はこれでいい。
四角形の豆腐ハウスが悪いわけではないのだ。誰でも単純で作りやすく、後からいくらでも拡張性が高い万能の仮拠点。それが豆腐ハウスだ。
「よし、あとは焚き火だな。これを作るか」
クラフト画面のリストから『焚き火』を選択する。
……焚き火って、クラフトテーブルの上のブルーペーパーから光って生成されるものなのか? という当然のツッコミは、そっと心の奥にしまっておくことにした。




