012『スコップくんと水路完成』
ザクッ、スーン。ザクッ、スーン。
リズミカルな音が森に響く。
俺はひたすらに地面を掘り進めていた。万能スコップくんの効果は、やはり絶大だ。
本来なら腰が砕けるほどの重労働であるはずの水路掘削だが、このスコップを使うと、まるでプリンをスプーンですくうかのように土が軽い。どれだけ掘っても、腕への負担がほぼゼロなのだ。
「……異世界モノのチートって、普通はもっとこう、派手なもんだよな」
手を休めずに、俺はふと思う。
ラノベやアニメでよくあるのは、魔法で敵をなぎ倒したり、剣の達人になったりするパターンだ。それに比べると、俺が持っているのは『スコップ』や『ノコギリ』や『ポーチ』といった地味な道具ばかり。
だが、今の俺にとっては、聖剣エクスカリバーよりもこのスコップの方が百倍ありがたい。
「いきなり『魔王を倒せ』って言われて最強の剣を渡されても、正直困るしな」
俺は平和な日本で生まれ育った、ただのゲーマーだ。喧嘩すらまともにしたことがないのに、いきなり異形の魔物と殺し合いをしろと言われても無理に決まっている。
勇者召喚とかよくあるけど、あれぶっちゃけ同意のない誘拐だからな。そう考えると、俺も誘拐被害者の一人なわけだが。
「まあ、文句を言っても始まらないか」
俺は額の汗を拭う。
戦闘を強要されず、こうして便利な道具を使って自分の好きに生活圏を作れる現状は、不幸中の幸いと言えるのかもしれない。
それに、俺はただのインドア派ゲーマーというわけでもない。休日には友人とキャンプに行ったり、BBQで火起こしを担当したりと、そこそこのアウトドア経験もある。ゲーム知識と、浅く広いサバイバル知識。それが今の生活を支えているのだ。
そんなことを考えている間に、予想以上のハイペースで水路の掘削が終わった。
川から拠点まで、一直線に伸びる綺麗な溝。ただし、川との接続部分はまだ繋げていない。作業中に水が流れ込んでくると大惨事になるので、最後の1メートルほどは土の壁を残してある。
「よし、次は『水門』と『水路』の設置だな」
掘った穴にそのまま水を流すと、土が削れて泥水になってしまうし、地面に染み込んで水が減ってしまう。
そこで登場するのが、採掘場で集めた石材を加工した『石の水路(U字溝)』だ。
「掘った穴に、石材パーツを埋めてっと……」
ポーチから『石の水路』を取り出し、掘った溝にはめ込んでいく。
カチッ、カチッ。
まるでパズルゲームのように、石のパーツが吸い付くように連結されていくのが気持ちいい。
「水門は……今の素材で作れるのはこれか」
クラフトテーブルで作成した『木と石の水門』を、水路の入り口部分に設置する。
板を上下させて水流を止めるだけの原始的な構造だ。本当は捻るだけで水が出る『蛇口』や、金属製のバルブを作りたいが、それには銅や鉄といった金属素材が必要になる。今の石器時代レベルの文明ではこれが限界だ。
「あとは、排水路の整備と……浄水装置、か」
貯水槽から溢れた水を川へ戻すための排水路も、同じように石材で舗装しておく。生活排水を流すわけではないので、そのまま川に戻しても環境への影響はないはずだ。
ただ、飲み水として使うなら、砂利や炭を使った『ろ過装置』を間に噛ませたいところだが……。
「本格的な浄水フィルターを作るにも、やっぱり金属や、特殊な砂が必要なんだよなぁ」
クラフトテーブルのレシピには【浄水装置】の項目があるものの、素材不足でグレーアウトしている。当面は、貯水槽の水を汲んで、これまで通り煮沸消毒してから使うしかないだろう。
「よしっ、設置完了!」
最後の石材をはめ込み、俺は立ち上がった。
川のすぐ手前から拠点の前まで、白く整えられた石の水路が一直線に伸びている。
「壮観だな……。あとは、あの土壁を崩せば水が通る」
俺はいよいよ仕上げに取り掛かるべく、再び万能スコップを握り直して川岸へと向かった。




