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「――で、ゲームセット……とりあえずこんな感じかな?」
食後、葵ちゃんから大体のルールを聞いてから俺達はコートに入った。
要は2ゲームを先取すればいい話で、それ以外は審判の葵ちゃんに任せてある。
……強いて言えばその他の詳しいルールは知らないのだが。
「それじゃあ……試合始め!」
じゃんけんの結果、最初は結衣のサービスから。とりあえず返球だけはしっかりしないと――
「死になさい!」
「うわっ!?」
結衣が打ったシャトルは俺の顔の横すれすれを飛んで行き、球威が衰えることなく地面に突き刺さった。
地面の抉れ度からして、その威力は葵ちゃんの3倍くらいはあるんじゃなかろうか。
……というか、シャトルで地面は抉れるのか?
「危なー……」
「ちょっとお兄ちゃーん?避けるんじゃなくてちゃんと打ち返さないとー」
「む、無理だって!てか人を狙うのはありなのか?」
いや……今のは避けることで精一杯だったんだが。
それに、確かルールは“相手コート内にシャトルを落とすこと”だったはず……だよな?
「それからお姉ちゃんもー!サービスは下からじゃないと駄目だよー?」
「そうなの?でもバレーは上からでいいじゃんかー」
お前は今、ラケットを持ってバレーをやっているのか。
それよりも俺は結衣の勘違いで殺される所だったとは……よく避けれたな俺。
あんなの当たったら掠り傷じゃ済まなさそうだ。
「次からはちゃんとやれよー」
「う、うるさい!あとで吠え面かいても知らないからね!」
吠え面って泣き顔のことなんだが……果たしてどのようにして俺を泣かすつもりだろうか。
――
―
「美穂!上だ、上!」
「え?え?どこー?」
――
―
「侵し掠めること……火のっ!」
「悠くん空振りー!」
――
―
「くそっ」
「どう龍也?これが私の実力よ」
「……参りました」
お互いつまらないミスが目立ったが、結果としては0-3で俺達の惨敗――その中で結衣のスマッシュが全部俺に向けられていたのは気のせいだろうか。
それを打ち返せなかったのは俺の問題だが……このまま負けっ放しで大会を迎えてたまるか。
「ねえ葵ちゃん。もし時間が空いてたら明日からも練習に付き合って貰えないかな?」
「う、うん!勿論いいよ!今日のお兄ちゃん可哀想だったし……ね?」
うぅ……やっぱり優しいなぁ。
――こうして俺達はGW中毎日公園へ行き、葵コーチの下で特訓を受けた。
この調子なら優勝できるのでは……と、内心思っていたりする。