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“答えを写す”という作業は順調に進み、2時間程で事なきを得た。
過去で一番悲惨だったのは――夏休みの課題を終わらせる為に、姉ちゃんと結衣の妹の葵ちゃんを呼んでの大作業になったことがある。
姉ちゃんはまだしも、中学生の妹まで手伝わせるとは……さすが結衣と言ったとこか。
「早めに終わって良かったな。また前みたいになったら困るし」
「うん。あの……ありがとうね!……じ、じゃあ何して遊ぶ?」
ふむ、全く考えてなかったな。まさかこんなに早く終わるとは思っていなかったし……。
「そうだな。トランプ――」
は、二人じゃつまらないか。大富豪をやった所で相手の持ち札が分かる上、革命の連続だしな。
他は……七並べとか?いや、あれはもっと大勢でやるべきだ。
「あ、今日は葵ちゃん居ないのか?せっかく姉ちゃん居るんだしさ」
「葵は友達の家に――って、何?龍也は葵に居て欲しかったの?」
先程までのテンションとは裏腹に、結衣は憎悪に満ちた目つきで俺を睨みつけてくる。
あれ?そんなつもりじゃ……
「ほ、ほら。皆で遊んだ方が楽しいだろ?だから葵ちゃんも一緒にと」
「私と居ても楽しくない……と?」
え、え!?カバーするつもりが見事墓穴った感が……。
そう言い放った結衣は枕片手に、しかもチャックの部分向けて振りかぶって――もう俺にはどうすることも出来ないか。
昼の「あとで痛い目に合わせてやる」の意味がようやく分かった気がする。
グッバイマイライフ。
「それじゃ龍也、また明日ねー」
「……おう」
あれから結構叩かれ――結衣はスッキリしただろうが、俺は体中が痛くなった。
よく痛みが快感に変わると聞くが俺には解せないな。
俺の場合は快感というよりも屈辱に近かったし……まるで恩を仇で返された気分だ。
「あれ?結衣ちゃんもう帰っちゃったの?」
「はぁ……暴れて疲れたんだろ。俺だって相手するの疲れた」
「おやおや~?暴れたって何をしてかしら~?詳しくお聞かせ頂戴」
枕で叩かれてました、と言った所で俺は即変態扱いされるだろう。
生憎だが俺はMではない。
「姉ちゃんが想像してるよりも酷だから聞かない方がいいと思うよ」
「まさか、あなた達はそれ程激しいことを!?こうやって弟は大人の階段を登るのでした……」
いや、あれは下手したら登るべき階段を間違えるな。
てか姉ちゃんは一体何を想像してるんだよ……。
「全然違うって!そんなに聞きたかったら結衣に聞けば?」
「むぅ、たっつんのケチ!」
あー、結衣に聞いた所で俺のM疑惑が浮上するだけか……って、ちょい待て。
たっつんって誰だ。たっつんって。
「むぅ」は可愛いから許すが、たっつんは初めて呼ばれたぞ。