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その後、俺が昼食を食べ終わった頃に結衣がやって来た。
手には言うまでも無く、宿題のプリントが握られている。
やっぱり終わってなかったのかと感心するべきなのか、呆れるべきなのか……。
どちらにせよ今日は遊べないな。
「あ、奈々美さん!こんにちは」
結衣が「奈々美」と呼ぶのは言わずもがな俺の姉のことである。
前までは『お姉ちゃん』と呼んでいたが、恥ずかしいからという理由で今の呼び方になった……らしい。
「久しぶりー!――そうそう聞いてよ結衣ちゃーん!
龍也ったらね、春休み結衣ちゃんが来なくて寂しかったー!って」
「はぁ?そんなこと微塵も思ってねーし。てか、何で“言ってやったぞっ!”みたいな顔してんの?」
「むぅ、相変わらず龍也は照れ隠しが上手ねー。結衣ちゃんも何か言ってやりなさいよ」
「え、え?……そ、それ本当なの?」
ああ、ここに真に受けてるのがいるし……。
話がややこしくなる前に逃げないとな。
「はぁ……先行ってんぞ」
「ちょ、待ちなさいよー!」
部屋に着いてからは察しの通り――あ、今エロいこと考えた奴は退場な。
結衣が必死になってプリントの答えを写している中、何故か俺も手伝う羽目に。
これもいつも通りなんだが……もう習慣になってきたな。
「なあ。何で宿題終わらんかったの?結構休みあったじゃんか」
「1日1ページを目安にやってたらいつの間にか休みが終わってた――みたいな?」
みたいな?って……本当に馬鹿だな。30ページ以上あるのにどんな計算ですか。
そんなんじゃ夏休み使ってじゃないと終わらないぞ。
「それよりさっきのことだけどさー」
さっき?……ああ、玄関でのことか。あれは冗談でもきつかったな。
まあ、若干嘘では無い部分もあるが……寝転んでサボっている奴には絶対に教えたくはない。
「本気にするなよ」
「…………」
「あ、でもちょっと寂しかったな。近くに遊び相手がいないっていうのは」
「……そ、そうだよね!やっぱり龍也は奈々美さんの言う通り寂しかったんだねっ」
畜生……返せ、俺のドキドキを。