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だがやはり物事というのはどうしても順調に行くはずもなく、ここで一つ重大な問題が発生する。きっかけは咲希の「たつにぃと寝たい」のただ一言。
俺達の部屋に咲希が来るか咲希の部屋に俺が行くかで悩んだが、結局は咲希に来てもらうことになった
しかしこのことで女子二人の反感を買い、何としてでも阻止しようと西浦に進言を始めたのである。
いやまあ、さすがに俺もそれは若干の抵抗があったが何せ咲希は俺の従妹だし、昔は姉ちゃんと並んで一緒に寝たこともあったし……当然ながら断れないよな。
いくらロリコン疑惑が掛かってる悠人も俺の目の前では行動に出ないだろう。
「だ、駄目よ咲希ちゃんっ!!こいつと一緒に寝たら何をされるか」
「馬鹿かお前は……相手は従妹だぞ?何もするわけないだろうが」
「そ、それにあの悠くんがいるから危険だよ!?」
「どの俺だ、どの」
このように俺達が手を出すこと間違いなし論が出ているが、断じてそんなことはしない。紳士という名の神に誓おう。
それでも信じてもらえないなら咲希には悪いが――いや、責任持って連れて行くと言ったのは俺だな。西浦からも咲希の要望に応えるよう言われている。
その趣旨を伝え皆で話し合った結果――
「だったら先生ー!私達がその部屋に移動しちゃ駄目ですかー?」
「それは構わんが……いいのか?隣は森崎と寺岡弟の部屋だぞ?」
この旅館では男子と女子は別々の階ということになっているが、やはりそこが問題になるのだろうか。
それとも腑に落ちないが『隣は森崎と寺岡弟の部屋』ということがいけないのか?
「あの先生、仰りたいことがよく分かりませんが」
「寺岡弟よ……男っていうのはいつ凶暴な狼になるのか分からんのだぞ?もし隣の部屋に小さくて可愛い女の子と美少女達が居るって状況下なら迷わず」
「“虎穴に入らずんば虎子を得ず”って知ってますかね?さすがの俺でも命を捨てるような行動は出来ませんよ」
例えば3人の寝顔を見ようとある男子生徒が部屋に忍び込んだとしよう。
翌朝、旅館の外には全身に打撲の跡が見られる磔にされた男子生徒の姿が――勿論これは単なる予想ではあるが、実際に起こり得そうだな……あな恐ろしや。
「じゃあ早速荷物を運んで貰おうかしら――出でよ龍也」
「は?まだ自分の荷物が残ってるんだけど……それと召喚獣みたいに人を呼ぶな」
「たつにぃこの鞄重たいよ……」
「ははぁっ、私めがお運び申し上げ候」
「な、何で私のは持てなくて咲希ちゃんのは持てるのよ!?」
いやいや、どう考えても結衣の方が力……これ以上は言わなくてもお分かりいただけるだろう。
それに咲希の荷物は1泊分ではなく今後の――あ、あの野郎、何で宅配便とかで送らなかったんだよ。