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さて、仲が悪くなったわけではないにしろすっかり仲直りした俺達だが、何故か俺はパフェを奢ることになった。
早く戻らないと悠人と美穂が待ちくたびれているであろうに……よりによってこの気儘なお嬢様はキングサイズを頼みやがった。
旅行一日目にして早くも節約を余儀なくされるとは――理不尽にも程がある。
それにしてもさすがは“キングオブパフェ”。大皿には底が見えないほどの生クリームとフルーツが多々乗っている。
俺は特に甘い物が嫌いとかそういうのではないが、これは視界に入るだけでも胸焼けがしそうだな……。
「いっらっしゃいませ!」
そんな俺の行き場の無い視線をパフェから外そうとした時、俺は偶然にも今入ってきた来店客と目が合う。
勿論ここら辺に知り合いがいるわけないのだが、俺はその少女に見覚えがあった。というかその女の子を連れている人に『超』見覚えがあった。
思わず席を立ち上がり二度見をしてみるも、俺の見間違いとかではないようである。
そもそも今ここで会うこと自体奇跡な人物であり……親近感沸きまくりのあの御方。
まあ、親近感を通り越すどころか完全な身内であるが。
「父……さん?」
「ん?おお、龍也か。お前ここで何してるんだ?学校はどうした」
「何って、俺は修学旅行でここに――」
ふと一緒にいた少女と目が合うが、その時俺は最近起こった連続少女誘拐事件の犯人が捕まっていないことに気付いた。
犯人像は40代後半で身長は170前後……まさに父さんのことを表しているではないか。
しかしその子をよくよく見てみると、少女というより幼女の印象のほうが強いことが分かった。
い、いやいやいや。う、嘘だよな?も、もし、このことを母さんと姉ちゃんが知ったら……家族関係崩壊の危機だな。
「おい、急に考え込んだりしてどうした?」
「あ、いや……と、というかその子誰なんだよ。まさか父さんは誘拐犯」
「馬鹿かお前は……覚えてないのか?この娘はな、龍也の」
先程まで不思議そうに俺を見つめていた少女だが、俺の名前が出てきた途端満面の笑顔になった。
そして動揺を隠せない俺に対して衝撃の一言を放つ。
「もしかして……たつにぃ?」
「た、たつにぃ?――あ」
「あー!やっぱりたつにぃだー!」
「おっと」
たつにぃ、その言葉を聞いて俺はそう呼んでいた一人の少女のことを思い出す。
俺の従妹の谷内咲希――俺が最後に咲希に会ったのはもう5、6年程前になる。
身長や髪形など全体的に容姿が変わっていたため、俺が思い出せなかったのも納得がいく。
当然ながら「何故父さんといるのか?」という疑問が湧くが……もしかして何かあったのだろうか。