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まあそんな事よりも今はもっと重大な事態に直面しているわけで……というか偶々視界に入ってしまった。
「それならお前も、そ、その……前が開けた服!……の心配をした方が、いい……かと」
「え?…………わ、わわっ!」
そう、本当に『偶々』なのだ。決して見たいとかいう願望などは微塵も無かった。
俺が指摘した後でとりあえず訳が分からず前を確認をした結衣だったが、ようやく自分が今どんな格好をしているのかを把握したようだ。
すぐさま服装を整えるも、多分この時点で結衣が白粉をしていなければ顔が真っ赤であることは容易に想像出来る。
そもそも何故結衣がこんな格好かというと――先の事故で結衣が裾を踏んだことにより緩んでいた帯が完全に解けてしまった。
更に俺が追い討ちを掛けるように引っ張ったことによって、着物の掛け衿ならまだしも下に着ている肌襦袢までもが少し開けてしまい――という経緯である。
俺はなるべく白い肌の部分に視線を合わせないようにするも、こう……つい気になってちらちらと見て――はい、只今死亡フラグが立ちました。
何せ今回は意味深な涙を薄らと目に浮かべながら、殺気立つ人が俺の目の前に居るもんで……。
「は、早く離れなさいよ!」
「あ、いや、わざとじゃないからな?それに」
「いいから退けっ!」
「はいっ!」
殴られる覚悟をして身構えていると結衣は静かにその場に立ち、握り締めた拳を俺の顔面に!――は向けて来ず、そのまま奥の部屋へと戻って行った。
その場に残ったのはあいつが何もしてこなかった事への疑問と、悠人からの冷ややかな視線。
俺は悪くないはずなのだが……これ如何に。