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呼びかけたついでに美穂へ写真代を渡しそのまま撮影室へと入って行こうとした時、結衣の服の異変に気付いた着付け師さんが声を掛ける。
「え~と、結衣ちゃん……だったかな?帯が緩くなってるみたいだから撮る前に直しておこうね」
「は、はいっ。今行きま――」
走り出そうとした結衣だったがやはり和服は動きづらいようで、今もそうやって裾を踏んで転びそうに……って。転びそう!?
「お、おい!」
「きゃっ!」
あの結衣が「きゃっ!」って悲鳴を上げるのか……なんて思うより前に俺は助けに入っていた。
後ろに伸びていた腕を咄嗟に掴み、此方側へ引き寄せようとする。
――だが、結衣転ばせないようにすることで必死だったのか思わず引っ張る勢いが強くなり、畳の縫い目に沿うような形で足が滑る。
そしてそのまま結衣を抱え込むような格好で後ろに倒れ、俺は後頭部を派手に柱へとぶつけた。
打撲の瞬間はまるでハンマーで叩かれたような音が頭に響き渡る。
「うぉっ……っつ~~~~!!」
俺は想像以上の激痛が走ったことにより、打った箇所を抑えながらその場に蹲り悶える。
さすがにのた打ち回るほどではないが、それでも鈍器のようなもので思いっ切り殴られるのと同様の痛さであろう。
果たして瘤だけで済むか否か、それが一番不安だった。
「ちょっ、大丈夫!?今凄い音したけど……」
「う、んー……だ、大丈夫と言うか何と言うか、お前こそ怪我無いか?」
「はあ?あんたねえ、私より自分の心配しなさいよ!」
そう強気に言い放ちながらバシッと俺の肩を叩く結衣だが、その目が潤んでいたことには少なからず罪悪感が湧いてしまう。
その時俺は、嘗て姉ちゃんから教わったことを思い出す……女の顔を傷付ける男は、万死に値す――と。
咄嗟の行動により何とか結衣は転ばずに済んだが、もしあのまま倒れていれば顔面を強打していたに違いない。
それが俺の所為でないにしろ、近くに居た俺が助けない訳にはいかない。だから代わりに俺が――では納得してくれないだろうか。