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周りからの視線に耐えながら正座をさせられること数分。早くも足に限界が来たようだ。
一刻も早く打開策を見つけねば――!
「あのー……お前らもいつまでも笑ってないで助けろよ。足が痺れてきた」
「だとさ。頑張れ美穂」
「えー。悠くん男の子なんだから助けてあげなよ」
「いや、ここは男の出る幕じゃ無えよ」
どっちにしろ助ける気は無い、と。くそぅ……これがどんなに苦痛かを知らないくせに。
こうなった以上、怒った結衣の相手を出来るのは俺しか居ないか。
「はぁ……結衣さんや」
「何よ!」
「今度からは一緒に行くから。だからごめんなさい」
ちなみに心底から思っているわけでもなく、勿論棒読み――謝罪部分は全力だが。
これでも駄目だったらもはや打つ手無し……即ち、俺の人生の終了を意味する。
クラスメートからは馬鹿にされ、その噂は学校中に広まり――
「な、なら許してあげるわよ……今度は許さないから!」
……お?そのセリフも何十回と聞いてきたが、許されたから良しとしよう。
ようやく正座から解放され伸びをしていた時に、顔を赤らめている結衣が目に入る。
ん?俺、何かしたか?
「それで……その…………見た?」
「何を?つか、あんな状況で」
「い、いいの!何でも無いの!……あ、ほら。先生来たから席に着こ?」
へ?水色?……あー、今日は実に良い天気ですね?
こうして俺は何とか無事にSHRを迎えることができた。
ちなみに担任は去年と同じく、体育科教員の西浦。
あの人、某テニスプレイヤーみたいに熱血だから……うーん。
その後の始業式は30分程で終わり恒例の席決めの時間になった。
前の黒板には、辛うじて机列だと分かる歪な図形が書かれているが……スルーしよう。
「よし、じゃあ席決めするけど……目悪い人先な!
はい、じゃあ目悪い人!前2列なら自由に座っていいぞ!
その後にくじ引きで席決めるから!……誰かいないかー!」
俺は既に、後ろの席で睡眠学習をすると決めている。
しかも目が悪いからってわざわざ前に行く奴なんて
「はい!私、目が悪いです!」
……え?何で結衣?あいつ抜群に目が良いはずだが。
というか、何故に視線を俺に向ける?
「ついでに龍也君も目が悪いです!」
「――ちょっと待て。俺は」
「ほぉ!自ら前の席を志願してくるとはな!」
いやいや、待て待て待て。俺は巻き添いか?それとも新手の嫌がらせか?
どっちにしろ前へ行ったら授業を楽しめなくなる。
何とか結衣の策略を打破せねば!
「先生!俺、目良いですから!今も黒板の字見えてますから!」
「やかましい森崎!お前も男なら黙って川津に従え!ほら、郷に――何とかってあるだろ!」
おい、教師がそんなこと言っていいのかよ。しかもその諺の使い方が違う気がするんだが。
……くそっ、こうなったら悠人に助け舟を
「先生!私も目が悪いでーす!あ、悠くんも」
そう言いながら、悠人と一緒に手を上げる美穂。いや、正確には悠人は強制的に手を上げさせられているな。
――助け舟、共に沈没。
「はぁ!?ちょ、美穂」
「何だ寺岡姉弟もか。ったく、テレビの見過ぎには気を付けろ。
じゃあお前らだけのようだから早く座る場所決めろよ!」
結局俺達は前から2列目の、左から悠人・美穂・俺・結衣という席になった。
俺的には悠人と隣が良かったが……何しろあの二人、勝手に席を決めやがった。
後ろでのまったり生活は儚く散り、左右に五月蝿い奴を迎えての席。
ああ災厄だ……そして最悪だ。