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「それじゃまずは――宇治へ!」
俺達の最初の目的地である『宇治』と聞けば、10円玉、神社、そして何と言っても抹茶の町が思い浮かぶだろう。
駅到着後はとりあえず平等院の境内散策を堪能し、その後にすぐ近くの甘味処で足を止めた。
ある1名はあからさまに嫌な顔をしているがルール上仕方が無い。しかも主催者はあなたじゃないですか。
「それじゃあ結衣ちゃん、お願いね!」
「うぅ……すみませーん、抹茶アイス3つとバニラ1つください」
二人の会話から分かるように車酔いというハンデを抱えた俺が負けるであろうと予想された先のゲームは、意外にも結衣の負けという結果で終わった。
策士策に溺れる、とはまさにこのことだろうな。
だがここで俺はある事に気が付いた。そういえばさっき結衣は『バニラ』って言ってなかったか……?
「いやいやちょっと待て。そのバニラは誰の」
と言い掛けたが俺に手渡されたのは何故か“その”アイス。実はこれが噂に聞く白い抹茶アイスなのだー!とかでも無さそうだしな。
渡されたタイミングの良さはともかく、こいつは一体……何が何だかさっぱり分からない。
「あ、あんただって嫌いな物渡されても困るだけでしょ?それにせっかく買っても残されたら私のお金が勿体無いだけだし……だから特別にバニラにしてあげたのよ」
「そうだったのか……あ、一応言っておくが出費抑えたかったのなら別に俺の分無しでもよかったぞ?」
食べたくないと言えば嘘になるが、結衣が俺の為に金を使う場面なんてそう滅多に無い故に呆気にとられていたりする。
そうなると現在の状況がどれだけ物珍しい事やら……。
「う、うるさいっ!ここは私の寛大な心に感謝する所でしょ!それにさっさと食べないと抹茶に変えるわよ!!」
「すみませんありがとうございます!」
何と強引且つ欲張りな……しかし旅行気分の所為だろうか。何だかいつもより優しく――い、いや、多分気のせいだけど。
それでも俺は結衣の心遣いには少なからず感謝はしている。それに金銭面がどうとか言っていたけど本当は……まあ、さすがと言った所だな。
さて、わざわざ奢ってもらったからにはやる事は只一つ。
全員が食べ終わったのを確認した俺は悠人と美穂を呼び、結衣の前横一列に並び決めポーズをとりながらお決まりのセリフでこの場を締め括る。
日頃から奢る側に立っていた俺にとってはまさに千載一遇のチャンスだった。
「では結衣さん、『ゴチになりまーす!』」
「う……この敗北感が何とも言い難いわね。あんた達、後で覚えておきなさいよ?」
この直後、アイスを口に入れてないのに背筋が寒くなったのは気のせいではないだろう。
時にいい旅夢気分ってのは恐ろしいな……今後の俺達の安否が心配だ。