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「さあお前らー!京都へ行こうと!!」
そんなわけで、3割の期待と7割の不安を胸に京都旅行の日がやってきた。
ちなみに西浦が言った『行こうと』には京都と古都の意味が含まれていて……まあ、敢えて黙っておくとしよう。
それに眠気が残る朝から半袖短パンの男と絡む気なんて毛頭もない。
しかし初っ端から旨いこと事が運ばず、まず俺の前に立ち塞がるのは、別名“シックネス・バス”。
俺は極度の乗り物酔い故に動いてない車に乗るだけで吐き気を催す為、目的地まで無事に辿り着ける保証は無い。
今回も快く悠人に窓際を譲って貰ったのだが……毎度のこと本当に申し訳ない。しかも俺達の座席は酔いにくい前方という配慮まで戴いて。
「あんた相変わらずね」
そんな中俺達の前の座席に居る結衣は、俺のあまり構って欲しくないという気持ちを知ってか知らずかちょくちょく話し掛けてきた。
もしかしてこいつは俺の気分が悪化するのを見て心中楽しんでいるのではなかろうか……いや、さすがにそこまでサディスティックではないな。
「し、仕方ないだろ。この浮遊感はいつになっても慣れないんだよ……つか、危ないから前向け」
「ふっふーん。実はこの席、こうする――とっ」
……なんと言うことでしょう。結衣と美穂が座っている椅子が回転し、こちらを向いたではありませんか。
目の前には手にトランプを持った結衣と、申し訳なさそうな表情をしている美穂が居て――早くも7割分の不安が的中することに。
「ちなみにこのゲームに負けたら……そうね。せっかく京都へ行くんだから抹茶アイスでも奢ってもらおうかしら」
「それは何か?俺が抹茶嫌いだということを知ってのことか?」
「嫌だったら負ければいいのよ。負・け・れ・ば」
くそっ、ゲーム開始前なのに早くも勝ち誇ったかのような表情で俺を見やがって……抹茶が食えない俺にとってはこの上ない屈辱だ。
どのみち勝っても負けても俺に利益は無いから、とりあえずは負けないようにしないといけないな。
「ちなみに何をするんだ?」
「トランプと言えば大富豪に決まっているじゃない!」
ほう、大富豪と来たか。未だ嘗て姉にすら勝ったことがない俺に大富豪で勝負を挑もうというのか。
敗色濃厚な俺に一体どうしろと言うのか!
酔いと賭け事に闘うこと3時間が過ぎた頃――バスの左側に京都を一望できるタワーが見えてきた。
いやはやようやく着いたわけだが……何故だろう。前方から殺気を感じるんだが。
「さて、ここからはお待ちかねの自由行動だ!……ただし!時間までには必ず旅館へ戻ること!少しでも遅れた奴は俺と一夜を過ごしてもらうことになるからな。それまでは精一杯楽しんで来いよ!じゃあ解散!」
そう担任に言われた後生徒達は駅前で降ろされ、時間厳守を心に各々の目的地へと向かった。