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「なあ、いい加減元気出せって」
俺はそこそこの楽しみだったのでショックもあまり受けずに済んだが、誰よりも遥かに落ち込んでいる人物が約2名。
つい数分前までは放心状態だった彼ら――いや、彼女らは連日連夜睡眠時間までもを費やして計画をしてくれただけあって、さすがに放っておく事は出来なかった。
「だって初めての北海道がぁ……」
「キタキツネ見たかったなぁ……」
そう。行き先が京都に決まってからは結衣と美穂のテンションが急降下。
今もこうして寄り道をし、わざわざ喫茶店にまで来て二人を宥めている最中だ。
肝心の悠人は京都のパンフレットを貰いに席を外してるが……はっきり言って俺一人じゃ手に負えない。
「ええい!……いいか?北海道なんて卒業したらいつでも行けるだろ。それにこっちまで気が滅入ってくるからいつまでもうじうじすんな」
これといって効果はあまり期待できなかったが、二人の気分がこれ以上どうにもならないということを悟ったので自棄を起こしてみる。
俺が二人から反感を買うことは十分に覚悟していた……はずだった。次の言葉を聞くまでは。
「じゃあ龍也くん。卒業後に私達を連れてってね」
「当然だけど言い出した龍也の自腹よ」
先程の暗い雰囲気とは打って変わって結衣と美穂に笑顔が戻ったが、さすがの俺もこの状況になることは予想だにしていなかった。
しかも何故か俺の自腹ということも強制的に決まり……な、何でこうなるんだ。
「ただー……お?何だ、二人とも元気になってるじゃん」
そこへこの展開を予測していたかのようにタイミング良く悠人が戻って来た。
手には京都という文字の他に“北海道”と書かれたパンフもあり――くそ、もしや謀ったか?
「聞いてよ悠くん!龍也くんがねー、今度北海道に連れてってやるーって」
「何っ!?俺も行くぞ」
「ちょ、お前ら待っ」
「「「楽しみにしています!」」」
いやいや……え、何皆して親指突き上げてグッ!てしてんの?あとその『期待してるよ』みたいな視線をやめてくれ。
こうして俺は卒業後、破産が確定した。