〃
さて。激戦から一夜が開けた翌日の朝――言わずもがな俺は全身が筋肉痛になっていた。
目が覚めてからは布団から起き上がれないかと思うくらい体中が痛み、ラケットを振り回していた右腕に関しては力が全く入らない状態である。
何せ少しでも力を加えれば患部が急に痛み出す為、制服へ着替える時は特に悪戦苦闘を強いられた。
それでも学校へは行かなければならなかったので、必死になりながらもとりあえずは結衣の家へと辿り着いた。
そして呼び出してから待つこと数分。玄関の扉がゆっくりと開き、のっそりと結衣が顔を覗かせる。
その顔は苦痛で歪んでおり何かを訴えかけんとしているが、敢えてスルーをさせていただこう。
「おはよーっす」
「お、おはよう……あれ?龍也は平気なの?」
外へ出てきた結衣の足下は覚束なく、凡そ一歩毎に痛みに耐えていると見た。
その為、俺が平然としている様を見て疑問に思ったのだろうが……甘いな。俺だって普通に歩くことさえ儘ならないのが現状だ。
「いや、お生憎様体のあちこちが筋肉痛だ。だから今日くらいは自分で鞄持ってけよ」
「あぅ……やっぱりそうなるのね」
学生らしく日頃から運動しておくべきだったとつくづく思う日であった。
それにしても葵ちゃんは毎日部活をやっているのに、何故いつもああ元気なんだろうな。
しかしその日の嫌な事はそれだけではなかった。
学校へ着くなり悠人と美穂を見付けたのだが何やらお取り込み中のようで、俺と結衣を指差し大声で叫ぶ人影が見えた。
「伝説のペアが再臨なされたぞー!!」
近付いてみると二人は変な集団に絡まれていて、そこには昨日戦ったバド部の奴も居た。
手には何やら関係有り気な紙を持っており、どうやらその事について話していたようである。
「……どした?」
「俺達をバド部に入部させたいってしつこいんだよ。何でも昨日の試合に感動したとか何とか」
「「はい!だから全国大会優勝を目標に、是非とも入部をお願いします!」」
うっわ……何か面倒臭いことになってんな。
詳しく話を聞くと、俺達ほどの実力があれば長年の夢である『全国制覇』が達成出来るとか云々。
そして昨日俺と美穂が戦った相手は部長と副部長ということも分かった。
その中でも入部後即レギュラーというのは満更でもない話だったが、次の日のことを考えると……あんな試合なんてもう二度と御免だ。
「お前達姉弟に念の為聞いておくが……本日のお体の調子は?」
『全身筋肉痛ー』
ですよね……やっぱり慣れてないことはやるもんじゃないんだよ。
「――ってことで、無理です」
「そ、そんなぁ!そこを何とかお願いします!!」
こいつらの必死さからすると、どうあっても俺達が入部するまで食い下がるつもりは無い……と言うことか?
だが俺達は平穏な学校生活を送りたいわけだから、結衣とアイコンタクトをしてここぞとばかりに最終手段を取る。
「あとね。悪いんだけど私達部活に入ってるから無理なのよ。確かこの学校って兼部が禁止されてるでしょ?」
「え……ち、ちなみに何部でしょうか?」
「「「「帰宅部です」」」」
驚く程に4人の息がバッチリ合い、バド部一同の度肝を抜くことに成功。ちなみにガッツポーズも決まっていたりする。
それに帰宅部ほど素晴らしい部活は無いと思うんだがな。
「「…………」」
「すまんな。そんじゃ遅刻する前に先行くから」
「あ、ちょ、ちょっと!」
こうしてバド部への入部は回避されたのだが……次の日からしつこく勧誘されたのは言うまでも無い。
なんなら俺達に教えてくれた葵ちゃんを顧問、もしくはコーチにしたら確実に強くなると思うぞ。
……まあ、結衣が許さないだろうけど。