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早速SHRで本日の大会についての報告会を行うも、どうやら俺達のクラスが優勝できた種目はバドミントンだけだった。
明日になれば賞状を貰える予定だが――担任の熱血指導があったテニスはどうしたテニスは。しかも試合結果が初戦敗退ってどういうことだよ。
ちなみに後から聞いた話によると西浦は自称『地区大会優勝者』と言い張っており、テニスに関してなら十分過ぎるほどの経験者らしいが……さすがにこれは髀肉之嘆にも程があるぞ。
――とか思いながらも俺にはどうでもいい話であって、クラスメート共に絡まれる前にそそくさと教室から出る。
そして昇降口に差し掛かったところである人物から声を掛けられた。その“ある人物”と言うのは勿論あの御方。
「た、龍也!」
「ん?何だ結衣か。鞄なら今日は持たん……というか持てんな。今すぐにでも腕が攣りそうだ」
「違っ……えと、ご、ごめんなさい」
――はい?俺はてっきり「それでも持ちなさいよね」などと言いながら鞄を持たせようとする結衣を真っ先に思い浮かべたのだが。
しかしそこには俺の意に反して、深々と頭を下げて謝罪をする結衣が居るわけでして。
とりあえず俺は何故に謝られてるのかを考えてみる……あ、もしかして俺の優勝が悔しくてドッキリでも仕掛けようってか?
実は悠人と共謀して……は、ないな。さすがの結衣でもそんな子供のような事を考えるわけないし。
「えっとすまん。差し出がましいことを言うようだが、いまいち現在の状況が飲み込めない」
「んとー……明日からちゃんと自分で鞄持って行くから……そ、そのっ!今日の賭け」
「賭け?」
賭けという言葉を聞いてようやく俺は思い出す――そういえば試合前に結衣から奴隷宣告を受けていたことを。
勝っていなかったら今頃どうなっていたことやら……ああ、想像しただけでも恐ろしい。
「あれか?賭けの内容の度が過ぎたから謝りたい、とか?さすがに奴隷に成り下がるのは嫌だな」
「そんなことじゃなくて!私のじゃなくて龍也の賭けのことを言ってるの」
「んー。俺のは確か、お前からのパシリ解放令だったか?」
この自分の言葉で俺はようやく全てを理解することが出来た。
何故結衣が謝っているのか――そして、何故自分で鞄を持つことにしたのかを。
「……あのな。勘違いしてるかもしれんが、誰もお前と登校することが嫌とは言ってないから。
それとも何か?お前は俺と登校することまでも自分の命令だと思ってたのか?」
パシリ=鞄持ちと考えた結衣ならそういう結論に辿り着いていても不思議じゃない。
そりゃまあ、これまで一人で学校へ行こうと思えばいつだって行けるさ。
だけど10年以上も一緒に登校してれば習慣の一つとして成り立っているから、そんなことしようなんて一度も思ったことは無い。
それに、他愛ない話をしながらの登校もなかなかいいもんだ。
「でも……試合に勝った時、龍也凄く嬉しそうだったよね。それってやっぱり――私に付き合うのが嫌だったんじゃないの?」
「ふぅ……あれはな、純粋に勝てたことが嬉しかったからだ。練習中はずっと負け続けてたしなー。
それにあの時の賭けだって、お互いを鼓舞させる為に言った!……じゃダメか?」
確かにあの勝利は何とも言い難いほど嬉しかったが……俺にはそんなことなんてどうでもよくて。
いやー、それにしても最後は我ながら綺麗にまとめたな。鼓舞なんて言葉生まれて初めて使ったんじゃないか?
「そっかぁ……うん。そうだよね!」
「で、言いたいことはそれだけか?なら早く帰るぞ」
そう言い階段を下りようとした時、差し出された鞄が視界に入る。これはもしかして……冗談だよな?
「じ、じゃあ、私凄い疲れてるんだから鞄持ってよね!ついでに明日からもいつも通りお願いっ」
「だから今日は無理だって……それに、さっき『明日からは自分で』って」
俺が最後まで言い切る前に結衣に鞄を渡され、結局俺は痛みに耐えながら鞄を家へと運んだ。そしてパシリは健在……まあそんな予感はしてたんだけど。
それと、結衣が何故あんなことを聞いてきたのかも――この時は深く考えなかった。