1,幼馴染という名の関係
幼馴染とは大抵仲が良く、相思相愛ってのが基本だろう。
朝はわざわざ家まで迎えに来てくれ、放課後には待ち合わせをして一緒に帰る。
終いには弁当なんかを作って貰ったりして、まさに薔薇色の学校生活を送れるってわけだ。
そんな奴らに敢えて言おう。“贅沢だ”と。
一応俺にも一人、川津結衣という幼馴染が居る。
小学校からずっと一緒で、更には道を挟んで真正面にお互いの家がある。
付け加えるなら、俺の母さんと結依の母さんは高校の同級生で、その所為か家族同士仲が良い。
……ここまでの幼馴染の条件は完璧だ。さぞかし羨ましがる人もいるだろう。
だが俺はこれっぽっちも嬉しいとは思わない。
簡単に言えば俺達の間には“主従関係”が成り立っている。
つまり俺から見て結衣は、女王様>超えられない壁>幼馴染……ということに。
いつかはその壁をぶち壊してみたいのだが、現実はそう甘くない。
今日から新学期が始まり、ようやく俺は高校3年生になる。
そんな俺はいつものように川津家へ顔を出し、結衣が出てくるのを待つ。
「おはよう」
「おはよう!……はいっ」
差し出されたのはいつもの物。
弁当かって?……期待したことなんてあるものか。
「いや、何これ?」
「何って……鞄だけど」
「見れば分かる。だから何で」
「鞄重たいなー。学校まで大変だなー」
「……あのな、今日から高3だぞ?さすがにもう」
「重たいなー……だから、はいっ」
「…………お任せを」
こうやって今日も変わらない一日が始まる。
こう見えても俺は、何故か高校に進学してから毎朝結衣の荷物持ちをしている。
雨の日には傘を差すのだが、これも結構大変な仕事だ。
肩が濡れたとか、水滴が足に掛かったとか……相合傘?馬鹿も休み休み言えっての。こうなるくらいなら走って帰った方がマシだ。
「そういえば今日クラス替えだよね?」
「ん?ああ、そうだな」
「一緒だといいね」
ちなみに奇跡なことに、俺達は今まで違うクラスになったことがない。
今年はどうなるか知らないが……まあ、どうせ一緒になったところで昼食のパンを買えだの、飲み物を買えだの……と。
今年こそは勘弁して欲しいんだがな。
朝からネガティブな気分になったところでようやく学校に着いた。
下駄箱の前には新しいクラス表が貼ってあり、登校したばかりの生徒が屯している。
「えーっとぉ……」
クラスは全部で6組。別々になる確率は大いにある。
俺だって最後の年くらいは自由に過ごし
「あ、龍也と同じクラスだって」
「そ……そんな……まさか」
「これで12年間ずっと一緒じゃん!」
12年――嬉しそうに話してる所悪いんだが、俺にとっては予想外だ。
……この腐れ縁は切れることは無いのだろうか。
「あー悪い、ちょっと他のも確認してくるから」
「じゃあ先に教室行ってるねー」
結衣と一緒になっちまったのは仕方ないが、俺にだって頼れる友なら居るさ。
「寺岡……寺岡……と」
俺が探しているのは寺岡悠人。
中学からクラスが同じで、今では親友――いや、心の友と書いて心友と呼べる程の友である。
悠人さえ居れば俺はこの一年を乗り越えられる……はず。
「おっはー!」
不意に背中を叩かれ後ろを振り向く。
確かにこいつも寺岡だが……悠人ではなく、悠人の双子の姉の寺岡美穂。
美穂は結衣と妙に仲が良いから下手に逆らうことは出来ない。
「……美穂か。実は困ったことが」
「あ、知ってるよ?結衣ちゃんと同じクラスだったんでしょ?」
「うむ。そうあっさり言われると……何だかな」
まあ今更どうにかなるもんでもないし認めざるを得ないな。
というか、よく俺が落ち込んでいる理由を察したな。
「ちなみに私も悠くんも同じクラスだよ。」
「何!?……よ、良かったぁ……とりあえずよろしくな、美穂!」
「う、うん!じゃあ教室行こっか」
こうして教室へ行ったわけだが……分かるよな?
ちょっと遅くなっただけですぐ結衣の説教タイムだ。
悠人は既に教室に居て、姉弟並んで爆笑しながら俺を見てやがる。
「……何してたの?」
「いや、ちょっと美穂と立ち話を」
「あんたは私を何時まで待たせるわけ?」
「仰ってる意味がよく分からないのですが……」
「お黙り!」
そう言われとうとう正座までさせられたんだが、二人の笑いは止まらない。
しかも、ここでちょっとでも顔を上げたら膝蹴りをお見舞いされる。
何しろ角度的に……じゃなくて、この状況下で一体俺にどうしろと。