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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

イセカイ罪人旅

作者: 伯谷 陽太

 太陽が残酷にも大地を焼き晴らす砂漠の白昼。

 日光を遮る為の厚着を着き、馬を歩かせる男がいた。その者の後続には30人近くもの人が続いている。皆、首には罪人と書かれた札が付けられていた。


「ここで1度休むぞ」


 先頭の男がそう告げた。少し立ち止まって水を含むだけである。この砂の上に座り休憩をしようとなんて誰も思わない。

 彼らの旅はまだ地平の向こうまで終わらない。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……っつ。ここはどこだ?」


 それは普通の日のことだった。少し前まで僕たちは高校生をやっていた、はずだ。

 今となっては暑さにやられてしまって思考がやられている。ほとんど思い出せなくなって来ている。


 ただ一つ。砂の大地に囲まれてなお、命を切らさずにいられるのは、"恨み"。このお陰だろう。


 5限目の授業の時だったか、辺りが光り出したと思えば、教室とは全く違う石造りの冷たい部屋に閉じ込められていた。

 学校を狙った大規模な誘拐、それかテロだと思ったが、それが検討違いだったとすぐに理解した。


「い、異世界?」


 そう言って皆んながどよめき出したのが最初だった気がする。目の前にはファンタジー世界の僧侶のイメージの白装束がいた。

 そいつに向かって、先生が何かを抗議していた。


 次の時には先生の首が()ねられていた。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「うっ、うおぇ」


 己の吐瀉物が手に落ちて初めて吐いていたと理解が追いついた。それでも、ほとんど食事を摂れていない為、量は少ない。

 少量血が混じっていた。長く無いかも知れない。


「大丈夫か?」


 掠れた声で心配される。顔はしわくちゃで誰が誰だか判別がつかない。

 痩せ細った友人の顔を見る度にあいつらへの恨みが募っていく。


 勝手な都合で人を呼び、自分たちの立場が危うくなったら簡単に捨てる。異世界なんて物は空想に描いている時が一番幸せだった。そう痛感させられた。


 過酷な旅の速度に着いて来られない者達が既に力尽きた。力なく腕を空に向けて干からびる。これほどまでに悔しい事があるか。

 弔いを向ける時間はない。この旅を終わらせる以外に奴らに復讐する機会はない。


 こっちの世界のゴミ共の王の気に触れた。それだけで、それだけで、なぜ罪人にならねばいけないのだ。

 何をしようにも眠っている間に付けられていたという首輪のせいで反乱を起こそうとも出来なかった。魔法は夢の力ではなかった。強き者が弱き者を従える為の道具でしかない。元の世界の資本より暴力的でよっぽどタチが悪い。


バダッーー


 前の方で誰かが倒れた。すれ違いざまに心配の声をかけるが、もう事切れていた。

 もう皆んなどうやって歩いているのかさえ忘れているだろう。自分も例外ではない。

 ただ、倒れた時、それが生涯の最後になる。

 屍の上を平然と進んでいく感覚に慣れてしまった。きっと脳が麻痺しているんだ。


 日が落ち始めた。夜がやってくる。砂漠の暗闇(くらやみ)は寒い。それでも歩み続けなければ死んでしまう。

 希望はこの先にあるのか。何度も理性がそう呼びかけてくる。


 先導する男も可哀想な被害者だ。自分たちが追放される時、近くにいたから。それだけで同行を強制させられている。首輪も付けられて。

 王からは、「反逆者を砂漠の真ん中に置いて来い」と命令されていたが、同情したのか、次の国まで案内をしてくれている。


 しかし、想定よりもはるかに長旅の準備には不足と言わざるを得ない。

 確かな絶望感はおそらくここに居る全員が拭いきれずにいる。国への亡命という希望はこの先にあるのは確かだが、それすら砂嵐が掻き消してくる。


 先頭の男が地図を見る。


「この先のオアシスが枯れてなかったら、そこで休むぞ」


 今までの道のりで2つのオアシスは枯れていた。希望を持つには細い糸だ。極限状態になると楽しかった記憶がフラッシュバックする、なんてことがあれば幸せだろう。

 今は水、水、水。……喉が渇いたな。


「歩こう、それしか」


 ボソボソと呟きが止まらない。何に対して言葉を放つのか、なぜ紡ぎ続けるのか、どんな言葉を言っているのかも聞こえない。聞きたくない。


 空を見上げた。相変わらず星は光を遮る物はなく、美しく輝いていた。


 日が昇り始め出す。目的のオアシスまでは昼までに着く予定らしい。ここ最近は泣きたくても涙すら出ない。

 オアシスで涙を流せたら幸せだ。


 1キロほど先に、木が見えてきた。枯れていなければ水はまだ枯渇していない。眼前にわずかな希望はあるのに足が重い。

 身体的な話だけではない。もうずっとオアシスには裏切られてきている。

 いや、自分が勝手に理想を押し付けていただけの話だ。


「すまない。ここも枯れていたようだ」


 先頭の男が申し訳なさそうに謝った。彼が謝る理由がわからない。悪いことなんてしていないじゃないか。


 枯渇したオアシスに微かであった希望さえ切られ、何人か天に行ってしまった。死後は天国に迎えられるはずだ。

 息をしなくなった者の体からは首輪が自然と外れていた。生命がなくなる瞬間に魔力が消えるのが理由らしい。


 これが救済だとは思えない。最後までも枷をつけられてたまるか。


「水はあるか? オアシスはあるか? 国はあるか?」


 誰かに問われる。自分にはなんて返せばいいのか知り得ない。誤魔化した期待を膨らませたところで残るのは無念だけだ。

 乾燥し切った喉を震わせ、声を出す。


「まだ先に……先にある」


 返事を聞いた顔は安堵していた。もう何に安心すれば良いか自分にはわからない。

 来た道を振り返ると、先程通ったオアシスに痩せ細った犬が(たか)っていた。彼らもまた、過酷な世界に生きる者達なのだ。

 それでも仲間達の骨の1本ぐらいは拾ってやりたかった。許してほしい。


 しかし、引き返すのは不可能。干物みたいな足を見た。そろそろ自分の番であろうか。

 視界がぼやけて来た。いや、普段からこんなものか。近くにオアシスがあればな。


「お、お、オアシスだっ!」


 少し前に自分に質問をした人が急に走り出した。その行く先には砂しかない。

 その砂を嬉しそうに口につけていた。幸せな夢の最中で死ねるのならば、絶望に打ちのめされて消えるよりよっぽどいい。

 ダメだ。まだ死ねない。


 このまま旅を諦めないでいられるか。人間の尊厳を失ってもいられるか。足はその為だけの道具である。


「生を辞めるな! あと2日歩けば国に着くはずだ!」


 地図を見て、先頭の男が大声で伝えた。彼の喉も辛いのに。まだまだ幸せな夢に逃げるのは後になりそうだ。

 続けて鼓舞される。


「1ヶ月よく歩いた!」


 最初に40人以上いた列は、10人を切っていた。

 僕らできっと、辿り着く。たどり……、つ。


 自分の体は砂の上に落ちていた。肌が()かれて気づいた。炎の様な地面を這って、なんとか起き上がる。


 それでも、すぐに倒れてしまった。ここから先に行かないと本能が理解した。

 なんとか最後の力を振り絞って声を出す。


「この無念を託した」


 先頭の男が片腕を上げた。

 心だけは前に進み続けているのに。希望だけは見えて来始めた。……それなのに身体が無視をする。


 夜が来るまで意識が残っていた。野犬などもいなかった。この旅で初めてしっかりと星空をみた。

 自分の最終地点はあそこだ。


 それは弱音かも知れない。


 だとしても絶対に意思を込めてあいつらを見送った。これ以上、喉は動かない。

 流れない涙を代弁するかの様に、流れ星が流れた。

読んでくれてありがとうございます。


人生で初めて追放物書いてみました!!!

不遇な扱いを異世界で受けてもなお、立ち上がり続けるキャラばっかりの作品の主人公はメンタリティが強すぎますっ!

かくいう今作のキャラもよくやってる方ですね。

本来の異世界ってこんぐらい過酷じゃない?

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― 新着の感想 ―
読ませていただきました! 読み切りだからこそできる、斬新なテーマですね。 灼熱の砂漠を歩き続け、次々に学友が斃れていく極限状況の描写・心情の揺れが丁寧に描かれています。 「希望」と「絶望」が交錯する…
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