01.
中編予定です。
どうぞよろしくお願いいたします!
(※のんびり更新になりますが、お付き合いいただけると嬉しいです)
麗らかな陽光が差し込み、大神殿の広い回廊に男女二人の影を作る。
影は重ならない。一定の距離を保ったまま。
不意に、あたりに春らしからぬ一陣の冷たい風が吹いて、木の上にいた白い鳩達が驚いたようにいっせいに飛び立った。
ブルリと肩を震わせながら、ヘルカ・ヴィットフェルは縋る思いで美貌の男を見上げる。
しかし――。
「俺はきみを愛していない」
受け止めるどころか、むしろ突き放すように低く、抑揚のない声でそう返してきたのは、婚約者のオリヴェル・グレンだった。
いつもは優しい王子然とした、彼の冷たい表情を見るのは、これが初めてだ。
柔らかそうな黒髪に、珍しいコンクパールにも似た桃色の目。引き締まった体を包む黒い軍服。
グレン侯爵家の息子で近衛騎士でもある彼は、整った顔立ちゆえに本物の王子様のように見える。
事実、ほんの少し前までは、自分だけの王子様だったのに。
歳の差は五歳。まだ学生で十八歳のヘルカは、彼からすればまだまだ子供かもしれない。
政略結婚と言われれば、それまでだ。
けれど十年以上、婚約関係にあり、二カ月後の学園卒業を待って式を挙げる予定にもなっていた。
仮に百歩譲って、ヘルカとオリヴェルの間に愛だの恋だのといった、浮ついた感情がなかったとしても、婚約者として互いに信頼関係を築いてきたはずなのに――。
(目の前の、この人形のような男は誰?)
今やすっかり光と温度を失った目で見下ろされ、ヘルカは驚きと絶望にヒクリと喉を引き攣らせた。