第6章:獣人国のお襲撃ですわ〜
ガーランド領は、大陸一の楽園として輝きを増していた。かつてフェニックスの不毛の土地と恐れられた荒れ地は、アリス=ガーランド――有栖川蘭子の統治と慈愛の炎の力で、繁栄の頂点を極めていた。市場は遠方の商人で賑わい、石造りの学舎や防衛塔が立ち並ぶ。村人たちは不老の若々しさで活気にあふれ、アリス自身も20歳の黒髪ロングの美貌で、炎をまとった白いドレスは女王の威厳を放つ。「無双の麗人」の名は、大陸中に轟いていた。
だが、平和な日々には新たな波乱が忍び寄っていた。エデン王国の第二王子ルカ・エデンシアが、なぜかガーランド領に頻繁に訪れるようになったのだ。最初は「側室の誤解」を詫びるためだったが、最近は「交易の相談」や「舞踏会の助言」と称して、キザな笑みと共に現れる。村人たちは「またあのキザ男か!」と呆れつつ、ルカの風の精霊シルフが子供たちに風の玩具を作ってやる姿に、徐々に心を許し始めていた。
領主館の大広間で、アリスはルカと向き合っていた。ルカは扇子を振ってキザに微笑む。
「アリス様、ガーランド領の市場、素晴らしい繁栄! エデン王国も見習いたいものです。ふふ、舞踏会の計画はいかがですか? 私のワルツなら、あなたを一層輝かせますよ!」
アリスは優雅に微笑みつつ、内心で警戒する。
「ふふ、ルカ殿下、頻繁なご訪問、社交界の花を目指すわたくしには光栄ですわ。ですが、舞踏会はわたくしの拳と気品で完璧に! ごめんあそばせ! おーっほっほ!」
心の中で、フェニックスがぼやく。
「やれやれ、アリス、ルカのやつ、なんか企んでるぜ。キザな笑みの裏に、絶対なんかある」
「ふふ、フェニックス、貴方は心配性ですわ。ルカ殿下の企みも、マダムの社交術で華麗に解決します!」
だが、その夜、ルカの顔が一変した。領主館に急ぎ駆け込み、珍しく真剣な表情で告げた。
「アリス様、緊急事態です! エデン王国の貴族たちが、ガーランド領をカナン王国との戦争に巻き込もうとしています!」
アリスは目を丸くし、ドレスを翻して立ち上がった。
「カナン王国? 戦争? なんですの、その無礼な策略! 詳しくお話しなさい!」
---
ルカの説明によると、エデン王国の貴族たちはガーランド領のフェニックスとアリスの力を欲し、カナン王国――獣人中心の国で、水の精霊ウンディーネと契約した狼の獣人ヴィネ女王が統治する――との対立を煽っていた。カナン王国は水源と交易路を巡りエデン王国と緊張状態にあり、ガーランド領の繁栄が両国の欲を刺激したのだ。貴族たちは、ガーランド領をエデンの傀儡とし、カナンとの戦争で利用する策略を立てていた。
シルフが冷ややかに補足した。
「ふん、貴族どもの欲は底なしだ。カナン王国のヴィネ女王も甘くない。ウンディーネの力は、私の風にも劣らない。アリス、巻き込まれたくなければ、エデンと共闘するしかないよ」
村人たちが集まった広場で、ルカはアリスに頭を下げた。
「アリス様、私の非礼を水(見ず)に流し、エデン王国と共闘してほしい! カナン王国の尖兵がすでにガーランド領に迫っている!」
リナが拳を握り、叫んだ。
「アリス様を戦争に巻き込むなんて許せない! でも、ガーランド領を守るなら、私たちも戦います!」
トムも槍を手に、うなずく。
「アリス様、ルカ殿下が本気なら、俺も信じるぜ。けど、カナン王国ってどんなやつらだ?」
アリスは一瞬、葛藤した。ガーランド領は独立の地。戦争に巻き込まれれば、楽園の夢が傷つく。だが、村人たちの決意とルカの真剣な目に、彼女は高笑いした。
「ふふ、ガーランド領はマダムの拳で守りますわ! ルカ殿下、シルフ殿、共闘しましょう! カナン王国の尖兵、わたくしが成敗します! おーっほっほ!」
フェニックスが心の中で笑う。
「アリス、戦争だぞ? マダムらしい解決、期待してるぜ」
---
数日後、ガーランド領の外れに黒い影が迫った。カナン王国の尖兵――リザードマンの軍勢だ。鱗に覆われた巨体、鋭い爪と尾、濡れた槍を握る彼らは、水の精霊ウンディーネの加護でしなやかな動きを見せる。リーダーのリザードマン、ガルザが濁った声で叫んだ。
「ガーランド領よ! エデンの犬となり、カナンに刃を向けるか! ヴィネ女王の名の下、貴様らを水底に沈める!」
アリスは広場に立ち、慈愛の炎をまとった。ルカが隣に立ち、剣と扇子を構える。シルフが空に浮かび、風をまとって準備。村人たちは防衛塔やバリケードで武装し、子供たちは学舎に避難した。
「ふふ、ガルザ殿、ガーランド領は誰の犬にもなりませんわ! 無礼な軍勢、マダムの拳で成敗します! おーっほっほ!」
ルカがキザに微笑み、剣を振る。
「アリス様、私の剣があなたを守る! エデンの王子として、負けるわけにはいかない!」
戦闘が始まった。リザードマン軍勢は水の魔術で地面を濡らし、滑る沼地を作り出す。ガルザが尾を振り、アリスに突進。彼女は合気道の技で尾を掴み、ガルザを地面に叩きつける。バキッ! 鱗が砕け、ガルザが「グオオ!」と咆哮。だが、ウンディーネの加護で即座に立ち上がり、水の槍を連射。アリスは炎で槍を蒸発させるが、リザードマンの数が多く、包囲される。
シルフが空から竜巻を召喚し、リザードマンを巻き上げ、冷ややかに解説した。
「アリス、ウンディーネの力、知ってる? あいつは直接戦うタイプじゃない。契約者の配下に水の加護を授け、動きを速く、力を強くする。リザードマンがこんなしぶといのは、ウンディーネのせいだよ。ヴィネ女王の本軍が来たら、もっと厄介になる」
アリスはシルフの言葉に頷き、炎を強めた。
「ふふ、シルフ殿、情報ありがとうですわ! ウンディーネの加護、わたくしの炎で焼き尽くします!」
ルカが風の魔術を放ち、リザードマンを吹き飛ばす。彼の剣技は優雅かつ正確で、数体のリザードマンを斬り倒す。バルトが叫ぶ。
「ルカ様、かっこいいぜ! このトカゲども、俺もぶっ潰す!」
レオンが水の魔術に対抗し、雷の光球を放つ。
「ふん、ウンディーネの力、俺の魔術で打ち砕く!」
シルフの風はウンディーネの水とぶつかり、広場は霧に包まれる。シルフが冷たく笑う。
「アリス、面白い女だ。だが、この霧、突破できるかな?」
アリスは霧の中、慈愛の炎を放出して霧を晴らすが、ガルザが水の巨大な波を召喚。アリスとルカを押し流そうとする。アリスは炎の壁で防ぐが、波の勢いに押され、バリケードに背中をぶつける。
「ふむ、ウンディーネの加護、侮れませんわ!」
ルカがアリスを庇い、風の刃で波を切り裂く。
「アリス様、私の愛はこんな波にも負けない! 共に戦おう!」
村人たちも奮起。トムが槍でリザードマンを突き、リナが鍬で敵を叩く。慈愛の炎で強化された彼らは、死なない体で果敢に戦う。子供たちが学舎から叫ぶ。
「アリス様、ルカ様、頑張って!」「トカゲなんてやっつけちゃえ!」
アリスは村人たちの声に力を得て、立ち上がった。ガルザが再び突進し、水の槍を乱射。リザードマンたちが波を操り、アリスを包囲。彼女は炎で防ぐが、数体の槍がドレスの裾を裂く。ルカが風の剣で援護し、バルトとレオンがリザードマンを牽制。だが、ガルザの尾がルカを吹き飛ばし、彼は地面に倒れる。
「ルカ殿下! ふむ、敵ながら見事ですわ!」
シルフが竜巻でガルザを攻撃し、叫ぶ。
「アリス、今だ! ウンディーネの加護は強いが、炎で焼き尽くせば奴らの力は弱る!」
アリスは目を閉じ、慈愛の炎を最大限に引き出した。魔力9999が広場を包み、彼女の体から放たれる炎は太陽のように輝く。地面が焦げ、広場の石畳が溶け出し、空気が熱で揺らぐ。リザードマンたちが「グオッ! 熱い!」と後退し、ガルザが恐怖で目を剥く。
「な、なんだ、この炎!? ウンディーネの加護が……溶ける!?」
村人たちが歓声を上げる。リナが叫ぶ。
「アリス様、すごい! これが大陸一の領主の力だ!」
トムが槍を振り、感嘆する。
「アリス様の炎、まるで神の光だ! トカゲども、逃げろ!」
子供たちが学舎の窓から叫ぶ。
「アリス様、めっちゃ強い!」「カッコいいよ、最高!」
ルカが立ち上がり、扇子を握り締め、呟く。
「アリス様……この力、まさに無双の麗人……私の剣など、及ばない……」
アリスは炎をまとったまま、ガルザに突進。彼女の拳が空気を焼き、空間を歪ませる。ズドン! 一撃がガルザの鱗を粉々に砕き、彼の巨体が広場の中央に沈む。衝撃波でリザードマンたちが吹き飛び、地面に焦げたクレーターが残る。ガルザは「ガアア!」と絶叫し、動かなくなる。リザードマン軍勢は戦意を失い、森へと逃げ出した。
アリスはドレスの埃を払い、高笑いした。
「おーっほっほ! ガーランド領は、マダムの炎で守りますわ! カナン王国、ヴィネ女王、覚悟なさい! ごめんあそばせ!」
ルカが剣を収め、扇子を振る。
「ふふ、アリス様、あなたの炎は私の心も燃やした! この共闘、最高だったよ!」
シルフがアリスに近づき、珍しく微笑む。
「アリス、気に入ったよ。ウンディーネとヴィネ女王が来る時、また共闘したいね」
フェニックスが心の中で笑う。
「やれやれ、アリス、戦争の序章でこの派手さか。ヴィネ女王が来たら、どうなるんだ?」
---
リザードマンの撃退後、ガーランド領は一時的な平和を取り戻した。だが、カナン王国の本軍――ヴィネ女王とウンディーネの脅威が迫っていることは明らかだった。アリスは領主館で、ルカ、シルフ、村人たちと今後の戦略を話し合った。
長老が真剣に言った。
「アリス様、ルカ殿下、ガーランド領は戦争に巻き込まれましたが、皆、あなた方を信じています。カナン王国に立ち向かうなら、私も老骨に鞭を打って戦います」
リナが目を輝かせ、宣言した。
「アリス様、ルカ様、大陸一の領地はどんな戦争も乗り越える! 私たち、絶対負けない!」
ルカが扇子を閉じ、真剣に言った。
「アリス様、ガーランド領の力、村人たちの絆、私の目を開かせてくれた。エデン王国として、必ずあなたを守るよ」
アリスは村人たちの信頼とルカの成長に胸を熱くし、高笑いした。
「ふふ、皆様の心意気、マダムとして誇りに思いますわ! ガーランド領は、わたくしの拳とエデンの風で、どんな戦争も勝ち抜きます! カナン王国、覚悟なさい! おーっほっほ!」
だが、遠くカナン王国では、狼の獣人ヴィネ女王が水の精霊ウンディーネと共に、ガーランド領を睨んでいた。戦争の序章は終わり、本当の戦いが始まろうとしていた。
(第7章へ続く)