第5章:風の精霊と王子が来ましてよ〜
ガーランド領は、まるで絵画のような繁栄を誇っていた。かつてフェニックスの不毛の土地と恐れられ、どの国も手を出さなかった荒れ地は、アリス=ガーランド――有栖川蘭子の統治と慈愛の炎の力で、大陸一の楽園へと変貌していた。石畳の道に並ぶ市場は商人で賑わい、子供たちの学舎からは朗らかな歌声が響く。村人たちは不老の若々しさを取り戻し、アリス自身も20歳の黒髪ロングの美貌で、炎をまとった白いドレスは女王の風格を放つ。「無双の麗人」の名は、大陸中に響き渡っていた。
領主館の大広間――舞踏会開催を夢見て、シャンデリアと絨毯で飾られた部屋――で、アリスは村人たちと会議を開いていた。交易路の拡張、防衛塔の建設、舞踏会の準備。彼女の目は、領主としての責任と社交界への憧れで輝いている。
「ふふ、ガーランド領は大陸一の領地へ向けて突き進みますわ! 舞踏会では、わたくしが一番美しいドレスでワルツを踊り、貴族たちを魅了します! おーっほっほ!」
心の中で、フェニックスがすれた口調でぼやく。
「やれやれ、アリス、舞踏会にそんな気合い入れるなら、領地の防衛にも力入れろよ。なんか最近、妙な噂が流れてるぜ」
「ふふ、フェニックス、貴方は心配性すぎますわ! ガーランド領はマダムの拳で守られていますもの! ごめんあそばせ!」
その時、広場の外からトランペットの音が響いた。村人たちがざわつき、猟師のトムが領主館に駆け込んできた。
「アリス様、大変です! エデン王国の旗を持った一団が! 金ピカの馬車に、めっちゃキザそうな男が乗ってます!」
アリスは目をぱちくりさせ、すぐに立ち上がった。
「ふむ、エデン王国ですって? ふふ、マダムとして、最高の歓迎を用意しなければ! さあ、広場へ参りますわ!」
フェニックスが心の中で笑う。
「アリス、そいつ、ただの貴族じゃねえな。なんか企んでるぜ、間違いねえ」
「ふふ、フェニックス、どんな企みも、マダムの社交術と拳で華麗に解決しますわ! おーっほっほ!」
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広場は、村人たちでごった返していた。中央には、金と銀で装飾された豪華な馬車が停まり、その前に立つのはエデン王国の第二王子、ルカ・エデンシア。金髪をなびかせ、青いマントを翻す彼は、まるで絵本の王子様のような優男だ。だが、その微笑みには計算高さが漂う。ルカの背後には、軽やかな風をまとう女性――風の精霊シルフが浮かんでいる。シルフは透き通った緑の髪と鋭い目を持ち、涼やかな声でルカに囁く。
「ルカ様、この女が『無双の麗人』ですか? 確かに美しいですが、ただの田舎領主に見えますね」
ルカは扇子を広げ、キザな笑みを浮かべた。
「ふふ、シルフよ、彼女こそ大陸に並ぶことのない美貌の持ち主、アリス=ガーランド。私の側室にふさわしい女性だ。今日、彼女をエデン王国に連れ帰るよ」
ルカの従者――赤い鎧の騎士団長バルトと、青いローブの魔術師レオンが馬車から降り立つ。バルトが豪快に笑う。
「ルカ様、こんな田舎女、簡単に落ちますぜ! エデンの栄光を見せつければいい!」
レオンが冷たく言い放つ。
「ふん、フェニックスの力さえ手に入れば、この領地など不要。さっさと片付けましょう」
村人たちが「なんだあのキザ男!」「アリス様の方が100倍ステキ!」とブーイングする中、アリスが広場に現れた。慈愛の炎をまとったドレスが輝き、黒髪が風になびく。子供たちが目を輝かせ、囁き合う。
「アリス様、今日もキレイ!」「あの王子、敵わないよ!」
アリスは優雅に微笑み、ルカに歩み寄った。
「ごきげんよう、ルカ殿下。わたくし、アリス=ガーランド、ガーランド領の領主ですわ。ようこそ、わたくしの楽園へ! おーっほっほ!」
ルカは扇子で口元を隠し、芝居がかった口調で答えた。
「オーッ、なんという美しさ! アリス様、あなたこそ『無双の麗人』、大陸に並ぶことのない花! 私の心はすでにあなたの虜です!」
アリスは一瞬、困惑したが、すぐに高笑いした。
「ふふ、ルカ殿下、お褒めの言葉、ありがたく頂戴しますわ! ですが、わたくしはガーランド領の領主。高貴なマダムとして、社交界の花を目指す者ですの。ごめんあそばせ!」
ルカは微笑みを崩さず、扇子を振った。
「ふふ、アリス様、その気高さがまた魅力的! 実は、私はあなたをエデン王国の側室として迎えに参りました。私の妃となり、エデンの栄光を共に築きませんか?」
広場が静まり返った。リナが怒りを込めて叫んだ。
「アリス様を側室だなんて、失礼にもほどがある! ガーランド領はアリス様のものよ!」
トムも槍を握り、睨みつける。
「エデン王国だろうがなんだろうが、アリス様を渡すもんか!」
シルフが冷ややかに笑った。
「ふん、田舎者どもが王子に逆らうとは。ルカ様、この領地、力ずくで奪えばいいのでは?」
アリスは手を上げ、村人たちを制した。慈愛の炎がドレスを包み、戦女神のような威厳が漂う。彼女はルカを真っ直ぐ見据え、静かに言った。
「ルカ殿下、わたくしを側室だなんて、なんとも野蛮なご提案ですわ。ガーランド領はどの国にも属さぬ独立の地。そして、わたくしはマダムとして、誰のものにもなりません! ごめんあそばせ!」
ルカは目を細め、扇子を閉じた。
「ふむ、拒むのですか? ならば、私の力を見せて差し上げましょう! シルフ、バルト、レオン、アリス様にエデンの力を教えなさい!」
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シルフが手を振ると、広場に猛烈な突風が巻き起こった。砂埃が舞い、市場の屋台が倒れ、村人たちが悲鳴を上げる。シルフの緑の髪が風に揺れ、彼女の目は冷たく光る。
「人間の女、風の精霊の力を思い知れ!」
シルフが指を鳴らすと、風が鋭い刃となり、アリスに襲いかかる。慈愛の炎が風の刃を弾くが、その速度と数が尋常ではない。アリスは一瞬、足を止め、ドレスの裾が切り裂かれる。村人たちが「アリス様!」と叫ぶ中、フェニックスが心の中で叫んだ。
「アリス、そいつの風、速え! だが、俺の炎なら焼き尽くせる! 集中しろ!」
アリスは微笑み、炎を一層強く燃やした。だが、ルカが動いた。彼は剣を抜き、風の魔術をまとわせた刃でアリスに斬りかかる。ルカの剣技は王子らしい優雅さを持ち、風の加護で驚異的な速さを誇る。アリスは有栖川流合気道でかわすが、ルカの連続攻撃に押され、広場の地面に足跡を残しながら後退した。
「オーッ、アリス様、素晴らしい動き! だが、私の剣はエデンの誇り! 降伏すれば、側室として優しく扱うよ!」
ルカのキザな笑みに、バルトが豪快に笑う。
「ルカ様、最高っす! この女、すぐにひれ伏しますぜ!」
レオンが魔術を放ち、風と雷の混ざった光球がアリスを襲う。
「ふん、フェニックスの力も、この程度か。ルカ様、さっさと終わらせましょう!」
アリスは光球を炎で弾き返し、内心で舌打ちした。ふむ、ルカ殿下、ただのキザ男ではありませんわね。シルフの風も厄介……。ですが、マダムを侮ったのが間違いですわ!
シルフが空に舞い上がり、巨大な竜巻を広場に召喚した。竜巻は木々をなぎ倒し、村人たちが学舎に避難する。子供たちが叫ぶ。
「アリス様、頑張って!」「あの竜巻、怖いよ!」
アリスは竜巻の中心に飛び込み、慈愛の炎を爆発的に放出。炎が竜巻を焼き、風を散らすが、シルフの次の攻撃――無数の風の槍が雨のように降り注ぐ。アリスは槍をかわしつつ、シルフに迫るが、ルカが再び割り込んだ。彼の剣が風をまとい、アリスの肩をかすめる。ドレスに小さな裂け目ができ、アリスは一瞬、膝をついた。
「くっ……ルカ殿下、なかなかやりますわね!」
ルカは扇子を広げ、余裕の笑み。
「ふふ、アリス様、私の愛は剣よりも鋭い! さあ、側室として私の腕に!」
バルトが拳を振り上げる。
「ルカ様、かっこいい! この女、もう終わりだ!」
だが、アリスは立ち上がり、慈愛の炎を最大限に燃やした。彼女の魔力9999が広場を包み、炎が太陽のように輝く。フェニックスが心の中で叫ぶ。
「アリス、今だ! そいつらの風、全部焼き尽くせ!」
アリスは疾風のように動いた。まず、バルトに突進し、合気道の投げ技で地面に叩きつける。バキッ! バルトが「グハッ!」と悲鳴を上げ、気絶。レオンが雷の魔術を放つが、アリスは炎の壁で防ぎ、彼を拳で吹き飛ばす。レオンが「うわっ!」と叫び、馬車に激突して倒れる。
シルフが風の刃を連射するが、アリスは炎を盾に跳び上がり、シルフの腕を掴んで地面に押さえつけた。シルフが「くっ、離せ!」と叫ぶが、アリスの力には抗えない。
「ふふ、シルフ殿、風も素敵ですけれど、マダムの炎には敵いませんわ!」
最後に、ルカが剣を振り上げるが、アリスは一瞬で彼の腕をひねり、地面に叩きつけた。バキッ! ルカが「グオッ!」と悲鳴を上げ、扇子が地面に落ちる。慈愛の炎で死なないが、痛みはガッツリ。ルカは這うように起き上がり、震える声で言った。
「くっ、アリス様、私の勘違いでした! 『無双の麗人』は美貌だけでなく、力も無双だった……。側室の話は取り消します!」
村人たちが歓声を上げ、子供たちが駆け寄る。
「アリス様、めっちゃ強い! 王子なんか敵じゃない!」「カッコいいよ、アリス様!」「最高の領主だ!」
アリスはドレスの裂け目を整え、優雅に微笑んだ。
「ふふ、よろしくてよ。マダムとして、寛大な心で許しますわ。ただし、二度とガーランド領に無礼な提案をしないこと! ごめんあそばせ! おーっほっほ!」
シルフが渋々立ち上がり、ルカに囁く。
「ルカ様、この女、ただ者じゃないです。私、嫌いじゃないかも……」
フェニックスが心の中で笑った。
「ハッ、シルフのやつ、案外見る目あんな。アリス、お前、精霊まで惚れさせてどうすんだ?」
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ルカとシルフは豪華な馬車で去り、ガーランド領は再び平和を取り戻した。だが、ルカの訪問はエデン王国の思惑を露わにしていた。ガーランド領の力とフェニックスの存在は、大国にとって無視できない脅威だった。アリスは領主館で、村人たちと今後の防衛策を話し合った。
長老が真剣な顔で言った。
「アリス様、エデン王国が本気で動き出せば、ガーランド領も安泰とはいきません。ですが、皆、アリス様を信じています」
リナが拳を握り、目を輝かせた。
「アリス様、大陸一の領地を目指すなら、どんな大国も怖くない! 私たち、もっと強く大きくなります!」
アリスは村人たちの信頼に胸を熱くし、高笑いした。
「ふふ、皆様の心意気、マダムとして誇りに思いますわ! ガーランド領は、わたくしの拳と気品で、どんな敵からも守ります! おーっほっほ!」
その夜、アリスは領主館のバルコニーで星空を見上げ、フェニックスと語り合った。
「フェニックス、ルカ殿下の勘違い、笑いものですわ。『無双の麗人』を美貌だけだなんて、マダムの拳を知らないにもほどがあります!」
フェニックスは少し真剣な口調で答えた。
「ふん、アリス、ルカのやつはまだマシな方だぜ。エデン王国の王族には、もっとヤバいのがゴロゴロいる。この大陸、昔から力と欲で動いてきた。俺も昔、似たようなキザ男と契約して、散々振り回されたもんだ」
アリスは目を輝かせ、フェニックスの過去に興味津々。
「まあ! フェニックス、貴方の昔の契約者、キザな王子だったんですの? どんな方でしたの? ワルツは上手? それとも、ルカ殿下よりキザでした?」
「ハッ、そいつはワルツどころか、戦場で扇子振り回すバカだったよ。だが、信念はあった。アリス、お前の信念――舞踏会だの楽園だの――そいつの夢に似てる。だから、俺はお前を信じてるぜ」
アリスはフェニックスの言葉に胸を熱くし、星空に誓った。
「ふふ、フェニックス、貴方の信頼、マダムとしてしっかり受け止めましたわ! ガーランド領は、どんな大国も凌駕する楽園にします! 舞踏会も、拳も、両方叶えますわ! おーっほっほ!」
だが、エデン王国では、ルカの敗北を聞きつけた王族たちが新たな策略を練り始めていた。アリスのマダムライフは、さらなる波乱を予感させていた。
(第6章へ続く)