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奏空の愛

フローライト第六十話

いくら奏空でも、顔を見ただけでわかる?


咲良は一人部屋で考えた。


── 気持ちを強く持ってて・・・忘れちゃった?


でもわかったってどうってことない。最初から奏空と結婚なんて無理なのだ。それくらい予知能力がなくたってわかる。


階下での話し合いは長引いているようだった。気になっても出て行くわけにも行かない。咲良は最初から部外者なのだと思う。


二時間以上は事務所関係の人がいただろうか・・・?夜中の十二時近くにようやく奏空が二階に上がって来た。


「咲良、お待たせ。だいぶ遅くなっちゃったね」と笑顔で奏空は言った後、「俺の部屋に来て」と言う。


奏空の部屋に入りベッドの上に座ると、隣に座ってきた奏空が両手で咲良の頬を挟んでから言った。


「どうやら利成さん、反則技使ったらしいね」


「何にもないよ、利成とは」


「そう?これは俺もちょっとムカッときたよ」


「だから何も・・・」


「咲良?咲良はね、強くて可愛くて素敵な女性なんだよ?身を引くみたいな考えは捨ててね」


奏空が咲良の頬から手を離す。


「・・・・・・」


「まずね、咲良はここから引っ越します」


「え?」


「でも田舎には帰りません。どこかに部屋借りるからそこに実質は俺と暮らすから」


「えっ?!」と今度はもっと驚いた。


「表向きは利成さんの女ってことでそこに住むけど、実際は俺の彼女だからそこは忘れないようにね」


「どういうこと?」


「利成さんのアイデアも取り入れて考えたんだよ。結婚は絶対ダメで彼女いる宣言もダメだっていうからさ・・・メンバーのみんなにかなり言われて・・・俺も考えたわけ」


「・・・・・・」


「マスコミにはそういうことにするからね、少しほとぼり冷めたら咲良のところに行くから一緒に暮らそうね」


「でも・・・」


「咲良は今までどおり好きなことして。モデルやってもいいし、何か仕事してもいいし、だけど家賃や何かは俺が出すから」


「でもそんなのバレちゃうよ」


「大丈夫、利成さんが記者の人に頼んでうまくやるってさ」


「・・・・・・」


「これ、俺の勝利かな」


「どうして?」


「ちょっと危なかったけど、咲良は利成さんのところに行かなかったし、アイドルもそのまま続けることになったから」


「・・・・・・」


「あーでも!まさか強行突破で反則技で来るとは・・・そこのところ考えると引き分け?」


「ちょっと、二人の勝負に私をいいように使ってない?」


「ハハ・・・そんなことないよ。あ!でも!」と奏空が急に大きな声を出した。


「何よ?」


「アハハ・・・」とそれから急に笑い出す奏空に咲良はもう一度「何よ?」と言った。


「忘れてたけど、今回の反則技で利成さん、明希に色々言い訳しなきゃいけなくなったかもね」


「えっ?さっきのバレたの?」と言ってから慌てて咲良は口を押さえた。奏空がじっと見つめてくる。


「ごめん」と咲良は謝った。


「・・・ま、いいよ」と奏空が真顔で言う。


「最後まではしてないからね」


「そうだね」


「・・・もう田舎に帰ろうと思ってたから・・・」


「うん、それで投げやりになったんだよね?」


「うん・・・」


「咲良は悪くないよ」と優しい目で見つめてくる奏空。


「・・・私なんかでいいの?もう誕生日来たら二十六だよ?」


「あっ!誕生日だね」と笑顔になった奏空に「何が欲しい?」と聞かれる。


「何もいらないよ」


「んー・・・何か考えよう」


「それより、奏空はまだ十代なんだよ?私は先にどんどん年取っちゃう」


「何か問題あるの?」


「あるよ。こんな年増女が嫌になるって」


「また自分の悪口?それはとにかくやめて。俺が息苦しくなるんだよ」


「・・・・・・」


「咲良は女性だから歳を気にしちゃうのはある程度仕方ないけど、どうしようもできないこと気にしてもね。それに俺は年なんかまったく関係ないと思ってるし、事実関係ないからね。咲良は年下やだって最初言ってたけど今も?」


「今は違うけど・・・」


「そう?じゃあ、いいじゃない」と奏空が嬉しそうな顔をした。


(ああ、何か・・・)


「奏空」


「ん?」


「何か、奏空がすごく好きかも・・・」


そう言ったら奏空が笑顔になってから「うん。そうでしょ?」と口づけてきた。


(ほんとに奏空みたいな子は初めて・・・)


「俺も咲良が大好きだよ」とそのままベッドに押し倒された。


ああ、もしかして・・・女優は失敗したけど、彼氏は最高の人に出会ったんじゃない?


 


三週間後、咲良はマンションの最上階に引っ越しをした。マスコミには結局咲良は利成の愛人のように書かれた。その噂はわざと流したものだ。


「咲良さんがいなくなったらちょっと寂しいな」と出て行く時に明希が言った。


利成は明希に何と自分のことを言ったのだろう?それはわからなかったけれど、明希は本当に寂しそうな表情をした。


「明希さんもこっちに時々来て下さい」と咲良は言った。本心だった。


「うん、ありがとう。咲良さんもこっちにまた遊びに来てね」と明希が笑顔で言った。


引っ越しは利成が手伝ってくれた。新しいマンションも利成が探してくれたらしい。


「ほんとにいいのかな?こんな立派なところ」と咲良は新しいマンションの部屋の中を見た。新築ではなかったが、今まで自分が済んでいたアパートとは比べ物にならないほど綺麗だったし、4LDKでリビングも広かった。


「奏空が出すんだからいいんじゃない?」と利成が荷物を置きながら言った。


「でも最初は私一人で住むんでしょ?広すぎるなぁ・・・」とちょっと不安になる。


「咲良って何?怖がり?」


「まあ、ちょっと」


「そう。そんな風に見えなかったよ」と利成が笑った。そして「俺が来てあげようか?」と笑顔のまま言った。


「それはダメ」と咲良が言うと「まあ、奏空にわからないように来るよ」と本気なのか冗談なのか、相変わらず利成の表情からは判断ができない。


「明希さんには何て言い訳したの?」


「咲良が女優業で悩んでて、色々相談に乗ってあげてたって言っといたよ」


「そんなんで納得したの?」


「とりあえずはね。それに明希は咲良が気に入ってるみたいだから、それ以上は追及してこなかったよ」


「えっ?ほんとに?」


「うん、ほんと」と利成が笑顔になってから言った。


「明希のこと奏空が”バカだ”って言った時、謝れって言ったでしょ?覚えてる?」


「ああ、うん」


「その時すごく嬉しかったみたいだよ。なんせ奏空は二歳くらいの時から明希のこと呼び捨てにし始めて、以来ずっと上から目線だからね」


「えっ?二歳?ほんとに?」


「ほんと」と利成がまた笑顔になる。


(それはちょっとだな・・・)と思う。


「さてと、何か足りないものは?買い物にでも行く?」


「足りないもの・・・とりあえずいいよ。利成となんて買いものに行ったら目立ってしょうがない」


「そう?じゃあ、セックスでもする?」


(は?)と利成の顔を見ると「冗談だよ」と真顔で言われる。


(もう、利成が言うと冗談に聞こえない・・・)


「反則だってかなり奏空に言われたからね。しばらくは大人しくしとくよ」と今度は笑顔で言う利成。


(何だろう・・・この親子・・・)


大丈夫かなと一抹の不安が・・・。


 


引っ越した日の夜、早速奏空が来た。


「ちょっと、しばらくは来ないんじゃなかったの?」と玄関で言うと「そんなの無理だよ」と奏空が靴を脱いでさっさと入って来る。


「何だ、何にもないじゃない」


「そうだよ、自分の持ってたものしかないもの」


「買い物行かなかったの?」


「利成が行こうって言ったけど断ったよ。目立つの嫌だから」


「そうなの?じゃあ、俺と行こう」と奏空がキッチンの中を見ている。


「奏空となんて余計目立つでしょ?やだよ」


「えー買い物くらい大丈夫でしょ?」


「奏空?その買い物で今回写真撮られたんだよ」


「まあ、そうだけどさ。その時はその時だよ」とキッチンから出て来る。


「他の部屋は?」


「何もないよ。大体広すぎて・・・」


「そう?布団は?」


「そこにある」と咲良はリビングの端っこを指さした。


「えー何?リビングで寝るの?」


「だって・・・」


「まさか咲良って怖がり?」


(親子して同じことを・・・)


「怖がりだよ。悪い?」


「悪くないよ。じゃあ、今日は俺が泊ってあげるね」


「だからーそれがヤバいんでしょ?」


「大丈夫だって。あ、お風呂どんな感じ?」と奏空が浴室に行って戻って来てから言う。


「お風呂は普通だね」


「そうだね、普通じゃないお風呂って何よ?」


「何か仕掛けがあるとか?ライトがくるくる回るとか?」


「そんなお風呂ないから」と咲良が言うと奏空が笑った。


その夜は結局リビングに布団を敷いて二人で一つの布団に入った。


「咲良?」と奏空が横になると言った。


「何?」


「ありがとう。一緒にいてくれて」と奏空が優しい笑顔で言った。


「・・・こっちこそだよ」


「ん・・・もう明日から俺もここに引っ越そうかな・・・」


「何言ってるの?ほとぼり冷めるまでは少し離れてるって言ってなかった?」


「もう冷めたよ。ほとぼりなんて。人ってそんなに長い時間、他人に興味を持ってなんかいられないんだよ」


「メンバーの人は?何て言ってるの?」


「結婚なんてバカだって言われたよ」


「そう。ま、そうだね」


「なんでそうなんだよ?」


「十代で結婚なんて普通バカでしょ?おまけにアイドルやってる奏空が、やり始めたばかりでそんなバカげたことするって言ったらそう言われちゃうよ」


「んー・・・どうやら”アイドル”って言うのは強烈な固定概念の塊みたいだね。あと”結婚”もそうだね」


「そんなの知っててなったんでしょ?」


「そうだね。確かに。でも俺が形になるんだよ。アイドルの形に俺がなるわけじゃない」


(またわけわからないことを・・・)


「・・・何でアイドルになんてなったのよ?利成みたいに一人でやればもう少し自由だよ」


「んー俺は光だから、光を表現しないとね。利成さんは俺とは逆だからあれでいいけど」


「よくわからないけど?」


「そう?咲良も光なんだよ?俺と一緒」


「私は光なんかじゃないよ。どっちかっていうと闇でしょ?」


「違うよ。咲良は光の方。闇は利成さんだよ」


「まあ、どっちにしても意味がわからないからいいや」


咲良は布団を被った。


「明日はどうするの?」と奏空が言う。


「明日は仕事行って・・・」


「カフェの仕事?」


「うん・・・」


「そう。俺は新しい曲の練習だよ」


「もう新しい曲?」


「ん・・・今度は利成さんの作詞作曲だよ」


「へぇ・・・どんな曲?」


「まだわかんない」


「そうなんだ・・・」


「咲良、大好きだよ」


「・・・・・・」


咲良は何も言わず奏空の顔を見つめた。


「何とか言ってよ」と奏空が髪を撫でてきた。


「だって・・・何か幸せかも・・・」


「ハハ・・・俺も幸せだよ。でも人ってね、元々幸せなんだよ?どんな人も」


「・・・奏空って不思議だね。奏空が言うとほんとにそんな気がしてくるよ」


「うん、ほんとだからね。咲良はもっともっとハッピーになれるよ」


「・・・うん・・・私も奏空が大好きだよ」


「うん、そうでしょ?」と奏空が笑顔で言う。


「おやすみ」と咲良は自分から奏空の額に口づけた。すると奏空が「咲良ーおやすみー」と胸の辺りに抱きついてきた。


(あー何だろ?大人っぽいかと思えばめちゃくちゃ子供だしー・・・)


ま、いいかと咲良は奏空の背中に手を置いて目を閉じた。


(ん?でも待てよ?)と咲良は目を開けた。奏空と結婚したら天城咲良になるの?おまけに利成がお父さん?


それはちょっとヤバくない?・・・と一人思う。


あーでも、ま、いいか・・・考えると疲れるし・・・。


── ま、きっと奏空がいるから大丈夫だね・・・・・・。

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