針の筵の湯治
例によってあとがきにAIの挿絵が(ry
ちょっと露出多めなので注意。
訓練(?)が終わった後、汗まみれの体を綺麗にするために村の銭湯へ足を運んだ。
普段は濡らした布で体を拭いて垢を落とす程度で済ませているけど、たまにはちょっと贅沢しよう。
というか、最初に石を投げまくって体を酷使してたせいか全身が痛いとか言い出したから、湯治させることにした。
ここには温泉があって疲労や筋肉痛によく効くから今のお姉さんを癒すには最適でしょうね。
「あぅあぅあぅ、からだじゅうがいだいぃ……!」
「筋肉痛? それにしちゃ、いくらなんでも痛み出すのが早すぎないかしら……?」
「なんでだろうねぇ……? あだだだだ?! なんかもう歩くだけでふとももからすねあたりまで全部痛いんだけど!? ふくらはぎもむこうずねもえぐれそうなくらい痛い!」
「はいはい。お風呂に入った後でほぐしてあげるから、早く行きましょう」
普段あまり運動してない反動が出てるっぽいわね。
これ以上騒がれても鬱陶しいし、さっさと湯舟に向かいましょうか。
てか、やたら足の部位の呼び方にくわしいわね……。
女湯のほうへ入って脱衣所で脱いで、先に打たせ湯で体を洗い、湯船へ入ろうとしたところで、妙な違和感。
……?
なんだか、気のせいか周りから視線を感じるような……。
いや、私じゃなくて私の後ろを見ている……?
「エッッ!? デッッッ……!!」
「なによあの胸、ヤバすぎ」
「……あそこまで立派だと、羨ましいとすら感じなくなってくるわ」
「背ぇたっか! 腰ほっそ!? 胸でっっか?! スタイル良すぎでしょ!?」
湯船に浸かっている人たちが私の後ろ、つまりお姉さんのほうを見て唖然としながらそんな声を漏らしているのが聞こえてくる。
……うん、まあ、気持ちは分かるわ。
ってか、下だけじゃなくてちょっとは上も隠しなさいよ。タオルの面積足りてないわよ。
「? なんか驚いてるみたいだけど、どうしたのかな?」
「……気にする必要ないわ。いいから入りましょ」
同性しかいないとはいえ、早く湯船に入らないと目の毒だ。
……ホント、見た目だけならとんでもない破壊力なのよねこの人。
村で男の人とすれ違ったら、みんな振り返って二度見するくらいだし。
「あ゛あ~~いきかえる~~……!」
軽く体を洗って湯船に入ると、冷えたエールを呷ったオッサンみたいな声を上げた。
赤面しながら蕩けた顔で肩まで浸かっていて、なんとも幸せそうだ。
その様子を見て、周りの人たちの視線がますます強くなったような気が……? どうしたのかしら。
「うわ、すっご」
「う、浮いておる……!」
「デカすぎるでしょ……ていうか、色と形も綺麗すぎてなんかもう引くわ……」
浮いてる? 何が?
……って、お、おぅ……浮いてる……。
確かに、お姉さんの目の前にご立派なものが二つほど湯船に浮かんでいらっしゃる。
そりゃ注目集めるのも無理ないわ。誰だって凝視するわこんなの。
こんなプロポーションの暴力みたいな体型してるのを周りからやっかまれやしないかと心配になりそうだけど、むしろ綺麗すぎて軽く引かれてる。
アレだ、無茶苦茶に美化されて描かれた美人の肖像画を見ても妬んだりする気持ちが湧いてこないように、あまりに整い過ぎてる容姿だと羨む気すら起きなくなってくるのかしら。
でもそれはそれとして皆めっちゃ見てくる。それはもうものすごく凝視してくる。
隣にいる私、針の筵なんですけど。
せっかくの銭湯なのに、ゆっくりとお湯に浸かるのがこんなにつらいなんて。
……早く上がりたいなぁ。
周囲の視線に耐えながらしばらく湯船で体を温めて、軽くのぼせそうになったくらいで上がった。
たまの贅沢なんだし、なんだかんだで長湯しちゃったわね。
「ポエルちゃ~ん」
「? なによ? ……っ!?」
湯上りに休憩スペースで涼んでいると、顔面に熱く柔らかな感触が襲い掛かってきた。
お姉さんがなぜか下着姿のままハグしてきたみたいだ。
「……暑苦しいんだけど。なんで服を着てないの?」
「服があると揉むのに邪魔でしょ?」
「もっ……!? いや、なんで!?」
「え? お風呂入ったら揉んでほぐしてくれるって言ってたじゃん。まだ足が痛いから揉んでよー」
「え……あ、ああ、ええ、そうだったわね、うん」
「? どうしたのー?」
「……なんでもないわ」
……我ながら何考えてるのかしら。死にたい。
いや、違うのよ。顔面に押し付けられながら揉むとかどうとか言われて変な連想してしまっただけで決してこのでっかいのを揉んでみたいとか考えてたわけじゃ(ry
……さっさとマッサージを終わらせて帰ろう。なんかもう、心が疲れてきたわ。
それにしても、あれだけ石を投げていて腕より足が痛いってどういうことなのかしら。
「腕も痛いけど、なーんか足の痛みのほうがつらいんだよぅ……もう、歩くたびにしくしく痛むのー……」
「あれだけ勢いよく踏み込みながら全力で投げてれば無理もないわ。一回も的に当たってなかったけど」
「うにゅ……」
「とりあえず放して。抱き着かれたままじゃマッサージできないでしょうが」
「ほいほーい」
「そっちに座って。まずは足から、……?」
椅子に座らせて、まずは足から揉んでいこうとしたところで、それに気づいた。
お姉さんの下腹部、ヘソの下あたりに入れ墨のような模様がある。
「ポエルちゃん、どうしたの? 私のお腹ずっと見てるけど」
「そのお腹の模様、何?」
「もよう? ……あーこのラクガキ? なんなんだろうねぇ?」
「『なんなんだろうね』って、自分でも分かってないのね……」
禍々しいような、それでいてどこか荘厳さを感じさせる謎の模様。いや、紋様と言うべきか。
朱く左右対称のソレは、刻まれている部分のせいか妙に卑猥な印象を覚えた。
「変なラクガキだけど、ぼんやり光ってて綺麗だよねぇコレ」
「は? ……うわ、よく見たらホントに光ってる……!?」
「フシギだねー、アハハッ」
「アハハじゃないわよ! どう見てもまともなもんじゃないでしょうが! それ、大丈夫なの!?」
「んー、別に変な感じはしないけどねー。熱くも痛くもないし、気にしなきゃ平気だよ?」
「本当かしら……?」
……ここにきてまた新たな情報が追加されてしまった。ヘソの下に謎の光る紋様アリ。詳細不明。
もうお姉さんの謎が増えるのはお腹いっぱいなんだけど。どうなってるのよこの人。
「他の人に見られたらどう思われるか分かったもんじゃないわ。早く隠しなさい」
「う、うん……ぬぐぐっ……! こ、こんな感じ……?」
「そうそう……って、パンツを無理やり引き上げて隠そうとするな! 服を着ろって言ってんのよ!!」
「うぐぐ、くい込んで痛いぃ……!」
もうやだ。
この人、見た目は女神の彫刻かってくらい綺麗なくせに、行動と言動が幼稚すぎるんですけど……。
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ポエルさんがお連れしていた方の加護を調べていますが、鑑定紙の大部分が赤く塗り潰されていてまともに調べることができていません。
辛うじて端の部分に加護の図形の特徴が残っているのですが、それもごく一部だけで判断が難しい。
心が折れそうです。
地道な作業の末にやっと一つ照合確認できたと思ったのですが、正直言って眉唾物です。
希少過ぎてほとんど例がない加護ですし、おそらく複数の加護の模様が重なってそれっぽく見えているだけでしょう。
うぅ、先が見えない作業はつらいものですね……。
でも、悪いことばかりでもありません。
雷草の毒で手がかぶれていたのですが、ポエルさんたちが帰ったあたりで急に痛みとかゆみが治まり、翌日には肌も完治していました。
多分、雷草の毒が通常よりも弱いものだったのでしょう。神の思召しですね。
『あるいは……』と思いそうになりますが、でも、もしもそうならポエルさんの傍に居た彼女は……。
もしも彼女がその加護を持っていたとしても、誰にも伝えないほうがいいでしょう。
それを公開することは決して彼女のためにはならないと、私は知っている。
……嫌というほどに。
しかし、もしもその加護に頼らざるを得なくなった時には……。