その胸の旨を伝えた結果無念
あとがきにお姉さんのキャラ紹介アリ
例によってAI絵、それもデカい胸の表現があるので注意。
あと、今後は第一章が終わるまでは毎日午前7時くらいに1話ずつ投稿する予定です。
お姉さんを拾った翌日。
いつものように井戸から水を汲んできて顔を洗い、昨日のシチューの残りが入った鍋を温めなおして朝食の準備を始めた。
昨日拾ったお姉さんの情報を確認するために、お父さんは朝から村長の家まで足を運んでいる。
近所の人たちはどこもお姉さんに心当たりがないと言っていたから、村長から村中へ伝達してもらうほうが早く見つかるだろうからと言っていた。
……でも、あんな目立つ人が村にいたら絶対知ってると思うんだけどなぁ。
やっぱり村の外から来たんだと思うけれど、それならいったいどこから……?
「だ~れだ?」
思考に耽りながらかまどの火を調整しているところで、そんな声が聞こえたかと思ったら視界が塞がり、モニュリと後頭部に柔らかな圧迫感を覚えた。
……この、妙に包容力のある感触は……。
「……お姉さん、火を起こしてる時に目を塞ぐのはやめて。危ないじゃないの」
「なぬ!? なんで分かったの!?」
「こんなバカな真似するのアンタくらいしかいないでしょうが」
頭に胸を押し付けながら目を塞いできたのは、昨日拾って帰ったお姉さんだった。
……ホント無駄にデカいわね。頭がすっぽり間に収まって妙に心地がいいのが逆に腹立つわ。
「アンタも顔を洗いなさい。流し台はそっちよ」
「ほいほーい。……うわ、冷たっ!? おおお、冷たすぎておめめパッチリ!」
「はいはい。はぁ、うるさ……」
朝から無駄に元気なお姉さんの相手をしてるうちに、ウンザリしてくる反面こっちも頭が冴えてきた。
こんなふうに騒がしい朝はいつ以来だろうか。
お母さんが病気にかかってから、家の中はいつも静まり返っていたのに……。
シチューを温めながらしばらく佇んでいると、お母さんの寝室の扉が開いた。
いつもは一日中寝たきりのはずのお母さんが、昨日のように台所まで足を運んできたみたいだ。
「おはよう。……いい匂いがするわね、シチューかしら?」
「! お母さん、寝てなくて大丈夫なの? 無理しないほうが……」
「それがねぇ、一晩眠ったらなんだか体が軽くなっていて、息苦しさも感じないの。少し体調がよくなったみたいだわ」
「そ、そうなの……?」
心配させないように空元気で無理してるんじゃ、と思ったけれど、どうも違うらしい。
昨日まで青白かった顔が、赤みがさして明らかによくなっている。
まさか、本当に回復しているの?
「ただ、ここのところあまり食べていなかったせいか、すごくお腹が空いているの」
「ならいっぱい食べないと。待ってて、もうすぐシチューが温まるから」
「ええ、ありがとね」
……どうしてなのかは分からないけれど、本当にお母さんの体調は改善し始めているみたいだ。
このまま治ってくれればいいけど……でも、余命幾許もないって医者は言っていたのに、こんな急によくなることなんてありえるのかな……?
内心不安に思いつつも、とりあえずは朝食を食べることにした。
お母さんのお皿には、滋養たっぷりのトラ肉を多めに入れておいた。
お母さんがシチューの中のお肉を一口食べると、少し顔を見開きながら話しかけてきた。
「あら、このお肉初めて食べる味だけれど、なんのお肉かしら?」
「トラの肉よ」
「え、トラ? このあたりにトラなんていたかしら……?」
「この人を追い掛け回していたのを仕留めたのよ。トラもこのお姉さんもどこからきたのか全然分からないの」
「フシギだよねーアハハ。あ、シチューおかわり!」
「自分でよそいなさい」
呑気に笑いながらおかわりを要求してきたのを軽くあしらっておく。
他人事みたいに言うのは止めなさい。アンタにとっては死活問題でしょうが。
「トラのお肉って、ちょっとクセがあるけど美味しいわね。私もおかわりを頼めるかしら」
「! ……うん、いっぱい食べてね」
「私の時とたいおーが違うー!? ふこーへーだー!」
驚いた。
昨日までは薄めたスープを一杯飲むことすらつらそうだったのに、今日は朝からおかわりまでするなんて。
このままだと何も食べられなくなって死んじゃうんじゃないかって心配していたけれど、食欲も回復してきているみたいでちょっと安心した。
あとお姉さんうるさい。黙って食え。
「ところで、ええと……聞くのが遅れたけれど、あなた、お名前は?」
「ふぇ? んー……ダメだ、やっぱり思い出せないや。アハハ」
朝ご飯を食べ終わって一息ついたところで、お母さんがお姉さんへ名前を尋ねた。
それをキョトンとしたような顔で聞いたかと思ったら、また呑気にヘラヘラと笑いながら軽く笑った。
「名前も思い出せないのは不便ねぇ」
「今のところ困ってないから別にいいけどねー」
「身寄りの人が見つかれば思い出せるでしょ。お父さんが村長のところまで行って回覧や呼びかけをして探してもらうように頼んでるから、きっと見つかるわよ。多分」
一応、口ではそう言っておくけれど、正直言って見つからない可能性のほうが高いと思う。
こんな目立つ胸……もとい目立つ人が今まで村の中で話題にならなかったということは、十中八九村の外の人間だろうし。
仮になんの情報も得られなかった時には、このお姉さんを助けた森の中をくまなく探さない限り、手がかりを見つけることは難しいだろう。
私がお姉さんを見つけたのはいつも薬草を摘んでいるあたりだったけど、お姉さんはさらに森の奥のほうから走ってきているように見えた。
あれ以上奥のほうへは私も足を踏み入れたことがないけれど、あの先には何があるんだろう……。
「それにしても、まさかクマやイノシシじゃなくてトラが出てくるなんてねぇ……怪我はしなかった?」
「大丈夫よ。あのトラより普段から狩ってるクマのほうが強いくらいだったわ」
「トラにガオーってガブガブされそうになって、もうダメだーってなった時にポエルちゃんが助けてくれたの。すっごいカッコよかった!」
「あらあら、まるでお姫様を助ける王子様みたいな登場の仕方だったのね」
「誰が王子よ。成り行きで助けただけだってば」
「え、おーじさま? ポエルちゃんって男の子なの?」
「女に決まってるでしょうが! どこをどう見たら男に見えるのよ!?」
「あらあら、ふふっ……」
あんまりにもあんまりな勘違いをするお姉さんに憤慨しながらツッコむと、お母さんが機嫌よさそうに笑った。
ああくそ、お母さんが元気になり始めてるのは嬉しいけどなんか釈然としない……!
しばらくそんな具合で駄弁りながら休んでいると、玄関のドアが開いた。
「ただいま。戻ったぞー」
どうやら村長の家へ行っていたお父さんが帰ってきたらしい。
少し疲れたような様子でリビングに顔を出したところで、お母さんの顔を見て驚きの表情を浮かべた。
「おかえりなさい、ジョーイ」
「あ、ああ……ってアンナ!? おいおい、起きていて大丈夫なのか!? あまり無理をするとまた具合が……」
「平気よ。今日の朝になって急に体の調子がよくなってきたの。咳も出ないし、だるさも大分マシになったわ」
「そ、そうか……! よかった、本当に良かった……!」
目に涙を浮かべながら、お父さんがお母さんに抱き着いた。
互いに背中をさすりながら、顔をくしゃくしゃにして泣き笑いしている。
その光景を見ていると、思わず私も嬉しくて泣きそうになってきた。
でも、いったいどうしてお母さんは元気になったんだろうか。
トラのお肉が薬になったとか? いや、お肉を食べたのは今日の朝になってからだし、多分違う。
他に何か大きな変化といったら、お姉さんがここにいることくらいだけれど……。
まさか、この人が何かしたのかしら?
「よがっだねぇぇ……ほんどによがっだぁぁ……!」
……他人事のはずなのになぜか嬉し泣きしているお姉さんを見て、多分関係ないと思うことにした。
別に何か根拠があるわけじゃないけど、なんとなく。
黙っていればものすごい美人なのに、すぐ泣いたりバカみたいに笑ったり……私とこの人、どっちのほうが子供か分からなくなってくるわ。
「あなた、そろそろ離れて。気持ちは嬉しいけれど、ちょっと痛いわ……」
「あ、すまん。だが、元気になってくれて安心したよ。顔色も随分よくなっているじゃないか」
「ええ。この調子なら、少し休めばまた元通りの生活に戻れそうだわ。……ところで、この人のことを尋ねに村長のお宅まで行っていたみたいだけれど、どうだった?」
「あー、村長も心当たりがないそうだ。一応、村全体に呼びかけはしてくれるみたいだが、おそらく誰も知らないと思うって言ってたよ」
やっぱりか。そんな気はしてたわ。
……そのへんに放っておくわけにもいかないし、しばらくはウチで面倒を見るしかなさそうね。
「ちなみにどんなふうに伝えたの?」
「金髪に灰色の瞳で背が高くて、とても胸が大きくて左の胸に小さなホクロが―――」
「あ な た ? やけに胸の特徴を強調してるようだけど、どういうことかしら?」
「ひぃい!? ち、違う、誤解だ! 少しでも細かい情報を伝えようとしただけで あいたたた! 耳を引っ張らないでくれ! 千切れてしま いだだだだだ?!!」
……お父さん、お姉さんに対して紳士的な対応してるなぁと思ってたのに、内心鼻の下伸ばしてしっかり見るとこ見てたわけね。男なんて皆こんなもんなのか。
言われるまで気が付かなかったけど、よく見れば確かに左の胸に小さなホクロがあるのが分かる。
ただ、そのせいで美観が悪くなっているということはなく、むしろこれはこれでチャームポイントに感じる人も多いんじゃないかしら。
「ポエルちゃん、どうしたの?」
「……なんでもないわ」
ジッと胸を見ていたからか、怪訝そうな顔で声をかけられてしまった。
ホントに何を食べて生きてたらこんなに大きく育つのかしら……。
「これ、気になるの? さわる?」
「触んないわよ!!」
くそ、無駄にデカいもんたぷたぷと揺らしやがって!
羨ましくなんかないぞ! ホントに!
おねロリのおねのほうの『お姉さん』。
本名不明。正体不明。記憶喪失でなにも持っていない。ないないづくしのないづくし。
ただしデカい。そりゃもうとにかくデカい。身長は185cm超えるくらいデカいし、多分バストも100を超えている。
艶があって彩度の低い金髪をツーサイドアップに結んでいる。目は銀色、というよりもくすんだような灰色。
親しい相手に抱き着く癖があるようで、ことあるごとにポエルがハグされて窒息するハメに。代われ。
記憶喪失のせいか元々からこんな感じなのか、小さな子供のように言動が幼く底抜けに明るい。
ドジでよくコケて鼻血をだすこともしばしば。ただ、まともに走れば足は速い。トラと森の中で追いかけっこできるくらい速い。
目立った長所がないことを本人も気にしていて落ち込んだりすることもあるが、基本的に元気。というか落ち込んでも事態は好転しないことを悟っているらしい。
その明るさとドジでバカな様子、そしてその暴力的なまでのプロポーションが奇妙なギャップを生んでいて、関わった人間はお姉さんに対して警戒する気が失せる模様。
しかし、彼女が得体の知れない人間であることには変わりない。
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