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世界の平和のために



「このポンコツが服着て歩いてコケてるようなお姉さんが人類の希望とか言われても、正直言って疑惑の念しか湧いてこないんだけど」


「なんかサラッとひどいこと言ってない?」


「お気持ちは分かります。実際、私も疑問に思うことが多々ありますし」


「ひどくない? ねぇひどくない?」



 珍しく真顔でツッコミを入れてくるお姉さんはスルーして、話をまとめましょうか。

 コラ、いじけるな。アンタの話なんだからしっかり聞きなさい。



「ぶー……どーせ私はドジでポンコツですよー……ポエルちゃんはともかくシスターさんまでひどいよー」


「いえ、そういうつもりで言ったわけでは……すみません、誤解を招くような言い方をしてしまいましたね」


「? 他になんか変だって思うことでもあるの?」


「はい。そもそも、オクリビトとは同じ時代にただ一人だけの存在であると言われています」


「……一人だけ? え、じゃあお姉さん以外にオクリビトはいないってことなの!?」



 嘘でしょ、それじゃあ魔族を倒せるのはこの人だけってことになるじゃないの!?

 あーもうダメだわ。滅ぶわこの世界。終わったわ。



「それが……奇妙なことに『王都ホープタリア』にある協会本部にて、既にオクリビトの存在が公表されているそうです」


「え、王都で? そんな話聞いたことないけど?」


「ここは辺境の小さな村ですから、ほとんど情報が入ってこないのも無理はないでしょう。私は本部からの通達で知りましたが」


「いつから知っていたの?」


「村を魔物が襲った日の深夜です。……あの時にオクリビトの存在を伝えなかったのは、皆さんに余計な不安を抱かせたくなかったのです」



 んー……まあ、確かにここから王都までは無茶苦茶距離が離れてるし、この村にまで助けが来ることを期待するのは難しいでしょうね。

 そう考えると、最初から余計な情報を言わないで避難や防衛に徹するのも……。



「……いや、さすがにそれは伝えておくべきだったと思うわよ。魔族たちが復活した以上、どのみちオクリビトの存在は公表されていたでしょうに」


「時期を考えるとどうかと思ったのですが、私の判断は間違っていたのでしょうか……」


「変なほうへ気を使い過ぎよ。村の人たちはそれくらいで絶望するほど弱くないわ。多少ゴチャゴチャ狼狽えることはあっても、なんだかんだでどうにかなるわよ」


「そうでしょうか……」



 シスターなりに色々考えていたんでしょうけれど、せめて誰かに相談してから公表するかしないか決めておくべきだったんじゃ……いや、無理か。

 この村の教会の管理はシスター一人でやってたし、あの村長に相談しようにも『そんなもんそっちで決めてくれ』って言われるに決まってるわ。

 あの村長、基本的に村人の意見や多数決のまとめ役くらいしかやらないし。フットワークは軽いけど。 



「それはさておき、一人しかいないはずのオクリビトが王都にもいるって言ってたけど……もしかしてニセモノだったりする?」


「いいえ。王都のオクリビトも既に魔族を倒し、魂を取り込んだ実績があるそうです。……というよりも、その現場を見た教会関係者から存在が発覚したようですが」


「教会が用意したプロパガンダってわけでもないってわけか。じゃあ、二人ともホンモノのオクリビトってことでいいのかしら?」


「信じがたいですが、そのようです」


「そう……まあ、どっちかっていうと、この人のほうがニセモノっぽいけどねー……」


「なんだか知らないうちにニセモノ呼ばわりされてるーつらいーひどいー」



 ……ここでゴチャゴチャ言ってても、情報不足で何も分からないわね。

 今まで一人だけしかいなかったのが今回はたまたま二人いたってことで結論を出して、この件については一旦置いておきましょうか。







「少々話が他の方へ向いてしまいましたが、オクリビトの特性についてもう少しお話をしておきましょうか」


「えー、まだお話するのー? 長いよぅ」


「アンタの話でしょうが! 少しは堪えなさい!」


「もう少しですから頑張ってください。……もう一度おさらいしますと、魔族が人の魂を喰らうように、オクリビトも魔族の魂を吸収することができます」


「うん、さっき聞いたー」



 あ、一応話の内容は聞いてたのね。

 全部耳の右から左へ素通りしてるかと思ってたわ。



「魔族は人の魂を糧として『呪福』を成長させます。ならば、オクリビトが取り込んだ魔族の魂はどうなるでしょうか?」


「……え? えーと……わかんない」


「……『加護』の強化や進化のために消費される、とか?」


「その通り。あるいは、新たな加護を獲得するための対価として使用されることもあるそうです」


「ってことは、もしも複数の魔族を倒して魂を吸収できれば……」


「強力な加護を複数所有する、特別な存在にもなれるでしょう」



 なるほど、合点がいったわ。

 お姉さんが加護を複数持ってる理由はそれか。

 『浄血』なんて希少な加護があるのも、オクリビトの特性で獲得したってわけなのね。


 ……あれ? でもなんか、おかしくない?



「でも、それは魔族の魂を吸収したらの話でしょ? 魔族を倒す前からお姉さんは『浄血』とかの複数の加護を持ってたわよ?」


「そこが疑問なのです。魔族の魂を多く取り込んだオクリビトでなければありえないはずなのに、なぜ魔族が復活する前から強力な加護を含めて複数持っているのか……」


「なんだか、情報を整理するごとにどんどん得体が知れなくなっていくわねこの人……」


「人のことオバケかユーレイみたいに言うのやめてくれない!? 泣いちゃうよ!?」



 オバケのほうがシスターにお祓いしてもらえばいい分まだマシよ。

 出生不明正体不明人類の救世主兼ポンコツ万能血液塗り薬とかもう情報量が多すぎてどう扱えばいいのか分かんないわ。






「浄血の加護や魔族とオクリビトについてのお話は分かったけれど、結局お姉さんはどうするべきなのかしら?」


「お嬢さんの身の安全を考えれば、浄血の加護もオクリビトだということも公表すべきではないと思います」


「あー、まあそれが無難でしょうね。浄血の加護は教会に目を付けられるらしいし、オクリビトって言ってもお姉さんポンコツすぎてまともに戦えないから、普通に殺されちゃうわ」


「うぐゅ……なにも言い返せないぃ……」


「しかし、お嬢さんが自身の出生を知りたいのであればそうも言っていられないのかもしれませんが……」


「んー、私は別にそんなに困ってないけどねー。……ポエルちゃんやパパさんとママさんにはいつも助けられてばっかりだけど……ポエルちゃんはどう思う? 私、どうしたらいいのかな……」


「は? いや、なんで私に―――」














「お話の最中、失礼しますよ」




「!?」


「なっ……!」



 会話の途中で バタンッ と勢いよく教会の扉が開かれるのと同時に、誰かの声が聞こえた。

 聞き覚えのない声だ。いったい誰だろうと振り返ると、赤い修道服に身を包んだ男性が足を踏み入れていた。



「ごきげんよう、シスター・アリス。魔族に襲われたと聞いていましたが、お元気そうでなにより」


「バドル枢機卿……! なぜ、こちらに……!?」


「なに、監視鳥の報告を受けて馳せ参じたのですよ。でなければこのようなところにまで足を運ぶこともなかったでしょうが」


「監視鳥……?」



 明らかに焦りを浮かべた表情で、シスターが冷や汗をかいている。

 このバドルって人、見たところ教会関係の偉い人っぽいけど、今まで見たこともないのになぜこんなタイミングで……?



「教会が飼っている諜報用の白い小鳥ですよ。末端の教会員は知らないでしょうが、教会のある街や集落には必ず監視が一羽はついているのです」


「あ、もしかしてずっとこっちを見てたあの白いトリちゃんのこと?」


「は!? ちょっと待って、こっちを見てたってどういうことよ!?」


「んー、なんか魔族さんが死んじゃったくらいから、ずーっと私を見てる子がいるの。ほら、あの子」



 お姉さんが指さしたほうを見ると、窓の外にスズメみたいな小さな白い鳥が、遠くからこちらを向いているのが分かった。

 あれが、監視? ……まさか、あれからずっと見られてたっていうの!?



「そういうことは早く言いなさいよ! なに呑気に放置してんのよアンタは!」


「ご、ごめん……」


「ほほう、よもや気づいておられたとは。いやはや、さすがはオクリビトといったところですかな」


「……っ!!」

 


 まずい、バレてる!

 この男、バドルは教会の人間だ。おそらくオクリビトの、お姉さんの身柄を確保するためにここまで来たんだわ!



「シスター・アリス。オクリビトらしき者が現れたのであれば、最優先で報告すべきでしょう。毎日の定時連絡が入っているということは、通信魔具は壊れていないはずですよ」


「か、彼女はオクリビトでは……」


「常に監視していると言ったでしょう。そこのお嬢さんが魔族の魂を吸収したという情報も既に監視役から告げられています」


「っ……」



 シスターが庇おうとしたけれど、すぐに証拠は掴まれていることを告げられた。

 言い逃れはできないってわけね。



「さて、お嬢さん。単刀直入に用件を伝えましょうか。……我々とともに来ていただきますよ。全ては世界の平和のために」



 赤い修道服を靡かせ手を横に大きく広げながら高らかにそう告げるバドルの背後から、ゾロゾロと黒い修道服を纏った連中が入り込んできた。

 歩き方や仕草だけで分かる。こいつら、強いわ。

 村の衛兵たちの比じゃない。多分、一人一人が衛兵長に匹敵するくらいの手練れだ。

 ……参ったわねぇ、どうしたもんかしら。


 お読みいただきありがとうございます。

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