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各々のやるべきことを


 近いうちに魔族たちが村を襲いにくる。

 それに対し、避難するべきか立ち向かうべきか。


 大人たちが長々と話していたけれど、結局今日のうちに結論は出なかった。

 ただ、どちらにしてもそれ相応の準備が必要になる。



 立ち向かうのなら、防衛のためのバリケード強化や武器や罠なんかの準備が。


 避難するのなら、運び出す資材の確認や馬車なんかの移動手段の確保。



 ……そして、残る者と避難する者に分かれるための話し合いも。




「残るとすれば俺だ。明日から避難用の馬車が出始めるから、お前たちはお嬢と一緒に避難しろ」


「あ、あなたも一緒に避難できないの!? ジョーイは戦うことなんてできないでしょう!」


「それでも、男だ。馬車や獣車の数を考えると、おそらくどう詰め込んでも、女子供だけでギリギリになるだろう」


「そんな……! せ、せっかく元気になったのに、やっとまた皆で平和に暮らせるようになったのに、なんでっ……!」


「俺もお前たちと別れたくなんかない……! 分かってくれ、お前たちが大事だからこそ危険に晒したくないんだ!」


「なら私も残るわ! あなた一人を残していくなんて冗談じゃないわよ!」


「ダメだ! ポエルとお嬢をどうするつもりだ! お前までいなくなったらこの子たちは……」



 帰宅後、お父さんとお母さんがずっとこんな調子で言い争っている。

 互いに譲らず怒鳴り合っているけれど、そこに相手への憎しみなんか微塵もない。

 お互いのことを本当に大切に思っているからこそ、語気を強くして声を荒げているんだろう。


 ……私も、自分の意見を言うべきでしょうね。



「お父さん、残るなら私でしょ。衛兵たちが手も足も出なかった魔物を倒せたし、私が残ったほうが戦力に―――」


「絶対にダメだ!! 子供を残して逃げる親がいてたまるか!!」

「ダメに決まっているでしょう!!」



 ……二人同時に大声で却下されてしまった。

 さっきまで言い争ってたのに、私が残るって言い出したら意見が合うんだから。もう……。



「えーと……じゃあ、私がのこるー!」


「アンタは引っ込んでなさい。邪魔よ」


「ひどくない!?」



 空気を読んでか読まずか、お姉さんまで混ざってくる始末。

 アンタが一番残る意味がないでしょうが。

 いや、この人がいると避難に使う馬車の席が一人分埋まるのも事実だけど。



「だってさー……パパさんが逃げられなくなっちゃってるのは、私のがいるせいで馬車の席が足りてないってことでしょ?」


「!」


「じゃあ、私が残らないといけないんじゃないかって思ったから……」


「それは……」



 ……自覚してたのね。

 口に出すほどでもない、頭にチラッとよぎってしまった考えを、お姉さんは自ら提案してきた。



「お嬢、それは違う。さっきはああ言ったが一人や二人くらいなら、その気になれば馬車の上に括り付けでもすれば無理やり乗せられる。お嬢がいるせいで誰かが逃げられないなんてことにはならないから安心してくれ」


「え、じゃあなんでパパさんは逃げないの?」


「他の家にも男手はいる。彼らだって妻や子供と一緒に逃げたいに決まってるだろう。そんな中、俺だけが逃げるわけにはいかないんだ。……皆、これまで苦難を乗り越えるために助け合ってきた仲間だ。見捨てるような真似はできない」


「ふーん」



 ふーんって……。

 分かってるのか分かってないのか、酷く軽い返事をするお姉さん。

 でも、その場のノリで残るとか言い出したのかと思ったら割と考えて話していたし、それなりに責任を感じているのかな。



「なに、心配しなくていい。本当に魔族が襲ってくるとは限らないし、もしも襲撃を受けてもあの衛兵長がついている。きっと大丈夫だ」


「なら、私たちが残っても大丈夫ってこと?」


「……万が一に備えて、だ。いいから、お前たちは避難の準備を進めておいてくれ。俺はバリケードを張ったりすることの相談に行ってくる」


「あ、ちょっと! まだ話は終わってないわよ! あなた!」



 早々に話を切り上げて、お父さんは玄関から足早に出て行ってしまった。

 お母さんの制止を振り切って、視線一つこちらに向けないままに。


 ……背中を見せて行ってしまうお父さんは、今どんな顔をしているんだろうか。



「……私は諦めないわよ。たとえジョーイを締め上げてでも、一緒に避難してみせるわ……!」


「ママさん、心配なのは分かるけどちょっと怖い……」


「お母さん、無茶は止めて。締め落とすのは私がやるわ」


「ポエルちゃんも怖い。シメるの止めるどころか自分でやろうとしてて怖い。しかも上げずに落とそうとしてて怖い」



 なんとしても家族が離れ離れにならないようにしようと、気合を入れる母子。

 それを見てお姉さんがちょっと引いてるけど無視。普段ポンコツのくせに時々ツッコミに回るのがまたなんとも言えないわねこの人。








 お母さんと一緒に避難前の荷造りをするかたわら、お父さんを縛り上げる準備を進めているうちにいつの間にか外が暗くなり始めていた。

 もう夕暮れか。……そろそろお父さんが帰ってくるころかな。



「いい? 帰ってきたらまずポエルがジョーイを押さえつけて。その間に私が眠り草の粉を吹き付けて眠らせるから、後はこの縄で縛り上げたうえで麻袋に詰め込むわよ」


「それで何食わぬ顔でお父さんを荷物と一緒に運び出して避難する。これでいいわよね?」


「ええ、完璧よ!」


「……いいのかなー……」



 縛り上げるための縄やらなんやらを準備しながら、お母さんと作戦を確認する。

 なんだか私もお母さんもテンションがおかしくなっている気がするけれど、この際お父さんを助けるためならどんな無茶でもゴリ押しでやり通してやるわ。

 ……その様子を見ていたお姉さんに、ジト目で何か言いたげな顔をされてるのがいたたまれないけれど。




 あとはお父さんが帰ってくるのを待つだけ。

 緊張するような待ち遠しいような、なんとも言えない心境で備えていると、外から誰かが走っているような足音が近付いてくるのが分かった。



「足音がするわね、ジョーイが帰ってきたのかしら」


「なんだか急いでいるみたいね。……あれ? 足音が複数聞こえるような……」



 足音が家のすぐ近くまできたところで、急にドアが勢いよく乱暴に開かれた。

 入ってきたのは、三人分の小さな人影。



「はぁ、はぁ、お、おい、ゴリラ! たいへんだ!!」


「誰がゴリラよ! ぶっ飛ばすわよ! ……って、ガキんちょたちじゃないの。どうしたの?」

 


 普段、私のことをゴリラだのなんだの言ってからかってくるチビたちが、息を切らせながら家の中に入ってきた。

 家まで訪ねてくることなんか滅多にないのに、何があったのかしら。



「ま、魔族が……!!」


「……え?」


「まぞくがでた!! むらに、まぞくがはいってきたんだ!!」



 チビたちの口から発せられた言葉に、頭が追い付かなかった。

 魔族が、村の中に入ってきた……!?



「タチの悪い嘘を吐くのはやめなさい! 冗談にしても言っていいことと悪いことが……」


「嘘じゃねぇよ! 頼む、信じてくれ!!」


「っ……」



 いつもふざけてこちらをからかってくるガキんちょたちが、鬼気迫る表情でそんなことを告げてきた。

 嘘に決まってる。そう言いたかったけれど、頭まで下げて真摯にそう言う姿は決してふざけているようには見えない。



「いま、えーへーたちがたたかってるけど、ぜんぜんかなわねぇ!」


「魔族と戦ってると、なぜかみんな急に固まって倒れちまうんだ!」


「ゴリラなら、お前ならあの魔族をぶっ倒せるかもしれねぇって思ったから、呼びに来た!!」


「衛兵長はどうしたの!? あの人なら、魔族相手でも戦えるんじゃないの!?」


「えーへーちょーは、いっしょにでてきたべつのまものとたたかってるっていってた!」


「くっ……!」



 衛兵長を魔物に釘付けにしておいて、その間に魔族が村人たちを襲おうって魂胆か。

 昨日戦った魔物と同じくらいの強さなら、並の衛兵じゃ歯が立たない。


 衛兵長が魔物を倒して魔族と戦えるようになるまで、どれだけ時間がかかるか分からない。

 その間に、どれほどの被害が……!


 ……仕方ない。



「魔族はどこにいるの!?」


「広場だよ! 大人たちが話し合ってるところに、突然出てきた! ゴリラの父ちゃんもそこにいると思う!」


「お父さんが……!?」



 それを聞いて、思わずお父さんが魔族に襲われるところを想像してしまった。

 あのか弱いお父さんが、あんな凶暴な魔物を飼っているという魔族に太刀打ちできるわけがない!



「広場ってどこの広場!?」


「え、ええと……!」


「あの……花壇がある……いや、花壇はどこの広場にもあるけど……!」


「ああもう! お母さんはお姉さんと一緒に避難して! ガキんちょたち、案内しなさい!」


「ポエル!? 行っては駄目よ、危険すぎるわ!」


「もう村の中に入っているのなら、私がなんとかしないと。大丈夫、衛兵長が来るまでの時間稼ぎくらいならできるはずだから。……行ってきます!」


「ポエル!!」



 悲痛な声で止めようとするお母さんの声を尻目に、ガキんちょたちと一緒に家を飛び出した。

 心配かけて申し訳ないけれど、今の状況じゃ私が動くのが一番被害を抑えられるはず。



 お願い、なんとか間に合って……!!









 ~~~~~









「ああ、ポエル……ジョーイ……!」



 つらそうな顔をしながら出て行ったポエルちゃんを見て、ママさんが泣いている。

 ママさんまで一緒に走って追いかけようとしたときにはどうしようかと思ったけれど、息が続かなくてすぐにへたりこんじゃった。

 体が弱いんだから、無茶しないでほしい。



「うぅ……っ? ……お嬢、ちゃん……?」


「……大丈夫だよ、ママさん」



 ママさんの顔をギュッとして、ナデナデする。

 もう泣かないでもいいように、安心できるように。



「わ、私が……私がなんとかするから!」


「ちょ、ちょっと! お嬢ちゃんまでどこへ行くの!?」



 私が、なにかをしなくちゃ。

 ホントは怖くて怖くて仕方がないけれど、私がなんとかしなくちゃ……!




 お読みいただきありがとうございます。

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